第141話 サバイバル三日目 朝 その1

 夜が過ぎて、次の日。

 首が、絞まる。あまりにも息苦しくて目を覚ました。


 上半身裸の咲子が、背中からわたしを抱き枕の如く抱きついていた。

 昨日の朝とほぼ同じ状況ではあるのだが……。

 違うのは背を圧迫する、崩れないバケツプリンの如き爆乳がダイレクトに押しつけられていることか。彼女の乳首がぽっちりと二箇所、勃起しているのを感じた。


 更に同時に、それだけではなかった。


 上半身裸の美琴が正面からわたしに抱きついているのだった。

 甘えたがりの彼女は少しだけ身体の位置をずらし、頭がこちらの鎖骨辺りに来るよう調整をしている。両手は取られ、形の良い、控え目で愛らしい彼女の胸にふわりと当てられている。ああ、乳首が、乳首が! 桃色をした、乳首が! 指の合間にちょうど挟まれて、フルフルとされるがままサクランボな熱を帯びている。


 とはいえ――。


 おっぱいとおっぱいに挟まれるのは至福だが、その実、事態はひっ迫していた。


 咲子の抱きつきで首が綺麗に締まり、美琴の寄りすがりで身体は動けない。

 いやはや、窒息寸前。おっぱいに死す。まあ、そういう死に方も悪くはないが。


「ダメダメ。まだ死ぬわけにはいかない。もっと人生を楽しんで、もっとおっぱいを堪能したい。起きろ二人共ぉ! ジョジョォ! 俺は人間やめそうだぞぉ!」


「……大丈夫だ。問題ない」

「イーノックさん、それ、マジで問題しかないから!」


「ほら、今タマちゃんのお腹が動いたよ……。元気な赤ちゃん、生まれるね……」

「今日はわたしが妊婦役かYO!」


 ツッコミが追いつかない。


 ギリギリと絞まる咲子の腕。寝ぼけているのかまだ寝ているのか、それとも確信的なのか、美琴がこちらの腹部をさわさわと大事そうに撫で始めた。


 朝の一発目からカオス。素晴らしいぜチクショー。


 いわんや、わたしも上半身が裸だった。ほぼ、ペタンコの胸。サイズは、A。美琴の手が、わが下腹へと向かう――が、スカートが邪魔をしてそこで止まる。


 ほっとするも、下半身に違和感が。


 首周辺を咲子が腕で固めているので、なんとか目線だけをそちらへ這わせる。

 茶色いもの見えた。

 柴犬のような、ちょっとゴワゴワした独特の毛並みが、伏せの状態で。


 なんとニホンオオカミの震電が、わが股座またぐらに顔を突っ込ませて熟睡していた。


 暗くて狭いところが安心する気持ちはわからなくもない。わたしも小さいころはタンスの中に閉じこもって狭さと暗さを満喫したものだ。これを子宮願望という。


 が、よりにもよって人のスカートの中に顔を突っ込んで眠らなくとも。どんだけマニアックな寝方なのか。やめるのだ、美琴が真似をしかねない。


 しかも気のせいだと思いたいのだけれどもそうもいかなそうな現実が。内股の辺りがカピカピになっているような気がする。いや、カピカピだ。親愛の情の発露で太ももをベロベロと舐めつくして時間が経ち、それが乾いた感触というか……。


「もおおっ。サキ姉ちゃん、せめて首絞めは解いて! 苦しい!」


 ぺしぺしと彼女の腕を叩くと腕が緩んだ。深呼吸をする。

 ゆっくりじんわりと腹の隙間からスカートの中に手を突っ込もうとしている、油断ならない美琴の手を掴み取る。どんだけわたしのオンナノコに触れたいのか。


「ミコト、起きてるでしょ。昨日の夜の続きはもうやらないから。朝からとか無理」


「わたしとタマちゃんの赤ちゃんが欲しいよぉ……」

「あーこの子、起きてるようで寝てるのか。まだまだおネムさんかなー?」


 昨晩は酷かった。

 脈絡を順に話す前に、わたしと響のその後を少しだけ語らねばならない。


 あの『隷属解放の乱事件』から先、響がベッドに潜り込んでくるようになった。


 わたしだって思春期の女の子である。

 ごく健康的に、突如、本当に前触れなく性欲に駆られることがある。特に寝る前などが顕著だ。こういうときは、我慢せず自慰をするのが常だった。


 しかし、いざムラムラを発散せんと布団を開けると、ロリ混沌たる彼女が子猫みたいに丸くなっているのだった。すでにくうくうと気持ちよくお眠りになられている。


 パジャマを着て、クトゥルー風の縫いぐるみを小脇に、女児用オムツまで履いて。


 これが毎度毎度と続く。

 悪いことに、気持ちが昂った日に限って、あの混沌の幼女は、いるのだった。


 おわかりに、なられるだろうか。

 神はサイコロを振らない。悪意無き悪意。無邪気こそ最悪の邪悪。


 勝手にお友だち認定されてしまったのだった。そういえば混沌の千の貌の一つ、鈴谷孫七郎が去り際にこんな言葉を残していった。オツカレサマデシタ、と。


 まさかと思いたい話、あのセリフは『お憑かれさま』なのではないか。

 あのとき、わたしだけ彼の存在を感づかせたのは、これを聞かせるためだったのではないか。混沌の邪神は回りくどい。この仮説、有り得ない話ではない。






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