第13話 バイツァ・ダスト その1
唖然、という単語があるが、まさに今がそれだった。
わたしたちは人の手が入っていない、乱立する木々の真っただ中に立っていた。
この林はどこの林なのか。こんな場所、葛城市にあったのか。
そもそもどうやってここにやってきたのか。
先ほどまで、自分たちは、どこにいた。
サイコロはどこだ。どこにある。
これはもはや、SAN値チェック事案ではないか。
むしろSAN値直葬か。わたしはどうなってしまうのだろう。
ああ、もう。わけが、わからない……。
深呼吸を二度繰り返し――、
自分の名を口の中で三度唱え、慎重に思い返してみる。
二学期の初日のこと。
授業もなく、体育館で校長・教頭・生徒指導教諭の
登下校は電車と校区の特設停留所で待っている専用の送迎バスを使う。
と言って、このバスは別に乗らなくても良い。駅から学校まで、てくてくと徒歩で二十分もあればたどり着けるのだから。今日の帰りは、持ち帰りの荷物を整えるのに時間がかかりすぎて乗り遅れ、歩いての下校だった。
奈良県葛城市は、国内だけでも百万人の正規従業員を擁する本気で冗談みたいな巨大企業、桐生グループの資本で創られた桐生学園ミスカトニック大学を中核に、四十年前より学園都市として著しく発展してきた街である。
アメリカはマサチューセッツ州ミスカトニック大学の『事実上の分校』でもあるのだが、それはともかく、少なくとも登下校に林の中を行くような道筋はなかった。
人口が一万人にも満たないかつての田舎時代なら知らず、現在は市内全域に開発が進み、西側に座する二上山の傍まで行かなければ林など有り得なかった。
わたしは、油断なく周辺に気を配った。
すぐ近くに幅が約十メートルほどの小川が流れていて、いや、仮にこの手記を読む人がいるならそれを小川と称するのはおかしいという人も出てくるかもしれない。
しかしわたしの感覚での川とは、宗家が所在する、四国に流れる幅数百メートル級の吉野川がこれに相当するのだった。
この小川、自分たちのいる足元はまるで絨毯のように落ち葉で濡れ湿っていた。水面には魚の影すらいくつか見える。大きさからしてアマゴか何かだろう。
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