第25話 隠し砦の三少女 その1
わたしにいい考えがある、という咲子の提案でわたしたちは西の方角へ移動した。
これも不吉ゆえに口にしなかったのだが、それは某変形ロボットアニメの総司令官の有名なセリフで、そのキャラが『考え』を口にすると、何であれ作戦は『絶対に失敗する』フラグとなっていた。コンボーイ、なのである。
そんなセリフを咲子が言うものだから、わたしはどう反応すべきか一瞬迷った。
おそらく目算で百メートルは歩いたと思う。
いや、慣れない林をひた進むのであまり自信はないのだけれども。
ともかく、咲子が目指していたであろう場所にたどり着いたのだった。
平地林がぽっかりとなくなった、半径十数メートルの小広場の中心だった。
そこにはみっしりと苔むした大岩が鎮座ましましていた。
わたしは思わず、おおおっ、と感嘆の声を上げた。
「大岩の、洞窟?」
岩の大きさは一般的によくありそうな二階一戸建て住宅と変わらないほどあり、地面と接する下部には、成人男性が三人は立ち並べる玉ねぎ型の大穴が開いていた。
「むしろ洞穴だな。よく見よ。この、かつての大樹を」
「えっ、この大岩って、実は樹木なの?」
「うむ、年月が経ち過ぎて化石みたいになっているが、かつては天を衝く大樹だったという。DNAを調べると杉のそれ酷似しているらしい。古代樹の成れの果てだな」
聞けばかつて咲子がスポーツ特待生として在籍していた、超難関進学校たるミスカトニック高等学校の敷地内にもこの洞穴は存在し、現在は薔薇の温室の中心部として施設利用されているらしかった。
一応は神木扱いでしめ縄がなされてはいるものの、しかし木の洞は遥かに深い自然洞穴と繋がっているため、天然保管庫としても活用されているというが……。
「最初は古墳か何かだと思っていたらしい。が、調べると違うとわかり、それなら問題ないと学園を建てる際に掘り返すと出てきたわけだ。知る人ぞ知る場所なわけ」
「ほえー。そうなん……だ? んん? あれ? あれあれ?」
咲子の解説を聞いた次の瞬間――、
わたしは、得体の知れない違和感に呑まれた気がした。
「うん? タマキよ。どうかしたか?」
「ああー、んんー。なんだろう、わかんないや」
わたしは咲子に生返事した。
身を寄せて歩いていた美琴が敏感に反応し、身体をより密着させてきた。ひとまず不安を振りまくような違和感への考察を中座すべきだろう。
「それよりも、なんだか涼しい風がゆるーく吹いてきているね」
「奥深い洞穴の内部は、基本的に季節に関わらず気温を一定に保つ作用がある。さらには最奥に地下水道が流れて、それで夏場でも空気が冷えると聞いた覚えがあるな」
「へえー。じゃあそこから飲み水とか取れたりする? 小川から取る水は基本的に煮沸しないと寄生虫とかが怖いし。そのためには焚き木を集めないといけないし」
「ああ……残念ながらそれは恐ろしく深いのでお勧めできんな。キロ単位の奥深さがあり、幾本もの分岐があるというから。当然ながら中は真っ暗だ。事故を避ける意味でもやめておくべきだろう。まあ、浅い層なら内気と外気と混じり合ってちょうど良い塩梅の快適空間となる。何より、風雨と獣除けにもなる」
「雨風は良いとして、獣がここを使わないって、なんでわかるの?」
「この神木には獣が嫌がる香気を含むと聞く。レーベレヒトはどうだろうか」
「……うん、ちょっと煙たそうにしてる……かも?」
「すまんが安全のためだ。レーベレヒトには良く因果を含めておいてくれ」
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