第161話 ボノボ、愛の動物。その1
夕食はシカの燻製肉を惜しげもなく切り分けた特大ステーキと、塩コショウに各種ハーブ、ラム酒を隠し味に調整したシカの燻製肉のスープ。
副菜にアマゴとアユの塩焼きが合わせて六本。デザートはアケビのラムレーズン和えだった。ラム酒そのものは、今夜のお愉しみに嗜む予定。
三人と一匹は、それこそ貪り喰う勢いで肉を口に運んだ。
肉、ニク、29、にく、NIKU。
――旨い!
食のバランスなど考えない。菜食主義も結構だが、やはり雑食が基本の人間には動物性タンパク質が必要になってくる。むしろ野菜一辺倒は栄養失調の元。
菜食主義で生きるには相当に管理された食生活を送らねばならず、少しでも怠ると脳機能低下、骨粗症、老化の促進、免疫力の低下、総じて短命化が進む。
青虫みたいな生活がもたらす身体への害は甚大だ。
そも、動物性たんぱく質を拒否するというのは、生きることを拒否しているのとほぼ同意義だ。体質的に摂取が厳しいとか、宗教・信仰上の制約で無理とか、そういうのなら仕方ないけれど、無理にアホ想念を取り込んで肉を拒否するのは愚の骨頂。
余談だが、かの第三帝国の総統と凶悪な幹部どもは菜食主義者が大半だった。チョビ髭のくそったれ。肉を喰え、肉を。だからテメーはダメなんだ。ジークハイルとか言ってる場合じゃない。肉を喰わないからイライラして、結果、バカな行動に出る。
さらにはとある押しの強い自称唯一神の旧約聖典にはこう記されている。
地上にあるすべての動植物をそなたたちの糧として良い。
ただし零れ落ちた血はすべて俺のもの。
ああ、あと、善悪の知識の実も喰うなよ(ダチョウ倶楽部的振り)。
さすがはどこぞの山の邪悪な地霊。
太古の吸血鬼の主張は、実に食への欲求が強くて面白い。
吊るし台に干されたシカ肉の燻製は三人と一匹の活躍で半分近くが消費された。
特に震電の食欲はすさまじく、改めてこの狼が欠食児童だったのだとわかる食べっぷりだった。ほんに、たんと、お食べよし。
まるでマナーの欠片もない原始人のように食べに食べ散らかし、満腹になる幸せ。
わたしの思う。人間の三大欲求を満たす、その至福について。
突然、何を言い出したかというと。
酷く気持ちが浮つくのだった。正確に例えるなら、超ムラムラしている。
食が満たされれば次は性欲などと、少々原始な先祖返りが過ぎているようだが。
昼間に交わした『例の』約束の刻限が近くなり、気持ちが動転しているというか。
美琴の力強い希望の元、女の子同士でまさかのセックス。しかも3Pとくる。
わたしは男も女も愛せる自信がある。美少女は、大好物だ。
さて、自身が持て余すほどの性欲をどうしたものか。
ふはは、勃起である。ペニスはないけれど、心はそそり立っている。
わたしは下腹に熱を蓄えつつある、己れが無毛の股間を意識する。
ああ、美琴の唇を奪い、咲子の乳を弄び、美琴の秘処に舌を這わせ、咲子の尻穴に指を添えたい。そしてわたしは美琴に唇を奪われ、咲子に乳首を吸われ、美琴にわたしのオンナノコをいじくりまわされ、咲子に尻穴まで指で。もうビチョビチョの、ぐちょぐちょ。処女を奪い、奪われ、めちゃくちゃにしたり、されたりしたい。
それはとても気持ちが良いはず。めくるめく快楽。
ふう、はあ。ふう。はあ。ゆっくりと深呼吸しないと、今にも爆発しそう。
うおおっ。性欲を持て余す。これが若さ、これこそ若さ。
そういえば酒があった。あれを呑んだら、少しは落ち着くだろうか?
「……サキ姉ちゃん。ラム酒、呑みたい」
「夜にはまだ早いぞ」
「知ってる。でも、呑みたい。お願い、頂戴」
「しようがないな。キャプテンモルガンは、特にスパイシーで甘味が強い。トリッキーな風味に騙されてグイグイやると中毒になる。よく気をつけよ」
「……うん」
咲子に目分量でワンショットだけラム酒を器に注いで貰い、グッとあおる。
「……くっはぁ! 効くぅ!」
糖蜜の甘い香りが、一つの熱い塊となって臓腑の奥へ流れ落ちていくのがわかる。
「思ってたより甘い。しかもキツイ。四十度ってあるけど五十度くらいありそう」
「タマちゃんが呑むのならわたしも……っ」
「サキ姉ちゃん、注いで上げて。あと、お姉ちゃんも呑んで」
「……わかった」
わたしは美琴に器を渡した。咲子は目分量でワンショット注いだ。
わたしがそうしたように、グッとあおる美琴。
「強いね。でも甘くて美味しい……」
さすがに祖先に土佐の血を持つだけあって美琴も酒に強い。
「ふむ。ではわたしも、やるか」
咲子も呑んだ。彼女の場合はかなり堂が入っている様子で、まるでテレビで見る戦国武将が片手で酒をあおる様相の、野趣あふれる呑みっぷりを披露してくれた。
「カリブの海賊も大満足?」
「なんならブラックフラッグでも掲げようか?」
アルコールを摂取したおかげかどうかはわからないけれども、少しだけ気持ちが静まった。代わりに美琴が妖しげな目つきになってぐいぐいと身を寄せてくる。
彼女の体臭を嗅ぐと再び性欲ボルテージが上がってくるので、慎重に鼻から口呼吸へと移行する。嘘。ガンガン匂いを嗅ぐ。だってミコトの体臭が大好きだから。
食後はしばらく休憩を挟み、三人して異様に悶々とした気持ちを抑えつつ後片付けをした。どうも発情した匂いにモロに当てられたらしい狼の震電が、ふんふんと鼻を鳴らしていつも以上に甘えてきた。しようのない子。これで狼。でも、可愛い。
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