第9話 仲良し、三バカ、女子高生 その1
「クリスマスのさ――」
脈絡なんて気にしない。わたしは一緒に下校する二人に話を振った。
「いつもながらタマキは突飛だな。今は真冬か? 夏休み、終わったばかりだぞ?」
「今年の夏は、大変だったよ……。十七年間生きてきた中で、一番大変……」
「まあ、九月に入ってもセミの鳴き声がジワジワツクツクとうるさいけど」
硬質な喋りは咲子独特のものだ。なんというか、戦国武将っぽい。
末尾を消え入りそうに話すのは美琴の癖だった。いつも自信がなさそうで、ときおり本気で心配になる。
わたしは両手に下げた荷物をダンベルのアームカールのように持ち上げて、しばらくプルプルとその重さに耐え、がくりと力を緩めた。
しなう勢いが手首と肘に伝わって、やがて衝撃は分散されて消えた。
わたしが非力なのではない。荷物が重すぎるのだ。
「ねえねえ、サキ姉ちゃん。心の底から愛してるから、可愛い義妹の荷物を半分持ってほしいなぁー」
「たわけ、軽々しく情愛を語るな。そも、クリスマスの話題はどうなったのだ」
「あ、やっぱし気になる? うふふ、話すのどうしよっかな」
「まったく、お前というやつは……」
九月一日、金曜日。夏休みの明けた二学期初日。
腹の虫が律儀にも空腹をぐうぐう訴える、そのお昼前。
照りつける太陽の下、帰りのバスに乗り遅れ、残暑にうんざりしつつ徒歩で下校する女子高生が三人。つまりわたしたち。
ぬるい風が、短く改造したプリーツスカートの端をわずかに持ち上げる。
はしたない話になるけれども、
私立桐生学園、ミスカトニック女子大学付属、ミスカトニック女子高等学校の制服は、有名デザイナーが手掛けた故に非常に可愛らしいのだが、何を考えているのか夏用の癖に生地が微妙にぶ厚かった。
汗を封じるためにブラジャーをきつめに当てて、胸から上は平然としているように見せかける。ただしその下は汗で大洪水である。もうね、びっしょびしょ。体臭を嗅ごうとするものなら鉄拳制裁である。パンチでド突くのである。
にしても暑い。気温は三十五度を越えている。
これで残暑とか、ちょっと頭おかしい。
わたしは口の中で地球温暖化のバカ野郎と文句をつけて天を見上げた。
本日の天気は快晴。
雲一つない、怖いくらい見事な青空が朝から広がっていた。
じっと見つめていると遠近感がおかしくなって、身体が空に吸い込まれそうだ。
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