第17話 バイツァ・ダスト その5
さて、近鉄二上神社口駅で下車し、半端に買い食いしたせいで余計に腹を減らしたわたしたち三人組は――、
もはや辛抱たまらぬと、美琴に頼んで彼女の家で昼食を頂くことにした。
東と西の、西出口へと向かう。
美琴は料理全般が得意で、特に中華系が秀逸だった。
腹にガツンと来る至福の食事である。
今思い返すに、これがわたしか咲子の家なら東出口方面なので、少なくとも昼食はきちんと摂れたかもしれない。いっそわが家で美琴に作ってもらうべきだった。
妙に、回りくどく手記を書くのにも、ちゃんと理由がある。
次に登場する人物が、それだけ恐るべき存在だから。
そいつは私立桐生学園ミスカトニックの名を冠しながらも、わたしたちの通うボンクラ女子校とはまったく性質の異なる、国内有数進学校の夏季制服を着ていた。
桐生学園、ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校。
長身かつ細身の、美しい少女だった。
彼女は駅の西出口を出たすぐのところで佇んでいた。
しかし運営している企業は同じとはいえ、他校の生徒であり、そもそも知り合いでもないのでわたしたちは目を逸らして通り過ぎようとした。
いや、正直に言おう。わたしの中の何かが、関わるなと囁いたのだった。
空気の流れが彼女の周りだけ異なっていた。
北極か、南極か。この世ならぬ冷気を纏うが如く近寄り難い雰囲気。
連日三十五度を超える残暑すら凍結する、違和感の塊。
彼女はわたしたちを見止めると、真っ直ぐこちらにやってきた。対する腹ペコ三人組はすでに及び腰である。美琴など、即座にわたしの陰に隠れるほどだった。
「白露美琴、時雨環、村雨咲子。これで百と一巡目」
言って、ぐっと彼女は空の手を伸ばした。
あえて繰り返させてもらうが、その手は、空だった。
なのに、どういうわけか、彼女は咲子にスポーツバッグを持たせるのだった。
「――えっ? うおっ。これはっ、一体っ?」
「はあ……何度も言ってるけれど、この程度で驚くようではまだまだね」
「いや、あんたと会うのは初めてだと思う、が……っ」
どうも重量物が入っているらしい。
咲子は受け取ったバッグを辛うじて落とさずにいた。
「そうね、わたしもあなたたちと言葉を交わすのは初めてよ。ふふふ」
「支離滅裂過ぎてわけがわからん……っ」
雪よりも白い肌、黒く艶やかなロングヘア。
月のない夜の海を見るような、深く底の見えない闇色の瞳。
同性である前提すら覆す、性的な枷を超えたとしか思えない、恐るべき美少女。
「場所を移すわよ、ついて来なさい」
そうするのが当然、と言わんばかりに彼女は先を歩いた。
わたしたちは互いに顔を見合わせて、どうする、逃げる? と目を見合わせた。
しかし、結局わたしたちはついていくことにした。
彼女と出会ってまだ数分も経っていないが、その圧倒的な存在感と見通すことのできない得体の知れなさ、支配や統率に似た、有無を言わせない強制力のような何かに束縛された故のものだった。誰人曰く、それは運命のように、である。
連れられた先は立体駐車場一階の奥、プレイスパネルには自販機コーナーと書かれた場所だった。付近住民とはいえ十七歳のわたしにはまだ車の免許など無く――まあ自動二輪免許なら持っているけれど、ある意味近いようで縁遠い場所であった。
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