最終話 エンディング。『フラグクラッシャーは、逆回しに舞い上がる』その3

「あーもー、この腐れ道化ッ! アンタのせいでわたしら三人、めちゃくちゃ苦労したわよっ。ついでにアンタの首もスカッとヴォーパルバニーってやろうか!」


「うわ、ひでえ。せめて前見たく犬先輩って呼んでくれや。……ケイ、この幸せペタンコ娘が俺の二つ名の一つ『犬先輩』を名付けた張本人なんやでー」


「誰のどこの部分がペタンコか! たとえその通りでも異議を唱えるぞ!」


「二人の美少女を囲って、しかもティンダロスの王の妻とか、滅多にないと思うで」


 榛名レンは――、

 昨年の冬の『隷属解放の乱事件』で共に探索した『南條公平なんじょうきみひら』だった。


 コイツ、普段はニヤニヤと生理的に無理な表情をしているが、真顔になれば絶後の美少年になる。女装すれば似合うだろうと思っていたが、想像以上だったよ!


 しかもこれまでわたしが榛名レンだと思っていたアイツは、血溜まりみたいなショゴスの擬態であり、まさに、あの『魔女の質問』は、わたしがアレを斬り捨てるなりして『ぶっ倒すこと』を前提とした存在なのだった。……やってらんねぇ!


 本物の榛名レン――もう、ややこしいので変態の南條公平で統一するが、完璧完美な女装をした彼の足元には、柴犬にしてイヌガミのセトが綺麗にお座りの態勢を取っている。男の癖にこんな美人さんで、しかも一族の女性しか扱えないはずのイヌガミまで扱って、やはりこいつ、異常者だ。なんなのもう……やっぱり大嫌いだわ。


 と、そのとき。


「――そうか、お前たちの目的は、そういうことだったか。くそ、なんてことだ」


 沈黙を保っていたミゼーアがハッとした声を上げた。


「ど、どういう意味?」

「つまりね、ここにいる極東の三愚神どもは――」


「三愚神? アザトースの? 新世界を作るために集まるという?」


「そう、こいつらは三愚神だよ。四十二億の死を乗り越えた混沌の顕現、人間としての名は南條公平。完全な男女合一を果たした始まりの女神、人間としての名は愛宕恵一。そしてアザトース世界の副王、なぜか白金の毛並みの『――』になっているがそれはともかく、世を忍ぶ名は『――』。特にコイツは、鏡に映る僕そのもの」


 男女合一の蠱惑的な笑みを浮かべる愛宕恵一の、その隣に立つ南條公平は、一瞬、炎に燃える三つ目を持つ漆黒の容貌をわたしに向けた。


 マジかよ。愛宕恵一も大概アレ過ぎるが、南條公平がマジモンの道化で、這寄る混沌の顕現体だとは。一族直系の血を引くナイアルラトホテップとか、アホか。


「……超高位神性が集合し過ぎて、宇宙がヤバい」


「実数の肉体を持つがゆえに、わが妻タマキよ、キミはヨグ=ソトースに生存を許可されなかった。ゆえに僕は言った。本来なら絶対にありえないことが起きた、と」


「それで百回死に続けたと?」


「許可がされなければ百どころか千、万、億、兆、京、那由多の先まで。ついでにいうと、この試練が行なわれる以前、つまり、彼ら三愚神どもがこれを計画する以前からキミは九月四日に死ぬのがサダメだった。そこにいる二人の現地妻も一緒に、ね」


「な、なんで……?」

「その辺はこいつらに訊いた方が早いよ……」


「すべては最も旧く最も新しい、目覚めしわれらが次世代のアザトースをお迎えするため。今巡回宇宙では、僕ら極東の三愚神は見事、完全な状態で集まりました。そして、裏側となる最後のピース。次世代のミゼーアとなる少女が、ここに」


「最後のピース? 次世代のミゼーア? まさか、わたしとかじゃないよね?」


「まさに、そうだよわが妻。彼らは、キミを新しい世界のに仕立て上げたいんだ」


「え、でも、ミゼーアってヨグ=ソトースとの対極存在で、どこの世界にも、何巡先の宇宙であっても同時存在するからそういうのは必要ないんじゃ……」


「空前絶後の、目覚めしアザトースを迎えるのですよ。それは、これまでの世界とはまったく違う、真なる意味での新世界。なので、旧来の神性には用はありません」


 するりと、完全なる男女合一を果たしたという男の娘、愛宕恵一が答える。


「お、おう……」


「時雨環さん。新たな宇宙で、次世代のティンダロスの王、なってくれますね?」


「……え、えーと」


 話が超宇宙規模過ぎて、わが灰色の脳みそを以ってしても追いつきそうにない。


 自分の魔力が太陽レベルに増大したかと思えば次は宇宙レベルとくる。さすがのわたしもSAN値がガリガリ削れるのが分かる。あー、美味しいご飯が食べたいなー。


「人の身体と同じで、宇宙には恒常性が必要なのですよ。正がいれば、負も必要。大丈夫、僕が恋人にして愛人の女神マイノグーラにお願いし、ティンダロスの猟犬の元になるヘルハウンドを一杯寄越しますから。それで大量に猟犬を生産してください」


