第164話 さくばんはおたのしみでしたね その1
「うおお、なんだこれっ。太陽がイエローに見えるっ」
朝食を済ませて身支度し、昨日獲ったイノシシの解体に川へと向かったのだった。
ちなみに朝食は、通称『がんばれ食』なるものと、シカの燻製肉を頂いた。
がんばれ食の中身は正方形のビスケット・バーなるブロック食と、硬度を持たせた練り和菓子みたいなゼリー・バーで、ピーナッツバター風味のブロック食は口の中でホロホロと砕け、ゼリーはゴマいりの餡子がとても香ばしく食欲を刺激した。
これにシカの燻製肉を焚き火でトロトロに炙ったものがつく。
ただし肉の大半は元欠食児童だったらしい震電が持つ、まるでどこかの宇宙にでも繋がっているような胃袋にしっかりと収まっていた。デザートは昨日採ったアケビのみ。ラムレーズンは昨夜散々食べ散らかしたので、しばらくは見るのも嫌だった。
「なんでお前だけそんなにも元気なのだ……」
「わたしたち、夜明け近くまで愛し合ってたよね……?」
昨晩から続いたむつごとは、興に乗りに乗って終わったのが朝の五時近くだった。
三人の身体、手や唇は、触れなかった部分がないほど盛りがついた。
しかしまさか、美琴の通学用バッグにあんなバナナ状の玩具が入っていようとは。
「もうツヤツヤだよ。あ、そうだ。シシを解体して、お昼ご飯を済ませたら水浴びをしよう。あとミコト、なんか間違えてアンタのショーツ履いてたわ。洗って返すね」
「それは、あの。わたしが昨日の水浴びのとき、想い余ってすり替えたの……」
「そっか。じゃあせっかくだし、このまま交換したままでいるね」
「い、いいの……? 怒らない……?」
「交換自体はよくやってるし、ミコトのわたしに対する気持ちもよく知ってるし」
「じ、じゃあ、結婚して! 式と新婚旅行は米国はマサチューセッツ州で!」
「あはは。わたしってヤツはどこまでも果報者だねぇ」
そもそも昨晩から明け方にかけて愉しんだ行為に比べれば、些事も些事だった。なんだか、あまり寝てないのもあってかハイな気持ちで心がふわふわしている。
川に着けば、まずは魚を獲るために設置した罠魚籠の撤去を行なった。
三つの魚籠には、合わせて五匹の魚がかかっていた。もう食べないので中身を空けて逃がしてやる。魚籠は蔓で出来ているのでほどいて林の中に投げ込んで捨てた。
一先ずは、これで良しとする。
咲子の的確な指導の元、川に漬けて冷やしていたイノシシを拠点に持ち帰る。
台に吊し上げて皮を剥ぎ、肉を部位ごとに解体していく。少し話し合って、昼に食べる部分だけ選び、残りは震電に元仲間を呼ばせて丸ごとくれてやろうと決めた。
イノシシの一番美味しい部位とは、咲子曰く、好みに左右されるリブ部分(あばら肉)であるらしい。スペアリブ、という料理が有名である。
野生ならなおさら、骨に近い肉はその動物特有の臭みを持つため、ソースとハーブを加えて甘辛く調理するのだった。ただ、残念ながらハーブは二種あれど、ソース系がまったく手元にない。現状の調味食材だけでは臭みはほとんど消えないだろう。
「というわけでリブは諦めようと思うの。肋骨の膜で防水されてるから食べる分には問題なさそうだけど、わざわざニオイのキツイのを選ばなくてもいいっしょ。この部位は震電に味わって貰おう。あとは内ロースも震電行きね。川の水にモロに当たってるので衛生面の考慮から除外って感じで。となると、肩ロースと背ロースか」
「無難なところだな。では、そのように解体してゆくとしよう」
ナイフでもってどんどん部位を解体してしまう。
ウサギからシカ、そしてイノシシと三体目になれば慣れたものである。というよりも、哺乳類としての基本的な骨格構造や体構造は変わらないので刃の入れ方や筋部分の切除などの応用が利くのだった。ここだけの話、人間をバラす応用にもなる。
自分たちが食べたい部分だけ切り取るので、作業自体は恐ろしく早く済んだ。
良い感じに腹も空腹を覚えたので吊るし台のイノシシは解体途中で中断し、洞穴内に引っ込んでさっそく肩ロースから調理してしまう。
今日まで四日間お世話になっている石造りの簡易コンロで熱したフライパンにまず脂肪をひとかけ放り込み、脂で満たす。この時点で素晴らしく良い匂いが洞穴内に充満する。震電の口から、洪水のような涎が垂れてくる。ふんふんと鼻を鳴らして、伏せの状態でコンロを見上げる彼の切なそうな目つきに三人して苦笑する。
そして肩ロースの投入。
ジャアアアアアッ、と肉の焼ける心地よい音と、食欲を鼓舞する脂肪とはまた違う肉独自の良い香りが爆発的に広がる。ナイフの背でボコボコに叩いてステーキ肉に整えた、野生の超一級品だ。わたしは思わず、うおおおっ、と叫んだ。
両面を一気に焼き上げる。臭み消しと香りつけにラム酒を少々。
つけ合わせはおなじみのクレソンとセリ。
別な熱量源、炭水化物は朝も頂いたがんばれ食のブロック・ビスケット。
デザートは同じくがんばれ食についていたゼリー・バーだった。
さあ、喰らおうじゃないか。肉、肉、肉まみれ。肉を喰わないと真の力が出ない。
ヒャッハーッ。新鮮な肉だぁーッ!!
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