第11話 狼の群れと幼岩亀

 森の上を僅か数瞬で駆け抜けると、森の中の直径20m程の円形の草地の上空で止まった。

 そして、ゆっくり降下していった。


 草地を見下ろすと、大小様々な狼がいた。

 おおよそ30くらいの狼がいるようだ。

 その全てが白に近い色をしている。


 あいつらはお前の子供かなんかなのか? 


 “ああ、全てではないがな”


『寂しがり屋』なんて称号あるから1匹だと思ってたわ。


 “振り落とすぞ”


 冗談でございます! 


 そんな話をしていると狼は地面に着地した。

 すると、狼達はこいつに駆け寄る。……紛らわしいな。


 駆け寄ってきた狼達は狼——シュトゥ・ウルフの上に乗っている俺に気づくと威嚇してきた。

 ……とりあえず歓迎されていないことはわかった。


 “どうやら、我の背中に乗るなど無礼にも程がある! と思っているようだな”


 お、おう。とりあえず降りるわ。


 シュトゥ・ウルフの背中から飛び降りると俺を無視してシュトゥ・ウルフにこうべを垂れた。

 こいつらに取ってはシュトゥ・ウルフは神か何かなのかな? 


 見る限りでは、狼の種類は4種類だ。


*******************

ベビーウルフ:Fランク……動物系

可愛らしい狼の幼体。しかし、可愛い見た目に反して、同ランク帯では高いステータスを持つ。大半が強力な魔物に進化するため、冒険者の優先度が高い魔物。しかし、大抵群れの中にいるので近くに上位の魔物がいることが多い。愛くるしい見た目のため、貴族などがペットにすることがある。

ステータス

HP:F MP:F 攻撃:F+ 防御:F− 魔攻:F 魔防:F 敏捷:F+

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 このベビーウルフが15匹。


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ウィンド・キッズウルフ:Eランク……動物系

風の力に目覚めた狼の子供。子供と言っても既に1m程の体長を持つ。子供ではあるが、同ランク帯ではトップクラスの力を持っている。

ステータス

HP:E MP:E+ 攻撃:E 防御:E− 魔攻:E+ 魔防:E+ 敏捷:E+

*******************


 ウィンド・キッズウルフが5匹。


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ウィンド・ウルフ:Dランク……動物系

風の力に目覚めた狼の成体。子供の頃より強力になった風の力は木々をなぎ倒す程である。村一つなら1匹で壊滅させる力を持っている上に群れで活動する為危険度が高い。

ステータス

HP:D MP:D 攻撃:D+ 防御:D− 魔攻:D+ 魔防:D 敏捷:D+

*******************


 ウィンド・ウルフが5匹。


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フォレトス・ウルフ:Dランク……動物系

森に住む狼の成体。森の中でこの魔物と戦うのは自殺行為とまで言われる程森の中での戦いがうまい。かつて10匹のフォレトス・ウルフがBランクの魔物を倒したという逸話がある。

ステータス

HP:D MP: D 攻撃:D+ 防御:D− 魔攻:D 魔防:D 敏捷:D+

*******************


 フォレトス・ウルフが3匹。


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ヴィールヒ・ウルフ:Cランク……動物系

強力な風の力を持つ狼。街一つを危険に晒す程の力を有しているが基本的には1匹で行動する。しかし、より上位の魔物に従うことがある。

ステータス

HP:C MP:C+ 攻撃:C+ 防御:C− 魔攻:C+ 魔防:C 敏捷:C+

*******************


 そして、一際ヤバそうなヴィールヒ・ウルフが1匹だった。


 なにこのやばい集団。これにシュトゥ・ウルフが入るんだろ? Aランク最大レベルでも勝てねぇんじゃねぇの? 


 この集団で俺が手伝えることなんてあるのか? 


 “今から説明してやるからそう慌てるな”


 アッハイ。


 “この森が我の縄張りだということは話したな? ”


 ああ、称号にも『森の覇者』があるしな。


 “しかしだ。最近この森で勢力を拡大し始めている奴らがいる。そいつらの大掃討にキサマも加わってもらう”


 なぬ? お前と同等のクラスの奴がいるのか? この森に? 


 だとしたらどんな魔境だよ、と思った俺にシュトゥ・ウルフは反論する。


 “戯け。そんなわけがあるか。奴らのボスは恐らくBランクだろう。しかし、いかんせん配下の数が多い”


 そいつらはなんだよ? 