 人喰い女神マイノグーラは混沌の邪神ナイアルラトホテップの従妹だ。要するに超やべーやつ。彼女は、シュブ=ニグラスのセックスフレンドの一柱でもある。


 かの始まりの女神シュブ=ニグラスは、男性神の相を利用してマイノグーラと激しく交合し、ティンダロスの猟犬の祖先となるヘルハウンドを大量に産み落とさせている。


「あー、脳みそがオーバーヒートしそう……」

「――だめだよ!」


 突然、美琴が声を張り上げた。全員の視線が彼女に集中した。それこそ、始まりの女神が抱く白金のアレから、わたしの震電や変態の南條公平の柴犬、セトまで。


「タマちゃんは、わたしと将来結婚するんだもん! 誰にも渡さないもん!」

「いや、それを言うなら義姉として。同時にその、恋人として、タマキはやらん!」


 咲子まで。握りこぶしを作って、断固として。


「タマキはティンダロスにおける妻。僕が、彼女を宇宙の果てまで愛するんだ」


 ミゼーアがぴょこりとわたしに抱きついた。


「これまでにない世界。あなたは待たれし者。ぜひ、新たなる世界でのティンダロスの王に。たった百度の試練で、僕の旦那様を認めさせた実力、切望しますよ」


 魔性の男の娘、愛宕恵一が後光が差さんばかりに微笑んでわたしをリクルートしようとしてくる。彼の胸元に抱かれる『白金の毛並みのソレ』が、にゃあと鳴いた。


 榛名レンと言う架空存在を作った変態の南條公平が、まるで女の子同士がするように愛宕恵一に横から抱きついて頬にキスをした。そしてニヤニヤとわたしを見た。


 足元では何が嬉しいのかニホンオオカミの震電と柴犬のセトがわふわふ、わんわんと嬉しそうに吠えている。それにしても彼ら、姿がそっくりだ。柴犬は狼の特質を一番持つと言うがこれほどまでとは。犬種登録はやはり柴犬で行なおうかな。


『結婚!』

『恋人!』

『妻!』

『王!』


 それぞれが好き勝手にわたしに求めてくる。


 そうして、わたしは、爆発した。ドカーンドカーン。もちろん気持ち的に、だが。


「あーもう、黙れ! だ、ま、れ! わたしはわたしだよ。だからわたしは!」


「「「「「わたしは?」」」」」


 全員が問いかけてくる。


「腹減ったんだよ! まずご飯! 後は、今日は色々疲れたから風呂入って寝る!」


「「「「「えぇ……」」」」」


 全員が萎れた。なんとミゼーアまで。


 わたしは震電を連れて、そんな彼らを放置してドスドスと歩み、勝手に帰宅する。


 冷凍食品の三倍特盛りカルボナーラで昼飯を済ませ、その後はだらだらと寝転んで過ごし、夕飯は適当に作ったマーボー茄子とひやむぎを父と震電とで食卓を囲む。


 二十一時には風呂に入って一日の汗を落とし、上はスポブラ下はショーツ姿のまま自室のベッドに突っ伏す。震電は用意したペット用冷感シートに寝そべっている。


「気分がむしゃくしゃする。こんなときは、オナって寝るに限るわ」


 たった十七歳の女の子である。当然、自慰なんて普通に致すに決まっている。

 わたしはスポーツブラの中に手をやって乳輪をいじり始めた。


 今夜のオナネタは、何にしようかな。


 ミゼーアとショタセックス。うむ、これだな。新鮮なオカズ。滾りそうだ。

 わたしがミゼーアで、ミゼーアがわたしで。優しく突いたり突かれたり。


 もちろん妄想フィニッシュは中出しである。主にわたしが彼の尻に。

 アッー、僕妊娠しちゃうっ、とか言わせたい。ショタ妊娠とか歪んでてウケる。


 程よく気持ちが高揚してきたので、次は、しっとりと濡れる下腹部へと――。


「――タマキお姉ちゃん、来たよ! にゃあと一緒に寝よ!」


 ビクッとなる。ああ、こいつは! また空気を読まずに、良いところで!


 このパジャマのお子様、クトゥルフ縫いぐるみまで用意してやがる。アンタ、そのタコの怪物、お気に入りなのね。今度タコ焼きでも食べさせてあげようかしら。


 幼女邪神こと響。改名してヴェールヌィ・ウラジミーロヴナ・ナボコワ。


 またしてもわたしの皇帝時間エンペラータイムに、最悪のタイミングでベッドに潜り込んできた。


「もおおっ、空気を読めっての、この混沌! 邪神! 無邪気! 幼女!」

「にゃあっ。全部大当たりなのっ」


 まったくの無邪気で、まったく空気の読めないオムツの幼女邪神にはお仕置きを。

 と、思ったけれども。

 今日は本当に色々あり過ぎて気力が自慰以外に続きそうにない。


「あー、もう、しようのない子。じゃあ、久しぶりに一緒に寝ようか……」

「にゃあ。うふふ、お姉ちゃんとおやすみするのー♪」


 わたしはパジャマを着込み、両腕をこちらに伸ばして抱きしめられるのを待つ彼女を期待通りにして寝かしつけてやり、そうして、ぐったりと眠りにつく。


「アンタの幼女臭、今思うと凄く良く馴染む匂いなんだよね……」

「好きなところをぺろぺろしてくれてもいいよ」

「くんかくんか、すーはーすーはー。んーふ。お母さんの匂いみたいな……」


 彼女のミルキーな体臭は母の体臭を想起させてくれるのだった。それが安心感となって、ドリームランドじゃない方の夢の世界へと、ストンとわたしを誘った。


                               ―完―




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猟犬サバイバー 五月雨一二三 @samidareiroha

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