第174話 ティンダロスの王、ミゼーア。その4

 母はこちらを見上げ、口元を軽く動かすだけのアルカイックスマイルを浮かべた。


 背中がぞくりとした。

 確かあれは、ロクでもないことを企んでいる表情だったような……。


 記憶がさらに蘇る。

 母は特異なほど幼い容姿に反して、非常に苛烈な性格をしている。特に、自らの姿見に迂闊に触れる者にはまったく容赦がなく、大変な目を合わせる人だった。


 そういえば父との馴れ初めも、母は幼馴染みで年齢が二つ上の父を幼少時から悪しからず想い続けていたらしいのだが、対して父は、母をいつまでも妹扱いしていたのだった。ちなみにこの時点で既に許嫁関係は確定している。


 もっとあけすけに言えば――、


 ヤろうと思えば、デキるのである。ヤればデキる。良い言葉である。


 しかしいつまでも男女関係が進展しないままの現状に、とうとう業を煮やした母は実力行使に出た。男ならちんぽこ立ててガバッと来んかいワレェ、である。


 そして拉致監禁。


 母は父を攫った。全裸に剥いて、介護用の特殊椅子に縛り付け、そこで自分も裸になって情熱的に口説きながら、毎日毎夜、いろんな意味で『ご奉仕』したという。


 あまり言えたものではないが、動けない父の下の世話から、身体の洗浄、食事の世話、若さによる性欲の発散は手とお口で解決。白濁液は、ごっくんする。


 そうして母は、父の耳元で母は口説いて口説いて、口説きまくった。

 大好き、大好き、愛してる。あなたのことを、慕っています。あなたが欲しい、心が欲しい。美琴がわたしに囁く愛の言葉を、そのまま百乗した勢いで。


 ほとんど洗脳のように情愛を伝え、果てに父が自らの意思で母に手を出させるように仕向ける。その後はガッツリと合体。ヤるなら今でしょ。


 巷ではあり得ない『登場人物は全員十八歳以上です』なロリセックスを敢行。


 残念ながら(?)そのときは妊娠はしなかったが、しかしその後を皮切りに急激に仲を深め、結果、見事を引く。そのが、わたし。


 元々が許嫁関係でもあったためが確定。


 一族からも祝福が飛ぶ。盛大に結婚式。見た目は大人と子ども。でも二人ともちゃんと成人。家族が増えるよ、ヤッタネタエチャン。……いや、違うか。


 なんやかんやあったが父は今も母を愛しており、内緒の話、たまに母の名を呼びながら一人シコシコと孤独にオナっていることがある。うわ、切ねぇ。


 まとめ。

 目的のためなら手段を択ばない女、それがわが母である。

 追記。

 ロリセックスは母がティンダロスへ取られる直前まで


 母は猟犬から降り、いつの間にか控えていた影のように実体の薄い従者に衣装を整えられて深々とカーテシーの姿勢を取った。


 一拍置いて、残りのドレスの女性たちも同じく続く。


 対比が凄まじい思うのは、美人は基本として、母以外のほとんどがわれらがイヌガミ一族の女と同じ豊満な胸にくびれた腰、長身スリムな体躯をしていることか。


 なんというエロボディ。これなんてエロゲ。


 もちろん控え目な女性もいるにはいる。

 しかし、わたしよりもずっと、ずーっと大人の身体つきだった。


 ミゼーアは片手を軽く上げ、面を上げよ、と命じた。

 先頭の純白のドレスの女性――母がまず顔を上げ、それに続いて後ろに控えるドレスの女性たちが順に顔を上げていく。ただし顔を上げさせただけでカーテシーの姿勢は継続中である。あの格好、滅茶苦茶辛そうだ。


「御親征、大変、目出度きことと存じます」

「うん、ちょっと行ってくる」


 母の呼びかけにミゼーアは軽く受ける。

 御親征。まあ確かに、王自らわたしについてきてくれるならそうなるか。


「さて、その前に英気を養わねばならないね」


 ミゼーアは言うと母を手招き、応じた母はカーテシーを解き、彼の側へとふわりとはべった。母の猟犬は十の頭の怪物から寸胴が可愛いコーギーに変化してしまう。


「ラッキー・ジャーヴィス。ジャビちゃん、やっぱ母さんと一緒にいたんだ」


 そのコーギーは母が可愛がっていた、イヌガミになり損ねた犬だった。母がティンダロスの呼び声に誘われて失踪し、同じくして彼も行方不明になっていたのだ。


 ややあって、ミゼーアは下界に手をかざしてわたしにこう言った。


「タマキ。僕の新しい花嫁。ご覧、。さあ、猟犬を以って下界の猟犬を喰らいなさい。






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