第18話 バイツァ・ダスト その6
「遅れたけれど、自己紹介するわ。わたしは、榛名レン。あなたたちと同じ一族よ」
「直近四家の一つの? あの国内最難関のミスカ高に在学しているとはね」
「ああ、この格好はある意味コスプレだから気にしないで」
「……えぇ」
「生徒である事実に変わりはないけれどね。しかしあなたたちに関係のない話」
「榛名と言えば、近々とある男子が養子に入るとか、何とか」
「そうね、榛名か霧島のどちらか。でも、繰り返すけれど、それは関係のない話」
「そんなことないでしょう、だって彼の母親は主筋直系の――」
「くどいわよ。彼がどちらの家に入るかなど、本当に、どうでもいいの」
傍系筋はいらぬことを訊くな、と言わんばかりに話題を切られてしまう。
しかしそういう態度を取られてはさすがに癪である。
わかっていることだけ、端的に書き込むとしよう。
話題の養子の名は、
アメリカはマサチューセッツ州の、本家ミスカトニック大学で複数の博士号を若干十六歳で取得した、一族に連なる怪人物であった。さらに書き込むなら、わたしは昨年の師走の『隷属解放の乱』事件で、探索者として彼と肩を並べていた。
「昼食はまだでしょう? なら、これで多少は満たすといいわ」
言いながら彼女は自販機に紙幣を入れ、ポンポンと菓子パンとペットボトルの飲み物を購入、機器に備えつけられていたビニール袋に詰めてわたしに手渡してくる。
「さて、と。白露美琴は、あなたね。見えないけれどイヌガミは連れているかしら」
話を振られた美琴はわたしの背の裏側で息を呑んでいた。
その後、何度も頷く気配がした。
まるで小動物みたいでとても可愛い。が、今はそれどころではない。
もそもそと彼女の胸の辺りで細長い何かが動いている。
これこそ、レンが今しがた尋ねたイヌガミこと――フェレットの、レーベレヒト・マース、通称レーベくんであった。降ろした当初から半イヌガミ憑き状態で、常に美琴の身体のどこかに『憑いて』いるという、大変希少な能力を持っていた。
「なら、問題ない。その子は優秀な相棒にして道具、または武器よ。左右のどちらかは知らないけれど、視力を捧げただけのペイバックは必ずある。大事にしなさい」
言って、レンはわたしに視線を向けた。
彼女は長い黒髪に指をやり、耳にそっとかけ、そして軽く腕を組んだ。
格好いい、と思った。
何をどう動こうとサマになる女だった。
「宗家の話はもう聞いているわね? そう、わたしが試練そのもの。わかった?」
美琴の話では、試練が訪れる、と言っていたが。
三人して黙っていると、レンは下を向いて小さくため息をついた。
「今回も、望みは薄そうね……」
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