第178話 ティンダロスの王、ミゼーア。その8

 これまでを思い返すとゾッとする光景ではあれど――、

 それにしてもこの二人、異様に気が合っているのが恐ろしくもあり、その幼い容姿からして変に納得できる部分もあり、如何ともし難いものがあった。


 元の世界には、まだ母さんを想い続ける父さんがいるというのに。

 だって、母の名を呼びつつオナるくらいだよ? 未だ母がオカズなのだよ? もちろん、母としては生き抜くための一手だったというのは理解できるのだけれども。


「ああそうだ、今更だけど、タマキ。その子たちは、何? なんでアンタのスカートの中に顔を突っ込んでるの。まさか、そういうのが向こうでの流行なの?」


「流行ってないから。彼女たちはわたしの親友兼恋人の白露美琴と村雨咲子だよ」


「あー、あの子たち。大きくなったねぇ。というか、前の子、その頭の動きは……」


「ごめん、ノーコメントで。気を確かにしないと変な声が出ちゃうもん」


 これまであえて書かなかったことに、美琴はどさくさを利用してわたしのスカートの中に頭を突っ込ませる変態所業に留まらず、あろうことか股とショーツの隙間に舌を這わせてわたしのオンナノコをひたすら舐め味わっていたのだった。


「女の子にクンニしてもらうのって、それはそれでいいものでしょ。気持ち良いところがお互いに分かっているから。格別なのよねぇー」


「ノ、ノーコメントで……っ。んっ、ミコトっ、おマメさんばかり狙っちゃダメっ」


 彼女のトンデモ行為も、ここまで突き抜けると尊敬の念すら湧いてくる。


 咲子についても尻の山からいつの間にか谷間へ顔を移行させているのだが、彼女の何がそのような行為へ掻き立てるのか、もはや考えたくもない。


 とりあえず、屁がひれないのが苦痛だった。


「ははっ、現地妻を大切にする心優しい子だよ。キミの娘は」

「うーん……ここでの生活が正室になってからというもの、快適で充実しているおかげで向こうの感覚がどうにもわからなくなっているわね」


 まあいいわ、と母は考えるのを諦めた。

 もう少し頑張ってくれてもいいのよ、母さん?


 母はひらりと自らのイヌガミこと、コーギーのジャビちゃんに身を乗り換えた。


「それではわが君、ミゼーア。改めて、此度の御親征、お慶び申し上げます。留守居の大役はわたしが勤めます故、どうか、心安んじて行幸なさいますよう」


「うん、大儀。それじゃあタマキ、行こうか」


「へ? わたしも? わたしはここが終点じゃないの?」


 自分の中での覚悟は、ティンダロスでミゼーアの寵姫となり、代償に、せめて美琴と咲子の二人を元の世界へ送り届けることだった。


 それが、わたしも親征に加わるとは。


「僕の祝福と加護を備えたら、キミは宇宙が幾度の終焉を迎えようと僕のもの」


 ミゼーアは、幼い容貌を微笑ませている。あまりにも完璧な美少年の笑みに却ってゾクリと戦慄を覚えるような、稀有な体験と感動が自らの薄い胸を打ち据えた。


「――だから、と言っていいのかな。まあいいや。ともかく、一緒についてきた現地妻をせめて大切にしてあげてね。もうキミは、決して老いることはなく、病にも伏せず、いかなる呪いも事故も無意味。あらゆるすべての悪意は自動反射し、累乗加算されて敵を薙ぐ。それが住人、それが、僕の妻。可愛いロリ妻。うふふふっ」


 ああ、そうか。わたしは、もう。


「キミと言う魂はαとΩを超越した。これすなわち、たとえアザトースを根源とする即死の呪いですら嘲笑って終わりということ。キミはそういう何者かになった」


「……はい」


 わたしは一人と呼ばれる存在から、一柱と呼ばれる存在へと昇華されたのか。


 それも、ここへ来た時点でそうなることは確定されていたと。

 だからせめて実数世界の恋人を大事にしろと。

 それは過ぎゆく無限の変容の、一瞬の邂逅に過ぎないから。


 ならば。わたしはふと疑問に思う。

 愛する夫と離れ離れになった母はどうなるのか。


 母はかつて、恋い焦がれてやまない将来の夫を拉致監禁ロリセックスの末に、強引に婚儀へと持ち込んだほどなのだ。ああ、世界はわからないことばかりだ……。


「タマキ、お前の考えていることはすべてわかるよ。アンタは単純だからね」


 巨大コーギーのジャビちゃんの後頭部に抱きつきつつ母は言う。






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