第69話 サバイバル二日目 その6

 本日最初の仕事は、狩りのための罠の設置だった。


 川魚には魚籠状の捕獲罠をすでに仕かけている。

 今回は陸上動物の狩猟である。


 単純に狩猟とひと言でいうが、実のところ一番適した時間帯とは、早朝と夜更けなのだった。真昼間に狩りは、あまり行なわれない。

 というのも基本的に動物はこの二つの時間帯にねぐらや食事場所、水飲み場を移動する。そこを狙うわけだ。獲物の出現場所が分かれば狩りが容易になるのは言うまでもなく、待ち伏せてレッツハンティングなのである。


 しかしこれは余談になるが、咲子曰く、現日本国における許可された基本的な狩猟時間帯は日の出から日の入りまでとのことだった。

 つまり日中に限定されている。ただこれは銃火器を用いての誤射を防止するための安全性に基づいてのもので、罠狩猟にはそのような時間的制約はない。二十四時間フル活動の、フード系はほぼ百パーセントブラック企業と同程度に酷使できる。


 県によって微妙に異なってくる話――、

 奈良県を例に挙げるとして、狩猟解禁は十一月十五日から翌年の二月十五日(ニホンジカとイノシシに限り、三月十五日)までで、銃器の使用は日中のみ、ただし罠狩猟は昼夜を問わない全天候フルカバーなオン・デ・マンドとなる。


 もちろん罠設置には様々な規制が設けられていて――、


一、まず、県ごとの罠狩猟免許の取得が必要になる。一県に一つ、免許は必要。

二、県別に許可が必要な猟具が異なるので注意。ちゃんと調べること。

三、一般的によく使われる足くくり罠にも、色々と制限がある。

四、熊を引っかけないための形状条件や罠幅の制限、名札取り付けの義務など。

五、首を絞め殺す引きスネアーは禁止猟具となる。たまに人間も狩るから。


 などなど、様々な(クソ面倒くさい)規約が事細かく設定されている。


 さて、さて。

 ここまで回りくどく書くのには当然ながら理由があってのものだ。


 狩りとは、そもそもが危険な行為である。野生動物を舐めてはならない。

 銃火器を持ったからといって、それで絶対有利にはならない。不意を突いて獣に襲われたとき、あなたはゴルゴ13のように冷静にそいつを撃ち抜けるか。


 断言する。無理だ。撃つだけの余裕があるなら木にでも登ったほうが良い。

 もちろんあなたが自衛官など、いわゆる軍関係出身なら別だが……。


 現実では、時期や時間帯、罠に至っては禁止猟法など制約がやたらと多い。


 ただし、これらは、法治国家である日本国においての法にすぎない。


 今現在わたしたちのいる場所は、日本であって日本ではない。アザトースが見捨てた可能性世界。少しでも馴染みの深い表現を使うなら、平衡世界である。


 ゆえにありとあらゆる制限や禁止を無視すると、先に宣言しておく。

 そも、サバイバル状況下では、生き抜くためのあらゆる行ないが肯定される。


 戦わなければ、生き残れないのである。

 罠を張り、狩って、バラして、その血肉を喰らう。

 糧になってくれたことに感謝し、貪り食う。その血肉を取り込む。


 これを残酷などという輩は、もう反肉食原理主義の信者にでもなると良い。


 たとえ植物性の食品であっても、肥料に動物性を使っていないとは限らない。

 衣服の類もバスケットボール選手みたいな化成のものに限定すること。

 化粧品は、実は動物性の原料を大量に使っている場合があるので要注意。

 当然、薬品類も動物を使っているし、動物実験を当然しているので使用禁止。

 子ども、特に赤子は動物性脂肪が足りないと脳の発育に多大な悪影響を及ぼす。

 それ以前に栄養失調で殺す羽目になるので、虐待・親権のはく奪・逮捕は不可避。


 他にも色々あるが、要するに信仰は勝手だが、殉教は覚悟しておいた方が良い。

 信仰に生き、信仰に死ぬ。遺書は必ずしたためておくべきだろう。


 わたしは、生きるためならなんでもするタイプだ。

 その辺りを踏まえて、これからの手記を書き綴っていくとする。





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