第54話 寝床の作成。愛の巣の作成? その6

 材料は竹と蔓のみ。ロープは大切な資材なので使わない。

 必要な道具はナイフのみ。


 接着剤なんて持っていないし、松脂もそもそも松を発見していないため用意できない。今度、松を見つけたら松葉と一緒に採取して補強材料にするのがいいだろう。


「基本は筏づくりだ。これを床縛りにする。実演するのでよく見るように」

「了解っス」


「基礎となる竹を二本、合間は六尺。一間とも言う。これらを並行に置く」

「……六尺って、何センチ? というか尺貫法はやめてくださいお願いします」


「だいたい百八十センチだ。すまんな、祖父に習ったのでこうなってしまう。さて次だ。この竹の両端をまず蔓で――ちとやりにくいが巻き結びにして片方をねじる」


「ういっス。できました」


「次いで床部分になる竹をまず一本、直角に置く。ねじった蔓はもう使わない。本命は長い方。くるりと蔓を通して基礎部分に固定、上下に互い違いに巻く。次の竹を用意する。床面側の蔓を引っ張り、竹の端に絡めて固定、そしてくるりと蔓を回す」


「先生、口頭では何言ってんだかさっぱりわかりませぬ!」


「説明自体はおまけだ。よく見ていろ。これは耳よりも目と手で覚えたほうがいい」


 実地で見ると簡単である。が、本当に文章や口だけではさっぱり伝わらないのが苦しいところだった。この辺りが手記を書くわたしの限界でもある。


「後はきちんと締まり具合を確認しつつ、同じ動作で蔓をくるりくるりと巻いていくだけでいい。最後は再び巻き結びにする。念のため竹の並びを確認。よし、完成」


「先生、わたしのほうはなんかゆらゆらしてまっス」

「きちんと締めてないからだ。それで寝ると寝台が分解するぞ。どれ、代わろう」


 手慣れた咲子のおかげであっという間に竹ベッドの寝台部が完成した。


 土台の脚部分も、もちろん竹。ロープを使って寝台の長さを計り、これを頼りに床部分にシャベルで穴を四つ穿って突き立てている。そうしてこの脚部分に角縛りという頑強な結びを以って、寝台部両端の、二本の竹に括りつけるのだった。


「これで良し。仕上げに檜の葉を寝台部に重ねて、レジャーシートをかぶせる」

「うおお、ベッドができちゃったよコレ! キタコレだよ! 寝転がってもいい?」


「存分に試してみろ。頑強に作っているので早々には壊れん。後はこれと同じものを二つ作って、一つは洞穴の出入り口に、もう一つは厠の目隠しに使うとしよう」


 わたしは竹のベッドに寝転んでみた。なんとなんと、ギシリとも言わずわたしの体重を受け止めるのだった。そりゃあそうか、これ、三人が寝るためのものだし。

 咲子は満足そうに腕を組み、うんうんと頷いた。そして、腹をぐうと鳴らした。咲子は恥ずかしそうに俯いた。わが義姉、可愛い。萌える。


 時刻は十八時少し前。

 あっという間に竹ベッドを作ったように思っていたら一時間近く経っていた。いや、たった一時間でできたのだからその表現でもあながち間違いではないか。


「いい時間だし、夕飯にしようよ。といってもカロリーメイトと缶詰しかないけど」

「明日にはうまくいけば魚が獲れよう。それを食せばよい」


「枝で串刺しにして簡易コンロ前に立てかけるのね。めっちゃ楽しみ」

「それについてだが、さっきわたしはうっかり単独で水場に行ってしまった。今度からは、出かける際は必ず二人一組で行くことにする。タマキ、理由はわかるか」


「えー? そうね、あれかな。水場は動物も水を飲みに来るから、かな。思わぬところで危険な獣とエンカウントするかもしれないってこと?」


「その通り。よくわかってくれて嬉しい。……今後はお前を基準にして、わたしかミコトの二人一組で行く。確実性で言えば、イヌガミが使えるミコトであろうな。しかし安全性で考えるなら、狩猟従事経験者のわたしも捨てたものじゃない」


 つまり確実に害獣を撃退できる観点で美琴を選ぶなら、イヌガミの代償にその後のコトも覚悟しておけという意味だろう。二人して股の下を濡らすのである。

 いや、そもそも彼女を守護するのがわたしの使命であり、逆にわたしが守られるようでは本末転倒なのだが……。その後のえっちについては、まあ、うん、大丈夫。


 対する咲子ならば、狩猟の手伝いで山歩きに慣れてはいれど美琴ほどの安全は確保されない。えっちについては、わたしが『そう』求めない限りきっと起こらない。


「咲子お姉ちゃん、それ、ちょっと酷いよう……」

「しかしタマキにはちゃんと伝えておかんとだな。ミコトよ、わかってくれ」


 言葉の裏の意味は当然ながら美琴にも伝わっている。ただ咲子は選択肢を提示してくれただけなのだ。咲子は唇を尖らせる美琴の頭を柔らかく撫でてあやしていた。





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