 “虫だ。ジャイアント・ビートルという魔物等の虫の軍団だ”


 あ、もしかして俺が狩ったラーブァ達もその仲間だったのかな。


 “恐らくそうだろう。この森の虫系の魔物は奴らしかおらん。……そういえばキサマのランクとレベルはいくつだ? ”


 ふっ、恥ずかしながらEランクのレベル1だぜ! 


 “なぬ? そこまで弱かったとは。Dランクは有ると思っていたのだが”


 すんませんね。雑魚で。レベル低いから普通にベビーに負けるぜ! 


 “弱いくせに一々カッコつけるではないわ戯けが。しょうがない、少しレベルを上げてこい。”


 そうだな。手頃なFランクを何体か狩れば進化前のステータスには追いつくだろう。たぶん。


 シュトゥ・ウルフとこちらを睨む狼達に見送られ、俺は草地を後にする。


 ……ちょっと危なそうだから逃げてぇけどあのステータスとスキルなら地獄の果てまで追いかけてきそうだし無理だな。

 ま、まぁ、強くなるキッカケと思おう。

 そこまで、強くなる理由ないけどDランクにはなりたいな。

 メタルイーターに遭遇しても殺されない程度にはなりたい。

 アイツらガラクタしか倒してないのか軒並みレベル低いから進化すれば余裕で達成できそうだ。


 そんなことを考えつつ、手頃な魔物を探して10分程ブラブラしていると前方から何かが動く草の音が聞こえた。

 何かと思って草を掻き分けて見てみるとそこには漬物石人の頭ほどの石が転がっているだけで特に何もなかった。


 あれ? 気のせいか? 


 俺は首を傾げるがふと、発動し続けていた『気配感知』が転がっている石に反応していることに気づいた。

 直後、俺が身を引いたのと石から頭が飛び出し俺に噛み付こうとしたのはほぼ同時だった。

 今の俺はかなり遅いが、それ以上に飛び出した頭が遅く、殆ど不意打ちだったが余裕を持って回避出来た。


 俺は距離を取りながら、せっかく便利な『気配感知』を発動していたのに気にかけなかった自分のアホさ加減に呆れながらステータスを確認する。


*******************

名前:

種族名:ロック・ベビータートル

状態:通常

性別:オス

LV:6/9

HP:54/54

MP:30/30

攻撃:9

防御:27

魔攻:15

魔防:21

敏捷:3

ランク:F


特性スキル:

『亀の甲羅:LV1』『擬態:LV2』


耐性スキル:

『物理耐性:LV1』『地属性耐性:LV1』


攻撃スキル:

『噛み付く:LV2』『ガイアスフィア:LV1』『ロックスタンプ:LV1』


回復スキル:

『ヒール:LV2』


通常スキル:

『救援要請:LV1』


称号:

『鈍重』『鉄壁の守り』


*******************


 は? 思ってたより厄介そうなの来たんだけど。

 ラーヴァのように一撃とはいかなそうだな。

 というか極端なステータスだなおい……。

 マナリスなかったら勝てなかったやろこれ。

 負けもしないだろうけど。


*******************

ロック・ベビータートル:Fランク……動物系

岩に擬態する亀の幼体。岩に擬態し、獲物が油断したところを攻撃し、仕留める。しかし、攻撃力が無いので大抵ダメージを与えられない。雑食でなんでも食べる。

ステータス

HP:F+ MP:F 攻撃:F− 防御:F+ 魔攻:F 魔防:F+ 敏捷:F−

*******************


 擬態の意味あんのかこいつ。


 しかし、ちょうどいい。

 Fランクの高レベルで防御特化。

 攻撃も敏捷も大したことがない。

 低いステータスでも相手しやすく逃げられる心配もない。

 逆にこちらはマナリスで大ダメージを狙える。

 ここまでおあつらえ向きの魔物には中々出会えないだろう。


 俺は『格納庫』からマナリスを取り出し、抜刀。

 そして、足も生やし完全に亀になった幼岩亀に向けて構える。


「……ガメェ」


 こちらに攻撃の意思があることが分かったのか低く鳴き、幼岩亀は威嚇する。


 よくこの体格差で挑もうと思えるものだ。

 しかし、『救援要請』だけは気をつけないといけないな。

 上位ランクを連れてこられちゃ堪らない。


 ……いや、待てよ? 

 そういえばここら辺に魔物全然いなかったな。

 もしかして、シュトゥ・ウルフ達を避けてるのか? 

 ならこの幼岩亀ははぐれ? 

 呼んでも仲間は来ないか? 


