第130話 隷属解放の乱事件 救出 その3


「一族の中でアンタの嫁になる女の子がいたら、さぞや興趣ある人生を送れそうね」


「興趣ある人生って中華式の呪いの文言やんけ。波乱の人生って意味やろ、それ」


「そうだよ、お兄ちゃんとケッコンするのはわたしだもん」


 わたしのジャケットを掴み、響が話に加わってきた。


「アンタは妹枠に収まったほうが。どうせずっと合法ロリの姿なんでしょう? 世の中の小児性愛者たちが、血の涙を流してアンタら二人の仲にほぞを噛みそうよ」


「違うもん。幼妻だもん。大体、それを言うならタマキお姉ちゃんも胸はペタンコでオンナノコの部分もツルツルじゃないの。わたしも、お姉ちゃんと同じだもん」


「なっ、何をっ。わ、わたしは少なくともアンタよりは……っ」


 顔がカッと熱くなって反論しようとして、犬先輩に肩を叩かれて小さく首を振られた。ハッとして周りを見回すと紳士な食屍鬼たち全員が目を逸らしてくれている。


「ええと……皆、今のはすべて、余さず、忘れるように。オーケー?」


「知ってる? タマキお姉ちゃんって、幼女と少女の中間みたいな甘さと涼やかさのある体臭をしているんだよ。思わず鼻をつけて嗅ぎたくなるような、良い匂い」


「ぎゃーっ、お願いだからもうそれ以上は言うなーっ!」


 くんくん、と犬のように鼻を動かした響はにこやかにこちらに両手を広げた。


「じゃあ、黙っててあげる。だからハグしてくれても、いいよ?」

「なんなのこの子っ。人見知りじゃなかったのっ?」


「あー、響はアレやで。自分が甘えても大丈夫なヤツをやな、ジッと見分けるんよ」

「マジか。えっ、これって抱きしめてあげないと天罰降る系?」


「諦めてぎゅっとしてやれ。それで得心するから。できれば頭とか撫でてやれ」


「マジかぁー。邪神サマは実は甘えん坊なロリっ子かまってちゃんだったのかぁ」


 わたしはしゃがんで響を抱きしめてやった。頭を撫でて、ついでに彼女の肩口に顔を当てた。甘いミルクを練り込んだような、いかにも幼い子どもらしい香りがする。


「くっそー、響だっていい匂いするじゃん。なんとも母性をくすぐるような、心を惹かれる体臭。この酸っぱ甘い、ミルクキャンデーみたいな幼女臭が堪らんぞぉ」


「……言動が変態になってるぞ。そっから先はお前さんのミコトっちにしてやれや」


「親友にそんなセンシティブな行為ができるわけないじゃん。将来的にはどうなるか分からないけど。マジ分からんけど。たぶんあの子とは、最後までヤルと思うし」


「百合的な不純同性交遊?」

「もちろん、百合どころか普通にレズセックス」


「ねえ、わたしもタマキお姉ちゃんと同じ一班に行っても、いいよね?」


「うーん、でもアンタは……げえっ、一体どうなってんのよこれ?」


 わたしに抱かれる響と、犬先輩にくっついている響と。

 どう表現すべきだろう、邪神幼女の響は、二柱に分かれていた。


 犬先輩は慣れた様子で、こいつはそういう神性や、と肩をすくめた。人間失格さん以下食屍鬼たちは正当な反応だろう、怯えて部屋の隅へ一塊になっていた。


 犬先輩の足元で控えていた柴犬のセトが、わんっとひと鳴きした。


「深く考えるとどこまでも狂気に陥るわね。なのでわたしは考えない。行くわよ」

「お前さん、俺が思ってたよりずっと神経が太いな。ええこっちゃ」


 二人と二つに分かれた一柱。モヒカン十人。さらに一匹は礼拝堂へと向かった。






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