第15話 バイツァ・ダスト その3

「さて、落ち着いた?」

「うん……」

「うむ……」


 二人の少女は、わたしの問いかけに頷きで返した。美琴はわたしに密着したまま、間近で。咲子は神妙な顔で腕を組み、豊満な胸を抱くようにしていた。


 小川の少し上ったところに座りの良さそうな岩石群を見つけたので、わたしはそちらへ行こうと彼女らを誘った。無言で向かう。それぞれ荷物を足元に置き、三人してその岩に腰を下ろして身体を預け合う。自然と吐息が漏れ落ちる。


「ひんやりとしてて気持ちいいね……」

「そうだねー」

「うむ」


 思い思いに感想が出る。さらに頃合いを見計らって、わたしは口を開く。


「ここに来るまでって、わたしらって、どうしてたっけ。具体的には、アホみたいな残暑炎天下の中、送迎バスに乗り遅れたせいで徒歩で近鉄尺土駅に向かって、それで腹の虫を鳴らしながらたどり着いて……それで、三人仲良く何をしていたっけ?」


「わたしはファミマで冷コーのМサイズを頼んで、タマキはファミチキと冷コーのLサイズを店員に思念で注文してやっぱり通じないので口頭で頼んでいたな」

「なんでわたしの行動が分かるのよ。さてはわが思考を覗いたな?」

「たわけ、いつもやってるからではないか」

「そうでした。こいつ、直接脳内に……っ、とか言わせたいんだけど、なかなか」


「わ、わたしはペットボトルのミックスジュースを買ったわ。あれ、好きなの……」

「うんうん、あのジュースって甘さ控えめで意外と癖になる味だよね。ミコトはいつもちょっと飲ませてくれるし、ありがとうね」

「こ、こちらこそ。いつもありがとう。うふふふ……」


 含みを持たせる美琴の言葉尻が気にかかるが、それどころではない。こんなところで茫然としているわけにはいかないのだ。すでにCPクライシスポイントの際にいると想定し、精神分析で落ち着いたら現状の確認、次の行動への布石を立てて行かねばならない。


「ミコト、レーベレヒト・マースはちゃんと傍にいる?」

「う、うん。いるよ。レーベくん、出てきて……」


 するとどこで待機していたのか、真っ白いフェレットがするすると美琴の身体を這い上って肩口に止まった。わずかに口を開き、こちらへチュッと鳴いてみせた。


「あんたのもっとも信頼出来る相棒、もっとも役に立つ道具にして武器。わかるわね。いざとなったら、まず、その子を当てにするの。相棒は大事にしなさいね」

「え、あ、うん……そうするよ……」


 なぜか少しだけ顔をしかめて不満そうな美琴はさておき、次は咲子だ。


「わたしは護衛に剣術を修めているけど、サキ姉ちゃんは狩猟経験があるんだっけ」

「ああ、まあ、経験と言っても中学のときの社会勉強の一環でだぞ。猟友会の祖父につき添って雑用的な手伝いをしただけ。狩猟免許なんて持っていないし、当然、猟銃免許もない。お前が幼少から修める阿賀野流の剣術と同等に考えてはならんからな」


「でも狩猟罠の仕掛け方とか、捕獲した動物を解体する方法とかは知ってるよね。あとは山道の歩き方とか。そもそも、狩りをする際のポイントとかコツとか、得難い経験が。それに、ミスカ高ではスポーツ特待生でアーチェリーもしていた、と」

「まあ、な……」


 彼女もなぜか、少しだけ不満そうに顔をしかめつつ頷くのだった。

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