第20話 可能性世界(アナザーヘル) その1

 わたしたちはこれまでの経緯と、榛名レンが課した試練について話し合った。


 が、不明な点がとにかく多すぎた。


 ここはどこなのか、美琴を守れというが何から彼女を守るのか、なぜ初めからレンは否定的なのか、情報がなさ過ぎて解決への足掛かりになりそうになかった。


 何より腹の虫が情けない音を立てて、苛立つやら恥ずかしいやら始末に負えない。


 ひとまず空腹をどうにかせねばと思うも――そういえば、ここに来る直前に自販機の菓子パンと飲み物を榛名レンから貰っていたのだった。


 なので三人で分け合って食べる。までは、良かった。


「くっそー! こんな菓子パンの一個や二個で腹が満たされるわけないじゃん!」


 わたしは吼えた。レーベくんに菓子パンをちぎって与えていた美琴が、ビクッとこちらを向いた。フェレットに甘いものを与えるのはあまり良くない。しかしあれはもはやだけで中身は全く別物なので気にしない。曰く、優秀な猟犬イヌガミなのである。


「くっそー! ムッキー! でも、喰う! 満たされないからむさぼり喰う! わたしったら健気なオトメ! せつなさみだれうち!」

「根本から日本語として意味合いを間違っているぞ、タマキよ……」


 文句を言いながらも飲み喰いし、ンガゴゴと腹に菓子パンを次々と納めていく。

 ふと思い立って、わたしは咲子に目をやった。


「サキ姉ちゃん、あの女から手渡されたスポーツバッグの中身って、何?」

「ああ、うむ。それがだな」


 咲子は細長のスポーツバッグのジッパーを引っ張り、中身を見せてくれた。


「頑丈そうなロープの束。それに細いワイヤーの束。トンカチ、ノコギリ、ペンチとニッパーなどなど、工具諸々。おっと、何これ。西洋ナタマチェット? 後はシースナイフが三本と、多用途を前提にした折り畳み米軍製シャベルが一本」


 わたしはナイフの一本を適当に選び、革ケースから引き抜いて子細を確かめた。

 ドイツのボーカー社製。

 実用に適した肉厚の刃は未使用品らしく、変な傷や癖は見当たらない。


「タマキよ、こいつをどう思う?」

「うーん……凄く、大振りのナイフです……」

「どこかで聞いたような言い回しだな、おい……」


「じゃなくて、まあ、マジで五日間をどうにかしてサバイばれってことっしょ」

「やはりそうなるのか」


「いいじゃないの。ナイフなら全員が使える。サキ姉ちゃんは狩猟に、ミコトは料理に。わたしは、敵をブッスリ刺す。いざとなったら、ヤルからね……ッ」

「お、おう」


「それでさ、今後のお話ってやつ。まずはここがどこなのか確かめない?」

「スマホのGPS機能はどうだろうか。……む、圏外、か」

「グーグルマップが使えたら一発なんだけど、なーんか無理っぽいんだよねー」


「となると、小高い場所に移動、だろうか」

「ううん、そんな必要ない。ミコトはレーベくんと視覚共有しているはずなのよ。イヌガミの契約を交わす際に、左右のどちらかの視力を捧げているはずだし」


「う、うん。猟犬の目は、使える、よ……」

「お願い出来る? レーベくんを上空百メートルくらいに送り込んで、俯瞰して欲しい。できれば、三百六十度カメラみたいにぐるっとね」


「わかったよ。タマちゃんがそう言うなら。ええと、ええと……」





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