第143話 サバイバル三日目 朝 その3

「だ、だって、タマちゃんも咲子お姉ちゃんのブラの匂い嗅いでたもん……っ」

「いやまあそうなんだけどさ!」


「わたしのブラもそうだが、ごく自然に嗅ぐものだからツッコミが出遅れた」

「すぅー、はぁー。ドキドキする良い匂い。一日中、嗅いでいたい……っ」


「色々とダメ過ぎる! やめて止めて、恥ずかしいから!」


「お前が言うな。わたしのブラに顔を押し当てて深呼吸していたくせに」

「アレは良いものだ。乳が出たら、おっぱい吸わせてね?」

「たわけ」


「じゃあ、わたしのと交換、する? ちゃんと綺麗にしてから渡すよ……?」


「交換するのは構わない。でも、わたしのもきちんと洗ってから履くよね?」

「洗ったら、タマちゃんのせっかくのエキスが落ちちゃう……っ」


「もっとダメ過ぎる! つーか、せめて洗ってよぉ。そういう約束じゃん」


「……まったくもって二人とも、始末に負えんな」


 それはともかく、咲子の見立て通り、こうなってはどうにもならなそうだった。

 ひとまず背を向けて、震電の親愛の情を一身に受けたであろう内股を丁寧に洗い流していく。清潔さが一番である。オンナノコの部分も念入りに水で濯ぐ。


 そしてタオルで体を拭き、下着無しのままカッターシャツを着、スカートを履く。


「ミコト、わたしが本当に怒る前にブラとショーツをこっちに寄越しなさいよ?」

「うう。わかったよぉ……」


 むずがる美琴から下着を取り戻し、スカートのポケットに突っ込んでしまう。なんだかんだ言いながら水浴び中に洗ってくれたらしい。

 後で気づくに、ブラはともかく、ショーツはすり替えられた彼女のそれだった。しかしこれはいつものこと。この強かさ、似通ったデザインと同じサイズ、ロクに確かめずに受け取った上、薄暗い拠点の洞穴で乾かしてしまったのが敗因だった。


 そういえば、忘れてはいけないのが、罠魚籠の確認だった。

 昨日は昼と夜と魚を確保でき、食料調達の要として大変な貢献を示してくれた。


 ノーパンノーブラの少女たちが、三方の魚籠を確かめる。悪戯な風が吹くとスカートがまくれ上がり、体勢次第では可愛らしいお尻が御開帳である。


 わたしが確認した魚籠の中には二匹、魚がかかっていた。アマゴのようだった。ミコトの魚籠も二匹、咲子の魚籠には三匹、総計七匹も確保できてしまっている。

 水没させてあるシカ肉も合わせれば本日も食に困ることなく、心地よいほどに大食漢の震電でも過剰なほどだった。


 魚籠の口を蔓で縛って放置、水を汲んで拠点へと戻る。


 本日の朝食はナン風無酵母パンに、シーチキンの缶詰と昨日のクレソンとセリを塩コショウで味を整えて混ぜたハーブサンドだった。飲み物はいつもの笹の葉茶。

 食後のデザートには、水を汲んだ帰りにちょっと寄り道して取ってきた無花果がいくつかついてくる。あの独特の形状。見ているとムラっと来るのは気のせいか。


 料理上手なミコトが手掛けただけあって安定して美味しい。作るのは時間と手間がかかっても食べるのは一瞬である。本当にあっという間に食べてしまう。

 無花果を剥いてかぶりつき、お茶を飲む。

 ニホンオオカミ、わが飼い狼の震電もほぼ一瞬でハーブサンドを食べてしまっていた。こちらを見ている。無花果を剥いてやり、口元に持って行ってやる。震電は大喜びでパクリと果実にかぶりついた。犬種は、甘い物が大好きだという。


「食欲旺盛なシンちゃんには少々物足りなかったようだな」

「お姉ちゃん。シンちゃん違うからね。震電だからね」


 何度訂正しても無駄のような気がしてきた。わたしはひと口で無花果を食べた震電にこちらへ来るよう手招きする。彼は嬉しそうに身体をすり寄せて寝そべった。


「ちょっと足りないかと思うけど、震電にはいいことを教えてあげよう。昨日から川に突っ込んで冷やしているシカを、今日は解体するの。シカステーキに、シカの燻製もやっちゃおう。たしかシカの肉ってちょっとだけ筋張っているんだっけ? そうだよね、サキ姉ちゃん。切り分けた肉をナイフでズバズバ筋を切って、その背でボコボコに殴って、コンガリと焼いてかぶりつく! きっと、最高に旨いよ!」


 支配魔術のおかげで例え獣が相手でもある程度の意思疎通ができている。震電はウホッ、と変な声で鳴いて腹を見せ、くねくねと背中をこちらの膝に乗せてきた。


「嬉しい? たくさんのお肉が食べられるのが、嬉しい? このいやしんぼちゃん」


 うふふ、と腹を撫でてやる。

 よーしよしよしよし、よーしよしよしよし。いい子いい子。

 やはり動物は可愛いものだなぁ。なんせ、わたしだけのオオカミだものね。






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