第110話 隷属解放の乱事件 導入 その8
作戦の概要は、ごく簡単にはこうなる。これらの項目を戦術レベルに落とし込む。
一、食屍鬼とコンタクトを取る。安全を取るなら地上で接触すべきだが、確実を取るなら地下一択。折衝はわたしが担当する。犬先輩は参謀として支援に徹するらしい。
二、共闘体制を敷ける場合は、地下より彼らと共にアルスカリの拠点を奪還する。ただ最優先は、遺跡内で囚われているだろう榛名歩と霧島蓮子を救出することとする。
三、最悪、共闘体制が取れない場合は殲滅戦となる。巨人も鬼も一切の殲滅。最優先は二の項目の通り。障害となるものは取り除く。なお、トドメは響が担当する。
四、いずれの場合も当事件に関わったアルスカリはすべて抹殺する。一族に害をなすモノに例外はない。場合によっては猟犬を放つ。絶対に殺すマンである。
五、遺跡は、その後、人類――否、われらがイヌガミの一族に脅威がない限り食屍鬼に返還する。その後は空間を接続させた魔術を解き、彼ら食屍鬼の安全も確保する。
「ところで、アルスカリを殲滅するにあたって、親玉のナイアルラトホテップに断りを入れなくてもいいの? アンタの元信者をヤっちゃっても問題ないかなって」
わたしは銀髪幼女の響を見つめながら犬先輩に尋ねた。
「ここにコイツを連れてきている時点で許可されているようなもんやが、それでお前さんが安心できるなら訊いとこか? どうや、ヤってもいいよな?」
「にゃあ。ヤってもいいよ。わたしにはお兄ちゃんだけいればいいの」
言って彼女は犬先輩にぎゅっと抱きついた。
「……と、いうわけや。許可が下りたというコトで、問題ないな」
「うわー、超あっさりー。しかもヤンデレっぽい発言アリガトウゴザイマスー」
ヤバすぎだろ、この子。いや、見た目はロリっ子の邪神顕現体は。
そもそもかの混沌邪神が自分を拝するからといって大事にするかと言えば、はなはだ疑問だったが……。まあ神とはそんなものと考えて然るべきなのだろう。
「さて、地下で行動するのはわかっていたから準備は前もってしてある。リョウジさん、試作のサングラス風微光感応暗視スコープと、注文してた護身用の特殊警棒に防刃ベストなどを彼女にも渡してやってください。そろそろ、行きまっせ」
「はい、ではこちらをどうぞ」
「暗視スコープって、なんていうかヘッドマウント式のごっついものじゃないの?」
「そいつは俺が桐生の科学研究所で造った超薄型の試作品やで」
「軍事関係に余裕で転用されそうな、凄いもの作っちゃったわけね」
わたしはその場で装備した。護身用の特殊警棒は腰の後ろに、防刃ベストは桐生が近年開発に力を入れている新型で、薄手で軽く、動きを妨げない一級品だった。暗視装置は地下に入ってからつけるので土産物に持たされた紙袋の中に放り込んでおく。
「全然関係ないけどその紙袋の中身って、なんや?」
「榛名のご当主、幸恵さんへのお土産だよ。父さんが気を利かせて持たせてくれた」
「なるほど。そしたら行くか。響、お前は俺の許可なく力を絶対に振るうなよ。大阪が軽く先祖返りしかねん。河内湾を復元する必要はないからな」
「うん。沈めるときは太陽系を丸ごとだよ。それでね、わたしとお兄ちゃんだけの遊星を創って一緒にずっと暮らすの。……とってもロマンチック、なの」
「やめんか。お前がその気になったらいつでもできてまうのがマジでやべえ」
様々に理由をつけてはいるが、なぜゆえ一族の鬼札たる犬先輩こと南條公平がわたしに協力を要請したのかが、響のひと言ではっきりと理解できた。
コンビニに行くみたいに気軽に太陽系を沈める発言とか、絶対に頭おかしい。
粘土で捏ねて作り、これがわたしたちの惑星ね、みたいな発言も頭おかしい。
最強の地の精とも言われる混沌の邪神の手綱を引かねばならず、存在自体が絶望ともいえる度し難い彼女を御するだけで精一杯なのだ。なるほどなぁ、と思った。
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