「ガメェ!」


 そんなことを考えながら、幼岩亀と対峙しているとしびれを切らしたのかひと鳴きした幼岩亀が俺に向かって走ってきた。

 恐らく、『噛み付く』をするつもりなのだろうがあまりにも遅すぎる。

 俺も敏捷は低いがここまででは無い。


 余裕を持って回避して、マナリスで一閃。

 石によく似た甲羅を切り裂き、血が吹き出す。


「ガメェ!?」


 再び距離を取った俺は、幼岩亀の悲鳴を聞きながら、ステータスを確認する。


*******************

名前:

種族名:ロック・ベビータートル

状態:流血(大)

性別:オス

LV:6/9

HP:13/54

MP:30/30

*******************


 お、思ったより残ったな……。

 マナリスさん早くも退場のお知らせ? 

 い、いや、よく考えたら即死させてた今までがおかしかったんや。

 攻撃力も7倍近くになってるし。


「ガメ!」


 そんなことを考えていると、幼岩亀がひと鳴きし、優しげな光が幼岩亀を包む。


 こ、これは……!? 


*******************

名前:

種族名:ロック・ベビータートル

状態:流血(小)

性別:オス

LV:6/9

HP:24/54

MP:20/30

*******************


 HPが回復してる? 

 『ヒール』でも使ったのか? 

 明らかな回復魔法だもんなこれ。


 しかし、MP10消費して11回復か。

 それほど厄介じゃないな。

 限界まで使ってもHP満タンにすら出来ない。

 幼岩亀もそれを分かっているのか逃げ腰だ。


 後一撃で決められる……! 


 俺はトドメを刺すべく、幼岩亀へ向かって走る。

 一瞬怯んだ幼岩亀だったが、口を開け、力を貯めるような動作をする。


 消去法でしようとしているのは『ガイアスフィア』だな。


 その考えを肯定するように地面から土が浮かび上がり、幼岩亀の口元に球状に纏まる。


「ガメェ!」


 そして、それは俺に向けて発射された。

 幼岩亀本体のスピードで油断していたが、本体より遥かに速い速度で向かってきた『ガイアスフィア』に俺は避けきれず直撃した。

 吹き飛ばされ、機械の体が砕けるのを感じる。


[耐性スキル『地属性耐性:LV1』を獲得しました]

[耐性スキル『魔力耐性:LV1』を獲得しました]


 け、計画通り。

 耐性スキルを獲得する為に敢えて攻撃を受けただけだから! 

 決して油断した訳じゃないから! 


 俺は何とか起き上がり、急いで幼岩亀にトドメを刺しに向かう。

 幼岩亀は逃げようとしていたが遅すぎて簡単にトドメを刺せた。

『ガイアスフィア』を警戒していたがMPは既に尽きていた。


[経験値を獲得しました。称号『魔なる神の加護』の効果で経験値が増加します。43の経験値を獲得しました]

[経験値が一定数値に達しました。Lvが1から6に上がりました]


[攻撃スキル『狙撃:LV1』を獲得しました]


 結構一気に上がったな。

 まぁ、序盤だしな。

 スキルも増えたし。


 俺はステータスを確認する。


*****************

名前:

種族名:マシンガンナー

状態:通常

性別:不明

LV:6/18

HP:9/46

MP:32/62

攻撃:16+52

防御:23

魔攻:31

魔防:23

敏捷:12

ランク:E


装備:

『魔剣 マナリス:D』


特性スキル:

『鉄の体:LV3』『演算:LV2』『短剣術:LV2』『格納庫:LV1』『気配感知:LV1』


耐性スキル:

『毒無効:LVー』『麻痺無効:LVー』『睡眠無効:LVー』『病魔無効:LVー』『飢餓無効:LVー』『口渇無効:LVー』『失血無効:LVー』『窒息無効:LVー』『痛覚無効:LVー』『恐怖耐性:LV1』『地属性耐性:LV1』『魔力耐性:LV1』


攻撃スキル:

『ロケットパンチ:LV1』『射撃:LV1』『狙撃:LV1』


通常スキル:

『神鑑定:LVー』『瞬歩:LV1』『金属変形:LV1』


称号:

『魔なる神の加護』『盗っ人』『同族殺し』『回避王』『生還者』


******************


 おお! 

 普通にマシンドール時代のステータスに届いたな! 

 これで半分も行ってないから最大レベルには期待できそうだな。

 というか意外と死にかけてる件について……。

 油断するのはよそう……ぶっちゃけ舐めてたわ。


 しかし、一先ずのレベル上げはこれでいいかもしれないな。

 一旦戻るか。HPも不安だし。

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