第77話 家族が増えるよ、やったね! その1
食後、笹の葉茶で口をさっぱりさせ、わたしは竹のベッドに寝転がった。美琴と咲子も倣って寝ころぶ。体力は、食と休息で養う。決してだらけているわけではない。
「そういえば、みかんの缶詰どうしよっか。やっぱ食べる?」
「もうおなか一杯だよぉ……」
「夕飯以降に回してもいいのではないか?」
満腹とは幸せと満足の証。そういうことになった。
ちなみに干していた下着類は魚を焼く前に装着していた。まだ湿気てはいるが、煙で下着に魚のニオイを移すのはさすがに女子としてどうかと思ったためだった。
「午後の探索だが、どうするつもりだ?」
しばらくして、同じように寝そべる咲子が聞いてきた。
「うーんとね、まずはこの一個だけ持ってきた魚籠罠を川に再度仕かけるでしょう」
「うむ、ついでに川べりを少し歩いて獲物を探知するのもアリだな。狩れるものがいなくても何か食料や薬になる草が生えているやもしれん」
「具体的にはどんなのが食べられるの? 一例でいいので教えて」
「川べりだと、うむ、そうだな。一応断るに、元の世界基準で語るからな。……旬を外してちと芯があるやもしれぬが、セリは生えているだろう。クレソンも、あれは生命力が強いので冬場以外なら群生しているはず。ガマは、あれの実がなるのは十一月くらいか。草地だとミツバ、オオバコ、タンポポ、ヒナギク、シロツメクサ。もちろん旬など無視。野草は人の手のかかる野菜とは違い、そんなにヤワではない」
「おおー、食べられそうなのが結構あるものだね。薬草方面だと何があるの?」
「喰うなら三月から五月だが、薬用としてならヨモギはいつでも使えると考えて良い。別名で血止め草とも呼ばれるしな。気をつけるべきはトリカブトと間違えると死ぬ点だ。そういえばセリも油断するなよ? 三大毒草の内、トリカブトに並ぶのがドクゼリだ。ついでなので三つ目の毒草がハシリドコロ。フキノトウと似ているのでこれまた注意しろ。どれもが毒性が高く、食すとまず間違いなく助からない」
「めっちゃヤバいじゃん。いや、知識は大事なんだけどさ、他に薬草はないの?」
「脱線したか、すまん。手軽なものではドクダミは鉄板。乾燥させたものを生薬として、十薬と呼ばれている。解熱、解毒、傷薬になる。次はセンブリ。食欲不振、腹痛や消化不良、健胃作用がある。端折ってキササゲ、カキドオシ。フキに似ているツワブキは春は食用、秋は薬用となる。傷薬代わりになり、乾かすと食当たりにも利く」
「じゃあウサギが獲れたら、野草も一緒にぶち込んでがっつり水炊きだね」
「良い考えだ。日中はほとんどあれらは活動せんが、それでも鍋は楽しみだな」
漫画で読んだアイヌ式ひき肉料理のチタタプも興味があるけれど、小麦粉を加えてつくねにしたほうがいいかもしれない。そうすれば量も増えるし、腹も膨らむ。
「で、行動予定だけどね……。現状、わたしたちは狼か犬だかは知らないけど群れを確認している。狼なら放置で良し。一方、犬だとしたら背後に人の存在も警戒すべきかなと。必要があればこちらからの襲撃も考えるよ。わたしとしては、その群れを犬と前提して、リスクを踏む形で当麻寺近辺を様子見たほうがいいと思うんだよね」
「人がいるか、いや、知能を持つ存在がいるのか、だな」
「仮にいるのなら、数と脅威度によっては皆殺しにする腹積もりで。たとえ相手が普通の人間でもこの考えは変わらないから覚悟しておいてね。攻められるおそれがあるなら、こちらから攻める。不意打ちを喰らって組み伏せられて、なすがままにされるなんて我慢ならない。となれば殺すしか。これも異文化コミュニケーションさね」
「……鏖殺か。わかった。肝に銘じておこう」
「ミコトもそのつもりでお願いね。わたしとサキ姉ちゃんは前衛。ミコトは主力」
「う、うん……頑張る……タマちゃんのために、敵は残さず滅ぼすよ……」
何度でも繰り返して言う。本当に恐ろしいのは、知能を持つ存在なのだと。
もっとも、逆を返せば、世界の異物たるわたしたちも『それ』に該当するのだが。
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