第181話 帰還 その2
どうやらこの宇宙でも、運悪く幸運にも、わたしは響と友誼を結んでいるらしい。
巡回宇宙を跨ぎに跨く。
たぶん人間感覚でこういう疑問を浮かべた人もいるだろう。
巡回しているなら、百回跨げばいいのでは、と。
残念。そうじゃないんだな。それは実に人間らしい『概念的な錯覚』だ。
なんどでも書くが、時間は存在しないのだ。一連の連なりのように見えているのは脳が時間が『ある』と錯覚し、事象の変遷を次々と繋いで、それ見ているだけ。
十京分の一のセル画が散らばる中、正しい巡回宇宙を見つけるのは至難。というか無理。だって宇宙自体も、巡回しつつ、ほぼ無限にあるから。
ミゼーアのおかげで不可能を可能にしているけれど、わたしには判別は無理。
さてさて。
目的の観測世界の、幼女邪神の響がいる座標へとひとっ跳びにする。
跳ぶ際には肉体が重力の質量的な枷となるので、高次エネルギー体に身体を変換する。イヌガミの震電の背に搭乗するわたし、ミゼーア、美琴、咲子は征く。
目的地へはあっさりと到着した。感覚的にもほんの一瞬だった。
混沌の邪神幼女の響の目の前に、巨大なイヌガミごと、その地にどんと立つ。
宇宙百巡前の、九月一日。時刻は正午過ぎ。
暦の上では秋だが、実際はまだまだ残暑の厳しい炎天下。
ここはどこだろう。うむ、見覚えのある木があるな。なるほど、化石の神木か。
わたしたちが四日間お世話になった、あの拠点。
つまりは、跳躍した出発点に帰還したわけか。うーむ、面白いなぁ。
厳密な場所は、桐生学園ミスカトニック高等学校にある薔薇の温室、その施設内。
さすがにナイアルラトホテップの顕現体だけあって、響は高エネルギー体となったわたしたちを感知できるらしかった。こちらを見上げるなり『はにゃっ!?』と可愛く素っ頓狂な声を上げて、変な具合に身体を震わせていた。
ああ、これ、たぶん失禁している。ぷしゃあああああっ、である。
さすがに心配になったわたしはエネルギー体のまま響の前に降り立ち、しゃがんで彼女のスカートをヒラりとまくった。
「というか、響。アンタなんで超難関のミスカ高の制服なんて着てるのよ?」
スカート越しに軽く尋ねてみる。
この子と会うのは、以前ちょっと言えないようなイタズラをされて叱り飛ばして以来だった。まあ、アナルに指突っ込まれたんだけど。気持ち良過ぎて怒った。
「た、たたた。タマキお姉ちゃん。そそそ、その後ろの、あわわ、はわわわ……っ」
「落ち着きなさいってば。ミゼーアはティンダロスにおけるわたしの旦那さまだよ」
「だ、だん。だんだだん。だん、だんな、だん?」
「だから落ち着きなさいって。にしても、まあ、アンタなら違和感ないけどさ……」
スカートの中は、これを準備が良いと評して良いものか、彼女は女児用のパンツタイプオムツをつけていた。お尻の部分にタコっぽいディフォルメクトゥルーが困ったような顔でプリントされている。これを可愛いと言っていいのかは疑問だが。
そのオムツの股間部、尿漏れお知らせラインが水色に染まっている。
せっかくなので股の部分をタプタプと手で弄ってやる。
知ってる? 子どものオムツの股間部タプタプって、背徳感も相まって、うふふ。
「にゃっ? だ、だめ。そんなとこ、あんっ、あんっ、にゃあんっ」
すると幼女が上げるにしては妙に艶っぽい声で反応するのだった。こう見えて中身は邪神サマで純正の幼女ではない。つまりセーフ。もう少しタプタプしておく。
「これはまた、響、盛大にお漏らししたね。ちゃんと新しいのに換えなさいよ?」
「た、タマキお姉ちゃんのせいで漏らしたから、換えるの手伝ってよぉ」
「今は忙しいからダメ。そういうプレイはまた今度ね。思い切り甘やかしつつ、ゆっくりと換えてあげる。シッカロールもお尻にパタパタしてあげる」
「こ、これはプレイじゃないよぉ。もおおっ、お姉ちゃんの意地悪っ。あと、今のわたしは響じゃなくて、ヴェールヌィ・ウラジミーロヴナ・ナボコワだもん!」
「あー、なんかサキ姉ちゃんが言ってたっけ。もう一柱、アンタ自身がいるんでしょう? なんでこうカミサマって簡単に増殖するかな。あ、日本の神様も簡単に分社できたっけ。それと同じ感覚かな。じゃあ問題ないのか」
神と呼ばれる存在はそもそもが理不尽の塊。なのでこの程度では驚かない。
まわりには突然悲鳴を上げた響に怪訝な顔をしている少女たち四人組がいた。
誰だか知らないけれど、彼女の友人か何かだろう。
邪神サマの友人とは、まったくもってご愁傷様ではあるが……。
わたしは巨大震電にひらりと飛び乗り、イヤイヤと地団太を踏む響を見下ろした。
「じゃあね。夜、ベッドに潜り込んできてもいいけど、場の空気は読むように!」
そうしてわたしは、震電に再び移動を命じた。
どこへ向かうのかはもう決めてある。
最終目標点は、この世界における『わたしたち』だ。
このまま放置すれば、確実に試練に失敗する『わたしたち』と言い換えよう。
その身体、その魂。乗っ取っても文句はあるまい。
どうせ自分自身。誰もケチはつけられない。自身がゆえに適合率も極上だ。
「わたしはわたしの身体と魂を奪い取る! 行け、行け!
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