第114話 隷属解放の乱事件 探索 その4
「無駄無駄無駄ァ! 最っ高にハイってヤツさぁ!」
別に某漫画のように
だが、撃ち出された弾丸はすべてわたしから強制的に逸らされいてた。
あまつさえ――。
悲鳴。
それは銃口を向け、わたしに一斉射撃をした四人から発せられていた。
わたしの『被害を逸らす』はただの防御魔術ではない。攻防一体の魔術である。
逸らされた弾丸は、すべて撃った側にキャッシュバック。いや、日本語として少しおかしい表現か。それでも感覚的には、つまるところ、そういう感じなのだった。
「教えてあげる。二+三=五。三+二=五。四+一=五。一+四=五。なのよ」
「何を、言って、やがる!」
自ら撃った弾丸でハチの巣になっているにも関わらず、腕章をした、リーダーの男は果敢にもアサルトライフルを捨ててこちらへと突進してくる。
「撃つという原因=問題に対し、逸らされるという結果=回答に至る。ただし、答え方は幾通りもあるってコトよ。逸らし方をいじれば、今みたいになるってわけ」
「ふざけてんじゃねぇ!」
せっかくわたしの魔術の深奥をレクチャーしているというのに、この男は。
リーダーの男は撃たれた身体をものともせず、まさに手負いの肉食獣さながらにこちらへ突進し、訓練され尽くしたであろう見事な挙動でナイフを突き出した。
だが『被害を逸らす』魔術は依然発動中である。彼の荒々しくも流麗な突きはぐるりと逸らされ、そして、自らの左肩に深々と突き刺してしまうのだった。
「ぐっ……なんだ……さっきから……こんなことが……有り得るのか……?」
「あらら痛そう。それじゃあ『治癒』をしてあげようね。うふふふ」
わたしは手を伸ばした。
轟。
男は、恐怖に顔を歪ませた。
だが、逃げられない。逃がすわけもない。
喉元を掴む。『治癒』を行使する。
腐る。腐敗。腐乱。腐食。
男の全身は即座に、生きながらにして、腐り、落ちていく。
獣の悲鳴。小便を漏らす音。力なく垂れさがる両腕。膝を突き、崩れ落ちる。
傷という原因=問題に対して、治癒魔術による傷の治癒という結果=答えが出る。
ただし答え方は先ほどの足し算の例のように、幾通りも答えに至る道筋がある。
わたしの治癒とは、人の身体に元々ある治癒力の代謝を高めて治す魔術だった。
ゆえにこの魔術を受けると、傷が癒える代わりに熱量消費で異様に腹が減るという欠点があった。ある意味、ダイエットにも応用が利きそうな治癒魔術である。
ときに、ひと言で治癒魔術と言ってもその手管は幾つも存在している。
繰り返すが、わたしの治癒は、代謝を高めて治すというもの。
この癒しの方法は、悪用すれば、容易く人を殺せる。
いやまあ、医療系は特に『人の身体を識るがゆえに』その気になれば簡単に人を殺せる技術体系ではあるのだけれども……。
それはともかく。
わたしの魔力容量は世間一般人をショットグラス程度として、競技用の五十メートルプール程あった。その魔力を使い、全力激烈に傷を癒すと、どうなるか。
答えは、腐敗する、である。
強力に代謝を促せば、体内の熱量も栄養素も酸素も一気に燃やし尽くしてしまう。
それでも強制的に代謝を高めて治癒をしようとする。
全身のエネルギー成分を使い尽くす。
確かに傷は治る。傷はね、ちゃんと癒えるのよ。
が、身体はそれに耐えられず代謝の勢いで壊死し、さらには肉体に常駐する数十兆もの細菌も否応なく活性化し、凄まじい勢いで有機物の腐敗を進行させる。
これがわたしの黒歴史たる字名『不敗にして腐敗の姫君』の正体である。
「死んでないよ。まだ、殺さない。生きているからこその地獄は、どうよ?」
わたしは残りの三人にも『治癒』すべく近寄っていく。
一人は自ら放った弾丸を顔面に受け、顎部を大幅に吹き飛ばして虫の息だった。
もう一人は胸部に弾丸を受け、血に滲ませて苦痛に呻いていた。
治してあげよう。治癒魔術でその致命傷から救ってあげよう。そして腐れ。
最後の一人は、右足を脛から吹き飛ばしながらも、這いながらこちらに背を向けて戦場からの離脱を試みていた。なるほど、それはいけない。足を治癒しなければ。
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