第160話 覚悟のススメ。覚悟は完了してこそ。その2
美琴がタオルで拭いてくれるというので、わたしはタオルを手渡してされるに任せた。そうして制服を着直した。献身的に水気を拭ってくれたのは言うまでもない。
その後は、何事もなかったように拠点に戻る。
火の番をしていた咲子がこちらに気づいて二人ともお帰り、と言った。
わたしたちはただいま、と返した。
わたしと美琴も焚き火の前へと座り込んだ。
「どうした、髪の毛が湿気ているな。また水浴びでもしたのか?」
目ざとく咲子はわたしの濡れ髪に気づいた。
「ユーレカと叫んで全裸にキャストオフ、そんでクロールでばっしゃばっしゃと川を泳ぎまくったんだよ。気分爽快、スカッと&爽やか、コカ・コーラだったわ」
「そ、そうか。相変わらずお前の行動はよくわからんが、まあ、良しとしよう」
甘える震電が、座るわたしの太ももをあご置きにして寝そべってくる。わたしは彼の頭を軽く撫でた。美琴が、こちらにもたれかかって腰に腕を回してくる。
「ふふ。今夜はシカの燻製ステーキ食べて、そして、こってりと三人でお愉しみ」
「濃厚なオヤジ逢引きみたいな発言は自重せよ……」
「脳みそが溶けるような体験しまっせ」
「今から夜を想うだけでも、下腹部がほんのりと熱くなってくるよぉ……」
「ミコトの提案だしね。さすがに初めての経験だから、わたしもドキドキしてる」
「胸、さわってタマちゃんのドキドキを感じてもいい?」
「もちろん、いいよ」
「……本当は未成年には良くないが、一族の概念ではわたしたちは全員元服している扱いだ。ゆえに、いくばくかラム酒を呑むと良い。わたしも呑ませてもらう」
「サキ姉ちゃんは無限呑みできそうだね」
「実際、出来ると思う。小用のためトイレに何度も立たねばならぬとは思うが」
わたしは目を閉じた。美琴の手が柔らかくわが胸を押さえている。トクントクンと心臓が鼓動する。しっとりとした吐息。焚き火の柔らかな熱。何もかも心地よい。
思考は未だ巡っている。覚悟は完了済みだが、止まらないものは仕方ない。
内容は、榛名レンが用意したナイフに隠されていた百のメモ書きについて。
百の遺書。そこに書かれていた血濡れの事実。
これまでの巡回宇宙では、わたしの落ち度もあり、いずれの美琴も死に屈した。
けれども、今回は。
今宇宙のわたしならば、彼女を守り切ることも不可能ではない。
わたしは宣言した。美琴は助かると。
だからだろう、彼女はとても落ち着いていて、それでいて夜のお愉しみに備えてか、すでに吐息が甘ったるい。この香りは媚薬に近い。なるほど、発情か。
このような呼吸、男が嗅いだら三日三晩でも勃起して、命を削ってなお彼女の胎内に射精を繰り返しそうだ。それほどまでにムンムンしている。ああ、勃起。
わたしはしなだれかかる美琴と頬と頬をすり合わせ、そうして優しくキスをする。
すると彼女はより一層身体を密着させようと、腰に回した腕に力を込めた。
この、触れ合う体温の安堵感よ。
大切な友人、愛する人との密な接触の、なんと幸せなことか。
わたしは咲子の手を取った。軽く、こちらへ引く。
彼女は、おっ、という顔になり、次には表情を緩めて身を寄せてきた。
敬愛する義姉の体温。そしておっぱい。なんと、心安らぐことか。
両手に親友。足元に狼の震電。この幸せをどこまでも守りたい。
なればこそ、わたしは。滅私の心で、覚悟を決めて。
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