第142話 サバイバル三日目 朝 その2

 性欲を持て余す。そりゃあもう、ムラムラする。

 響がいては、さすがに羞恥が勝って自慰などできない。


 自慰は、どう言えばいいか、たとえむなしい行為ではあっても、一人で充足し、満ち足りねばならないとわたしは思う。だってオナニーって気持ち良いんだもん。


 なのにあの子がいたら、できない。オナれない。なんて迷惑な。

 そんな顛末を昨晩二人に聞かせたら、二人から自慰を手伝うと請願された。


 繰り返すが、一人でいじって、一人で気持ち良くなるから自慰という。


 となれば、これは自分が背負う業というものなのか。たぶん業なのだろう。


 昨晩は三人が互いの胸を触れ合う妙ちくりんな状況に至り、わたしは調子に乗って彼女たちの胸に、自身が自慰のときにする乳首オナニーを施してしまったのだから堪らない。美琴も咲子も、見事に青く強烈な性欲の渦に呑まれていった。


 そうしてお互いに胸を中心に自慰というよりむしろ愛撫し合って、キスをして、ぺろぺろ舐め合って。もちろんそれだけでは済まずに色々と発散し、熱にほだされたような快楽の中、上半身裸のまま三人とも力尽きて眠ってしまったのだった。


 一応断っておくが、これはまだセックスではない。あくまで根幹は自慰で、その行為が皆で気持ち良くなる、互いへの過剰な愛撫に至ったに過ぎない。ある程度具体的に言えば、百合百合でラブラブな関係の、ネッキングに近い行為である。


 そして、現在に至る。大体わたしが悪い。あと、響もかなり悪い。


「――よし、起きるぞ野郎ども!」

「わたしは野郎ではないので、もう少し義妹抱き枕の満喫をだな」


「タマちゃんの赤ちゃん、どこにいっちゃったの……?」

「いいから、もう、みんな起きろぉ!」


 無理やり二人と一匹を起こす。


 昨晩跳ね飛ばしたブラジャーと制服のカッターシャツを手に取る。

 Iカップ用の巨大ブラをついでに発見する。


「ふむ。すーはーすーはー。サキ姉ちゃんの良い匂い」


 ブラに鼻を当て、深呼吸にて香気を補給。十分満喫してから咲子に渡す。


 トイレなど身なりを整えれば、次は火を熾す。順序が逆? 火を優先しろ? いやいや、漏れそうだったし。お漏らしするのはロリ混沌のオムツな響だけで良い。それはともかくとして、冷めてしまった昨日の残り湯で丁寧にうがいをする。


 鍋やボウル、ろ過機を抱えて、全員で水を汲みに川へと向かう。

 時刻は朝の六時半を少し過ぎた辺り。


「今日も良い天気。ってか、ヤバいくらい青空しか見えないとか怖すぎる」


 空が遠い。めちゃくちゃ、遠い。

 上を向けば、林の木々の遥か天高くには雲一つない群青の空が広がっている。


 川辺にたどり着いて、わたしは靴と靴下を脱ぎ、冷たい川の中へ入る。


「んー、ちょい冷たいけど許容範囲。軽く水浴びして、汚れた下着も洗わない?」


「む、む。た、確かに昨晩のあの交遊会で、ショーツが不味いことになっているな」


「それならわたしっ、あのねっ、わたしねっ。タ、タマちゃんの下着、貸して!」


「ハウス。ミコト、ハウス。わたしの下着を洗ってくれるって理解で良いのかな?」


「うん、そんな感じの理解だよ!」


 人の脱ぎたての下着など洗いたいか。洗いたいのだろう。

 本日も美琴は欲求に素直だ。


 この可能性世界に来るまでは、彼女はもう少し奥ゆかしい性格をしていたし、それが日常だった。……人は変わるものだ。彼女の場合、変わり過ぎだともいえるが。


 非日常と、恋する乙女。意中の相手は同性のわたし。大好きなあなた、か。


 わたしは制服を脱ぎ払い、下着も取り払って取って美琴に渡した。全裸である。


「あえて虎穴に入る構えか。その心意気や良し、と言って良いのかはさて置く」


「もうね、半裸で、文字通り女の子同士で乳繰り合えばこの程度はね」


 繰り返すが昨晩のあれは断じてセックスではない。まだ処女膜は健在である。


 ただ、互いの肌を合わせてしまえば、同性だろうと気持ちのハードルは下がるものだった。いずれにせよ昨晩かいた汗をさっさと濯いでしまいたい。汗臭いのは恥ずかしい。親愛の情が噴出し、飼い狼の震電に内股をペロリんちょされたのもあるし。


 当の狼くんは、周囲の警戒など無くのんびりと川の水を飲んで伸びの動作をし、大あくびまでしていた。性格の面も大きかろうが野生をどこかに忘れた風体だった。


「……アルファ(ボス=わたし)の傍にいるからって、油断し過ぎじゃない?」


 まあ、いい。こちらには美琴という超有能全方位警戒レーダーな彼女がいる。


 肌に冷たさを慣らすように、パシャパシャと少しずつ体に水を馴染ませていく。まずは左腕を拭い、右手へ移る。顔を冷水で洗顔、首筋へ移行。そして平坦な胸へと汗を落としていく。こんな胸でも昨晩は触れ合ったのだ。すっごく気持ち良かった。


 一人より、相手がいたほうがずっと気持ちいい。

 そりゃあ誰しもセックスするわけだ。気持ちが良くて、しかも幸せだし。

 惜しむように塗れた手で拭う。

 次は、背中だ。


 せっかくなので美琴に頼もうと思い立って振り向く――目を疑った。


「ちょ、ちょっとミコト。それはアウト! レッドカード! 試合終了!」


 何を思い余ったのか、美琴はわたしのショーツのクロッチ部分に顔を埋めていた。


 慌てて取り返そうとわたしは手を伸ばす。ハッとした美琴は有り得ないほど素早い回避で躱してしまう。うおおいっ、その回避力はサイコロクリティカルか何かか。


 全裸の美琴は、まるで宝物でも守るようにわが汚れた下着を胸に防衛に入る。


 にじり寄るわたし。首を横に振りつつ後ろに下がる美琴。呆れ顔の、咲子。


 なんなのこれ。





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