第70話 罠狩猟とボンクラ女子高生 その1
食料調達の効率を考えると、闇雲に獲物を追うのはまさに愚の極みだった。ゆえに二十四時間獲物を待ち伏せる、前述していた罠の使用がもっとも望ましい。
咲子は弓の弦をつがえ、太めの竹から作った矢筒を背負った。矢は六本ある。
「基本はくくり罠だ。たぶんタマキのことだからベトコンの凶悪トラップなどを想像しているかもしれんが、効率を考えるとあれは労力のほうが勝るので使わない」
「えー。ブービートラップ作ろうよー。死体は探すより作ったほうが楽なんだよー」
「凶悪なサイコパスみたいな言動は自重せよ、まったく」
「リンダキューブだよ。セガサターン版の。後は、仲のいい夫婦はいつも一緒とか」
「……まあ、部員としては結構だがレトロゲームは横に置いておく。それで、だ」
わたしの言動を振り払い、咲子はワイヤー束をスポーツバッグから取り出した。
「繰り返すが、こいつを使ってのくくり罠だ。よし、タマキ。今からわたしは獣道を探るのでそれを持ってついてこい。設置方法を教えるので真剣に聞くようにな」
「咲子お姉ちゃん、わたしは……?」
「ミコトには重要な任がある。それは、イヌガミを使っての警戒。最優先対象は知能を持った生き物で、主としてこの世界の住民が該当する。あとは熊を初めとする大型動物、群れをつくる狼や犬、突進力抜群のシシ、この辺りの危険動物を見て欲しい」
「うん、わかった。頑張る……っ」
咲子の指導の下、わたしたちは狩りに向かう。
念のために装備を書き込んでおく。
咲子は弓と六本の矢、およびナイフ。わたしは軍用シャベルとナイフが二本、ニッパーとワイヤーの束。美琴はナイフ一本だけ。ただしイヌガミが三体憑いている。
三人は咲子を先頭に林の中に足を踏み入れて行く。
五分ほど歩いただろうか、咲子は、うむ、と頷いてその場にしゃがんだ。
「どったの」
「二股の足跡と纏まったフンを発見した。これは新しい。形状と匂いは……」
「えっ、匂い嗅ぐの? うわ、つまんでるし」
「ニホンジカだな。足跡の二股といい、確定だ。ちなみにこのフンは喰える」
「意表をついてスカトロ宣言っ?」
「たわけ。確かに味は散々噛み尽くしたガムと粘土を足したような最悪なものだが、ビタミンやミネラルなどの補給が可能なのだ。もちろん、最終手段としてだが」
「喰ってるし、サキ姉ちゃんシカのウンコ喰ってるし!」
「黙れ。これは祖父からの生きるための知恵なのだ。なんならお前も喰ってみるか」
「口閉じます。だからスカトロだけはご勘弁を。でもおっぱいは吸いたいです」
「まったく……豆状のフンは喰える。主にウサギやシカだ。覚えておけ」
「タマちゃんのおしっこなら、一滴もこぼさずに直飲みできる自信があるよ……」
「う、うむ。ミコトは、その、ほどほどにな。イヌガミの使役は心身に辛かろう」
余計な情報を加えると現在のわたしたちは、未だノーパンでノーブラである。
咲子は真剣な表情で周囲を見回した。親指と人差し指を広げて五センチほどの幅を作り、自らの目の前から腕を伸ばした先まで手を何度も往復させている。
何かの目算をつけているのはわかる。が、視線の先には一本の木と、獣が残した足跡しかなかった。彼女には、一体何が見えるのだろうか。
「サキ姉ちゃん?」
「む? ああ、これは罠をかける位置を計っているのだ。タマキは一メートルほどのワイヤーを二、三本用意しておいてくれ。基本的に人間が歩きやすい地面は、獣も歩きやすいと判断する。よーく観察するのだ。ほら、地面に落ち葉が微妙に砕けているだろう。このニホンジカの足跡は、ここから先、奥へとずっと続いている。もちろん獣道は一本だけではない。幾本もの筋が見えるからな……」
「そんなのが見えるんだ?」
「出来れば大物を狙いたいところだが、それには入念な準備がいるので今回は小物を狙う。おそらくこの近辺に、林の切れ端の如く陽だまりの場があるはず。そこに巣穴の一つが必ずある。ほら、よく見るんだ。……わかるか? そっちのシダ類の群生を分ければ小型動物の道が伸びていることに。おそらくはウサギだろう。その道をたどればヤツラの巣穴にたどり着く。この通り道に、複数個の罠を仕かけて行く」
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