第24話 可能性世界(アナザーヘル) その5
堪えろ。堪えるのだ。
わたしの子宮よ。女の子同士でシテも、何も生産されないぞ。
でも同時に気づいている。愛に性別は関係ないと。
好きなものは好きと言えるのは、とても素晴らしいことだ。
だけど、今は、堪えろ。下は準備万端のヌレヌレだけど。
今は百合ってる場合ではないのは、わかるだろう?
「……ふむ。なるほど」
「後は……その、ちょっと三次元的に座標が移動しているみたいで。今わたしたちのいる場所は、当麻寺駅と二上神社口駅の、当麻寺寄りの首子塚の辺りかなと……」
「それは正確に言うと首子古墳群の第五号墳だな? ミスカトニックの校区内とはいえベンチがいくつか用意されていて、中々悪くない史跡だった覚えがある」
「そうなんだ……。なので、この小川は、熊谷川に繋がる名も知れない支流の……」
「かもしれん。いや、きっとそうだ。お手柄だな、ミコト。本当に良い仕事をした」
「えへへ……どういたしまして。咲子お姉ちゃん……」
偶然か、必然か。それはどちらでもいい。
咲子は美琴を褒めながら割って入り、わたしの発情を抑える援護をしてくれた。
わたしよ、美琴を性の対象に見てしまう淫らな気持ちを冷却せよ。
暴発はするな。今はまだ、ダメ。こんなときに情欲に任せるとか猿でもしない。
自分たちの居場所は特定された。これを知るか知らないかでは大違いだった。
それにしてもアザトースの観測世界から、かの者の可能性世界へ飛ばすとは。榛名レンの持つ魔力は規格外にもほどがある。一体どうなっているんだ。
通常は魔術的な陣を引き、何人もの術師を集めて年単位の儀式をし、足りない魔力は龍脈なり、魔晶石なり、あるいは生贄を使ってやっと可能になるレベルだった。指をパチンと鳴らして即魔術と言うわけにはいかないのである。
「タマちゃん、タマちゃん……っ」
「どうしたのミコト。人工呼吸する直前みたいに唇と唇が近いんだけど」
何でもないような態度だが本当に近い。触れるか触れないかのせめぎあいである。
あー、ちゅっちゅしたい。柔らかそうで、美味しそうな女の子の唇。
「あの、ね。この試練が終わったらね……」
「うん」
「わたしね、タマちゃんに愛の告白するから……っ」
言って美琴はついばむように唇にキスをして、わたしの首筋に顔を埋めた。肌をくすぐる吐息が異様に熱を帯びている。
美琴の気持ちは良く知っている。ついでに今の宣言は、もはや答えと同じだ。
愛の告白。恋人か。いいね、そういうの。女の子同士で恋人。
女子のスキンシップは男子よりも濃厚だ。表面上は、それにかこつけて調子に乗りすぎたが故の自業自得とでもしておくか。いずれ些細なことではある。
もちろん一人の友人として彼女を愛している。
同性としても愛している。
ストレートに言えば、チョメチョメ的なスケベの対象として、だ。
わたしにセクシャルの区分はない。なんども言うが、愛に性別は関係ない。
念のために言っておくが、今ここで語る愛とは、セックスを伴う愛のことだ。
どうして誰かを愛せる可能性を、わざわざ半分にしてしまうのだろう?
これを区別してしまう方が、人として欠陥を内包しているようにも思える。
つまるところ、わたしは、男の子も女の子も、等しく好きになれる。
「節度を持って交際しよう。だって、ほら、いずれは宗家当主になる身なんだし」
でも建前はつけておく。現状を鑑みて不吉すぎるので口にしないが『~が終わったら~するんだ』などというセリフは、基本的に物語でよくある死亡フラグである。
わたしはフラグとかジンクスとか、わりと気にする方なのだ。
「うん。宗家の人とは……ほら、後継ぎの娘さえ作れば問題ないと思うから……」
いやいや、それはなかなかハードな人生設計ではなかろうか。
まさか、そう来たか。わたしは息を呑んだ。よもやわたしがメインで婚儀を交わすであろう宗家の男が添え物だとは。想像以上に、彼女の愛は、重かった。
「うふふ、ふ……わたしの初めても、タマちゃん、貰ってね……。うふふ……」
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