第132話 隷属解放の乱事件 吶喊! その2
それにしても、シリンダーに閉じ込められ、魔力抽出素材にされていると聞くわれらが一族の少女たちはどこにいる。儀式の現場にそれらしいものは見当たらない。
「ねえねえ、大嫌いな炎のアイツ、炎の捕食者ヤマンソ召喚に変えてあげよっか?」
肩の上の響が、わたしの頭をナデナデしつつ提案をしてくる。
なんと言うか最初に比べてずいぶんと気安くなっている。
「ダメ。アルスカリ側はまだ気づいてないだろうけれど、
「うふふ、今ね、お兄ちゃんにも同じこと言われたの」
肩車されている響は、くっと柔らかな太ももをわたしの頬に押しつけてきた。
「じゃあ、あのね、タマキお姉ちゃん。わたしとね、お友だちになっても、いいよ」
「どういう脈絡の誘いかたなのよ。それってカミサマ的な意味で強制なの?」
「ううん、そんなことない。任意で自主的だよ」
「それならわたしは、アンタとは絶対に友だちにならない」
「にゃあ? なんで? どうして? なろうよ、わたしとお友だちに」
神と呼ばれる者を舐めてはならない。まかり間違って邪神と友誼を結んでしまっては、どんな災厄が押し寄せるかわかったものではない。ヤバすぎだろう。
ただでさえわたしはティンダロスに連れ去られた女性を親に持つ、特異な存在なのだ。いつどこで母と同じくかの世界へ引きずり込まれるか、そんな状況下で増して混沌の邪神に見初められるなど、悪夢を通り越した絶望以外の何者でもないだろう。
この子、響は、混沌の顕現体にしては非常に人類に友好的に見える。が、彼女の恐るべき本質は、何を置いても『無邪気』な点にある。これが、恐ろしい。
「みゅ? 無邪気がそんなにも恐ろしいの?」
こいつ、人の心を読みやがった。わたしは胸の内でチッと舌打ちした。
「最も邪悪なのは、人心に
「そうなの? えっ、このどうしようもない姿って、そんなに凄かったの?」
「神のくせに己の凄まじさに気づいていなかったとか、冗談でも言わないでよ」
「じゃあタマキお姉ちゃんもその姿は人を油断させるから、わたしと同じだね?」
「……そろそろ明かりが落ちるわ。人間失格さん、トミエさん、打ち合わせ通りに」
わたしは響との会話を断ち切って二人の食屍鬼に声をかけた。ムダ毛のないわが平坦ボディの話などどうでもよい。なぜならそれらは母からの遺伝だから。
わたしの母は、ある種の性犯罪臭が漂う――実際、鼻をつけて体臭を嗅ぐとミルクみたいな匂いがする――年かさを無視した、永遠の幼い少女の姿をしていた。
ミルキーはママの味というが、わたしにとっては、ミルキーはママの香りだった。
口の中で苛立ちををかみ殺したそのとき、フッと明かりが落ちる。
儀式用のロウソク照明だけでは礼拝堂のすべてを灯せない。彼らアルスカリは炎の巨大神性を召喚するさ中にもかかわらず、容易に平静さを失ってどよめいた。
礼拝堂の出入り口で隠れていたわたしたちは、これを合図に一斉に駆ける。
敵対するアルスカリは――
祭司が一体、助祭と思しき者が四体、信者が二十体ほど。
わたしと分裂した響、人間失格さん、トミエは時計回りに迂回しつつ祭司を狙う。
助祭や一般信者を狙う食屍鬼たち八人は、更に十を数えて、真っ直ぐ突撃する。
犬先輩と分裂した響、柴犬のセトは反時計回りに儀式そのものを破壊する。
金切り音を上げた。それは、掃射される大量の銃弾だった。
犬先輩の放つ、自動小銃による援護射撃であった。
彼は銃に造詣が深いのか、弾切れ後は流れるように弾倉を交換、再び掃射する。
二度目の弾切れとほぼ同時に、わたしたち突入した全員が目を手で押さえる。
間を置いて、目を閉じ手で押さえてさえ指の隙間から膨大な光が漏れてくる。
犬先輩が、特戦隊から奪った閃光手榴弾を、鉄火場に投げ込んだのだった。
敵のアルスカリどもは大混乱だ。先ほどの掃射で倒れ伏した者もいる。
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