第27話 隠し砦の三少女 その3
「……ずぼらなタマキに助けられた形だな。それでも絶対数が足りないが」
「うっわー、素直に喜べねぇ。というか、小麦粉は元々はサキ姉ちゃんのじゃん」
「でも、凄くありがたいよ。タマちゃん……」
「まあ……確かに、ないよりはあったほうがずっといいよねぇ」
一先ず食料はこれで良いとして、次は飲料水の確保について相談する。
サバイバルには、生存のための三の法則というものがある。
極端な状況かつ極端な環境下、たとえば全裸もしくはそれに近い格好で、手持ちの物資もなく補給もなく、南極や北極や赤道直下の砂漠などに誰かがいたとしよう。
そいつは、三時間もあればわりと普通に死ぬ。
恒温動物は、体温を一定に保てないのは致命的だからだ。
次に、人間は何も食べなくても最長で三週間は耐えられるという。
もちろん熱量の消費を最小限に抑えるような、たとえば温かい寝袋などでジッと寝たままでいるなどの条件つきではあるが。
最後に、飲料水について。
人は水を飲まないと、三日で死ぬのは良く知られた知識だろう。
人間が構成する肉体の水分率は約六十パーセント。この内の二十パーセントの水気を失なうと、生存への危機に晒されるのだった。
三時間、三週間、三日。これら生存の、代表的な三の法則である。
わたしたちは生きているが故に常に代謝を必要として、水はその大切な代謝の中核を成している。生命活動を営むにあたり、水は、糞尿や汗や吐息で排出され続けるのだった。それも、最低でも二リットルは、出て行く。最低でも、だ。
今回、榛名レンが課した試練の期間は五日間だった。
つまり単純に考えて、一人当たり二リットルの水を三人分、これを五倍した量が必要になる。換算すれば三十リットル。もちろんこれはギリギリのラインである。
ゆえに多少の危険性を考慮に入れた上でも、小川の水をペットボトルで簡易的に作る浄化装置を通し、さらに煮沸させたものを利用するのが一番良いと結論付けた。
イヌガミのレーベレヒトを使った美琴の調べでは、この可能性世界の、林に覆われた葛城市――と仮称しておこう、ともかく近隣には廃墟らしきものはあれど、人間の気配はまったくと言っていいほどないのだという。
この辺りで取れる鉱物資源はすぐ西に座す二上山では黒曜石に柘榴石、石英くらいであって、水銀やニッケル、カドミウムやコバルトなどの危険な金属類は産出されない。要するに、工業的な開発を含む土壌の汚染はないと考えて良かった。
話し合っているうちに、脳が甘味を求めだした。
しかも腹は空腹を持て余している。
何を考えても、フルーツ缶詰が脳裏に浮かんでくる。
なのでそろそろいいかと、わたしは五個ある缶詰の一つを開けることにした。
プルタブを引き開封する。途端に甘酸っぱい香気が広がる。
中身は、スライスされたシロップ漬けのパイナップル。
これは堪らない。唾が、口内に溢れそうになる。
食べたい飲みたい味わいたい。
三人とも、缶詰に首ったけだった。
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