森の主の脱出計画――の前にイチャイチャタイム

 魔力がまた使えるようになり始めてから、今度は少しずつ体が言うことをきかなくなり始めた。今はほぼ寝たきり状態で、暖炉のある部屋に積み上げた毛皮の中から出れなくなってる。介助がないと立ち歩くこともできないから、色々とメルに面倒をみてもらうはめになってて……なんか、情けなくって涙がでそう。

でも――暖炉の火の管理をしつつ、俺の面倒をみてくれてるメルが一緒に寝てくれるのだけは、とても嬉しい。



「もしかしたら、魔力と肉体が仲良くするためのお話し合いでもしてるのかもね」


「……? どういう意味??」



 眠りに落ちかけのぼんやりした声で彼女が、不意にそんな事を言いだした。



「ずっとずっと、ラースは魔力と一緒だったけど、肉体さんはお出かけしてたでしょう。だから、まだ気まずくって、上手に仲良く出来ないのかなぁって……」



 随分と幼い言い回しだけれど、突然、精神体から生物に戻らされている状態に、魔力と生体が反発しあってる――的なイメージだろうか。


――それは、ありそうかも。


 ぼーっと考えているうちに、スピスピプススと、鼻になんかが引っかかってる音を立てて、メルは眠りに落ちてた。暗闇の中で彼女の体に腕を回すだけでも、今は重労働。温かな体を腕に抱き、ホッと息を吐いて目を閉じた。


――だとしたら、結構長引くかも。


 精神体をやってた期間を考えると、この状態を抜け出すのにはまだ掛かりそうだ。


――完全に動けなくなったら、どうしよう。


 下の世話までされるのは、ちょっと――かなり、心理的にキツいんだけど。






 結果から言うと、下の世話を受ける羽目にはならずに済んだ。

代わりに困ったのは、魔力の総量が激減したこと。魔力が安定し、体を動かせるようになった時点での俺の魔力量は――ちょっと前の10分の1以下で、森の外まで一人で跳ぶのも微妙な程度しかない。メルを連れてってなると、更に飛べる距離は減る。



「ふむ……なら、ラースが余力を残しつつ何度か移動を繰り返すしか無いよね」



 落ち込みつつもそのことを告げると、アッサリと彼女はそう言った。



「跳んだ先の安全性が――」


「ラースはこの森での暮らしが長いから、比較的魔獣が少ない場所とかは知ってるんじゃない?」


「……多少なら」


「魔獣避けの結界具も、二人だけ入れればいいものなら私、起動させられるよ。転移して、落ち着けそうな場所を見つけるまで歩いて移動。そんでもって、休憩時には結界具を私が動かして――って繰り返せば、なんとかなるんじゃないかな」



 明るい表情でそう言われると、なんだかやれるような気がしてくるから不思議。



「ラースは何でも出来るから一人でやろうとしちゃうけど、私も多少は頼って。守られっぱなしは、性に合わないもの」


「……まさか、メルも魔獣の相手する気じゃないよね!?」


「え……ダメ?」


「ダメというか、無理っ!」



 メルは剣術もかじっちゃいるし、それなりの腕前ではあるけれど、ソレはあくまで人が相手なら。魔獣に対するものとはまた違う。

そのことをコンコンと語って聞かせると、彼女がションボリと肩を落として魔獣相手の戦闘に飛び込むような真似はしないと約束してくれた。



「魔獣が出たら、携帯用の結界具を起動してその場から動かない――頼むよ、メル」


「それが一番、ラースにとっても安全なんだものね……ちゃんとします」



 とまあ、不満がいっぱい顔に出てるけど。だからといって、無理な相手にけしかけるような真似はできない。


――正直、心意気自体は嬉しいんだけどね……


 せめて、気持ちだけはガッツリ伝えようと思いつつ、彼女の体を抱きしめる。



「どうしたの、ラース? あまえんぼさんにでもなっちゃった?」


「ん……俺のために頑張ってくれるメルが愛しくて、ギュ~したくなっただけ」


「なるほど。じゃあ、遠慮なくっ」



 不思議そうに俺を見上げたメルが、フニャンと嬉しそうに頬を緩めて胸の頬を擦り寄せてくるもんだから、俺の顔まで緩んでしまう。


――ナニコレ。

  もしかして、なんかのご褒美タイム?


 二人して、たっぷりとイチャイチャタイムを満喫してから、森から出るための荷造りを開始した。

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