第55話 寝床の作成。愛の巣の作成? その7
夕食は先ほど言ったようにカロリーメイトが二箱と缶詰――今回は白桃だった。
あっという間に平らげて、ふうと息をつく。
正直、全然満たされない。
余計に腹減りが加速した気がする。
あー。もっと食べたい。
美琴の作る中華飯で腹一杯に満たしたい。
太る? ダイエット? その単語とその意味は知っている。
でも、やったことはない。やる必要もない。
基本の体質にもよるだろうけれど――、
わたしたちくらいの年代はそう簡単には太らない。
仮に太るとすれば、よほどのカロリー摂取をしているはず。
喰わなければ、太らない。喰い過ぎれば、太る。当たり前でしょう?
残る食料はみかんの缶詰とシーチキンとコンビーフ。
あとは加工に使える小麦粉くらいだった。
「カロリーメイトのブロックの一本が、百キロカロリーらしいのよ」
竹ベッドに寝転がり、ちょうど良い感じに美琴がいるので膝を枕に貸してもらう。
「そうなのか?」
「そうなんだ……?」
意外にもあまり知られていないのかもしれない。二人とも初耳らしかった。
「だーいぶ前のテレビCМで、ダイエットをするなら一日三食の内の一食をカロリーメイトに変えようってのがあったの。まあ放映されたのがわたしらの生まれる前なので、ようつべの動画情報なんだけどねー。それでひと箱は四本入りで、合計四百とか謳っていたの。ああ、面倒なので口頭ではキロカロリーは省略しているからね」
「夕食に食べたのは二箱で、中身は八本。総計八百。一人当たり二百六十六・六か」
「そうねー。あとは桃缶。これにはハーフカットの桃が六個入っていた。ラベルによると一個当たり五十だってさ。シロップは半個桃の重さの量で六十。意外と高いね」
「桃は二個ずつで、シロップは桃と同じ重さの量が入っていたと考えて……これを三等分にすると……一人当たり、だいたい二百二十だね……」
一人当たりの一日摂取熱量基準が成人男性なら二千キロカロリー。女性なら千八百キロカロリー。三食の計算上では、女性は一食六百キロカロリーが必要になる。今回の食事で摂取できた熱量は一人当たり、四百八十六・六キロカロリーである。
「要するに熱量に心配があるわけ。もちろん栄養も心配だけど。というわけで、明日は魚だけでなく、もっとこう、動物性たんぱく質を摂りたい。具体的には、肉」
「今夜中に弓を作成するつもりだ。それからスネアートラップもいくつか考えよう」
「奈良公園のシカが食べたい。カップルのせんとくんと蓮花ちゃんは爆発しろ」
「……奈良市の神獣を狙うのはやめておけ。それと、あの二人は許してやれ」
せんとくんは奈良県の、蓮花ちゃんは葛城市の御当地ゆるキャラである。
二人は彼氏彼女の仲という公式設定がある。
わたしのカレシいない歴、歳と同上。カノジョは……今すぐにでも頷いてくれそうな娘が一人と、わたしの方からゴリ押しすれば頷いてくれそうな娘が一人。
何が言いたいかというと、まあ、男女交際など爆発しとけというだけである。
「イノシシも食べたい」
「あれは難しいぞ。シシは見た目に関わらず恐ろしく慎重な動物だ」
「じゃあクマ」
「こっちが美味しくやられるわ!」
「しようがない、じゃあサキ姉ちゃんの乳を吸う。新鮮なミルクをゲットだぜ!」
「出るわけなかろうが! 乳目的で揉もうとするな! 刺激しても出んわ!」
「じゃあ、タマちゃん。わたしのおっぱいで良かったら、吸う?」
「むおお……く、首が」
おバカをやっていたら、膝枕を貸していた美琴がわたしの顔を強引に彼女の腹部に向けさせてきた。ぎゅっと柔らかい腹部が顔に当たる。思わず匂いをかいでしまう。
ああ……くんかくんか、すーはー。女の子のニオイ大好き……なのだけれども。
「……。あれ? 匂いをほとんど感じない?」
「え……?」
残暑の厳しい中で一日動き回り、当然それなりに汗をかいているので汗臭いはずが、微かに感じる程度だった。どうも嗅覚疲労を起こしているらしい。
嗅ぎ慣れると、鼻はすぐサボるのだった。
これは、非常にまずいかもしれない。わたしたちは今、相当に臭うはずなのに。
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