第180話 帰還 その1

 わたしの立てた計画では――、

 本当は、四日間とはいえサバイバル生活を強いられるくだんの可能性世界へと『わたしたちが飛ばされた直後』に舞い戻り、かの氷の美女たる榛名レンと相対する、というものだった。試練は『白露美琴を守護する』。一応の筋は通っているはずだ。


 とはいえ、この時点でのわたし自身はティンダロスに囚われる前提を立てていたので、美琴と咲子には悪いけれども、計画としては穴だらけだった。

 かの氷の美女とは交渉なり折衝をして試練達成に持ち込むか、とりあえずぶん殴って物理で説得オハナシするなどと、二人次第の投げっぱなしであった。


 ここだけの話、あの二人に危機対処をすべて委ねるのは不安が残った。わたしたちは三人揃って、やっと一人前。三人で支え合ったからこそ、四日間を過ごせた。


 しかし、


 わが隣には、一見すると幼い子どもの姿をした、ティンダロス最強の王がいる。


 名を、ミゼーア。

 αとΩ――つまり、始まりと終わりすら超越した恐るべきモノ。


 わたしは、筆舌に尽くし難い無限の王の、その妻の一人に数えられている。


 見た目は母性をくすぐる紅顔の美少年。ああ、彼の乳首とかペニスをぺろぺろしたい。無軌道に甘やかしてみたい。あと、アナル体験を擦り込んでやりたい。


 もっとも、彼の姿はわたしの主観を通して構成されているらしかった。

 わたしの基本はバイセクシャルだが、美少女は大好物で、ミゼーアほどの美少年もまた、大好物だった。イタズラしてぇ。児童福祉法? 国ごと滅ぼして良い?


 それはともかく、盲目白痴の魔王アザトース=世界=宇宙の創造主の『外側』にある、虚数無限の王、その最強の一角が、ミゼーア御方おんかたなのだった。


 だが、宇宙とはぐるぐると巡回しているのだった。例えるなら、太陽の周りをまわる地球のように、陽が昇り、中天に立ち、陽が落ちるが如く。


 何をどういう力が働いたのか、自分にはさっぱり理解の及ばぬことではあれど、百一巡目宇宙の『わたし』は、自らをあえて犠牲にしてしまうというこれまでにない行動にて、囚われていた榛名レンの可能性世界から辛うじて脱していた。


 不明の重大な転換点が、自他の生存へ力が加わっているとミゼーアは言う。


 うーん、ナンノコッチャ。いや、表面上の理解はできるんだけどね。


 すなわち、アザトース宇宙に生まれたものはその宇宙における事象の変遷には絶対的に縛られるが、ならば仮に、、という部分にかかってくるのだった。それは、アザトースの絶対的観測支配から逃れ、事象に縛られず、限りなく自由でいられるということではないのか。


 言いかたを変えよう。


 巡回する宇宙を違えれば、一度観測され確定した事象ですら捻じ曲げてしまえるのではないか。もっと端的に、過去改変が、できるのではないか。


 ミゼーアの言では――、

 変則的ではあれど『外側』の血を引けば、出来ないこともない、とのこと。

 条件の盲点を突くやり方になるため、ほんの少し面倒くさいけれど。


 さすがわが主にして、夫。頼もしい。抱かせて! 今夜は寝かさないぞ!


 人間概念における『時間』とは『事象の変遷』をわかりやすく例えたものだ。


 人間感覚の『空間』とは、『三次元的に生きる彼らの視覚情報』を例えたもの。


 とある魔導書には親切にも――、

 自ら作った概念に隷属する人間にも分かりやすく説明するために、ティンダロスの猟犬は四次元時空間を自由に行き来できると書き込まれている。


 それは、根本的な部分で間違っていることさえ目を瞑れば、概ね正しい表現だ。


 詳細には猟犬は、事象の変遷の最小単位、あえて時間の尺度で表わすなら十京分の一秒に散らばったあらゆる一枚一枚の、更に例えるならアニメのセル画の如くの世界を跨いでは干渉できる能力を持つ。


 彼らが狩りをする際、じわじわと獲物に近づいてくるのは、そういう理由からだった。世界の一枚一枚を調べ、確率演算をしつつ、狩りをするのだ。


 さて、わたしたち二柱と二人が騎乗する新生ティンダロスの猟犬ことイヌガミの震電は、ティンダロスからのゲートを抜けて機嫌よく疾駆していた。


 目指すはナイアルラトホテップの顕現体である響。


 彼女が存在する次元を目標に、世界移動する。と言っても、今宇宙のアザトース観測世界ではない、別口の、同一存在としての響に、だが。


 わかりにくい? うん、わかりにくいよねー。


 それは鏡と鏡を合わせた、幾重にも映る邪神幼女を一枚ずつ選別している感覚。それぞれの巡回宇宙には、それぞれの魂持ちの邪神サマがおられるのですよ。


 つまるところ、どの子が目標になる響か、さっぱりなのだった。たとえ目標存在は絞れても、実質無限に近い宇宙循環のどれかに、目指す幼女邪神がいるとなれば。


 だが、ミゼーアの助けもあって、これは無事発見できた。

 わたしたちは『そこ』に向けて、進路を取る。


 目標とする巡回宇宙はどれになるのか、だって?


 それはね――。


 課された試練が、わたしたち基準にて百一巡目宇宙とするなら、そこは、一巡目。

 試練の始まりとなる、アザトース観測世界。その宇宙。螺旋無限の一角。


 を目指すため、その次元の邪神ナイアルラトホテップが顕現体、銀髪碧眼の無邪気こそが最大の邪悪なる『響』が元へ征く。





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