男装令嬢の魔法開発~お洗濯~

 朝食は、いつも通り。

前日に残したスープと、小麦を水で溶いて焼いた薄パンに、ベーコンと卵を焼いたもの。目玉焼きの下にベーコンを敷いたり、別々に焼いたり。細かく刻んだベーコンと一緒にスクランブルエッグにしてみたりと、組み合わせは一緒でも形を変えると意外に飽きない。残念なことに、オムレツはまだ上手に出来ません。

料理って、思った以上に難しい。



「メルも、大分焦がさなくなってきたな」


「慣れてはきたけど、カマドを使うのって難しい」



 火加減の調節が、意外と難しいんだよね。ついでに、保存食以外にお塩を使っちゃ駄目っていう制限が地味に辛い。

目玉焼きに、パラッとお塩を振るだけでも味がぜんぜん変わってくるんだけど……

お塩って割と高価なものだから、庶民は海辺の街済んでいない限りは気軽には使えないんだって。なので、スープには干し肉、卵を焼く時にはベーコンが私的には必須アイテム。ラースは指摘しないけど、きっとこれも、贅沢なんだろうと思う。



「調理中に火魔法を使うのも、慣れが必要だしなぁ……」


「ううう、私にはまだキツイかも」



 2種類の魔法を同時発動させるのは、食器洗いで慣れてきた。けど、火魔法で火力を調節しながらお料理するのは――やっぱり、ハードルが高い気がする。



「魔法か料理か、片方ずつじゃないと、消し炭を量産する未来しか見えません」


「別に、急ぐ必要はないよ」



 ラースは穏やかな表情で言いながら、目玉焼きを載せた薄焼きパンにパクリと齧りつく。



「ん。美味い」



 モグモグと咀嚼しながら、満足そうに微笑みを浮かべたけど――



「正直、ラースが作ったほうが美味しいと思います」


「そんなことないよ」


「そうかなぁ……?」


「メルの料理は上達してるし、他人が作ってくれた料理って……なんか、自分で作ったやつより美味い気がする」


「むむむ……それはなんだか、分かる気がするかも」



 上手くいえないけど、『自分』のために作られたものって、何かが違う。食事も、服も、木製の食器一つとっても――



「ここに来るまで、気にも留めなかったことだけど。人に何かをしてもらえるのって、当たり前じゃなかったんだよね」



 私が今、教えてもらっていることは、料理に食器の洗い方と身支度に、ちょっぴりの畑仕事。実家に帰れない以上、まだまだ、ここで覚えることがたくさんある。家ではメイドや下働きがやってくれてたことだけど、これからは自分でやらなきゃだめなんだもの。



「後は、お洗濯にお掃除が出来るようになったらいいのかな……?」



 多分、この2つは必要最低限の中に入ってるよね。



「その2つは大事だな」


「汚い服を着るのも汚れたシーツで寝るのも嫌だし、お部屋もおんなじだよねぇ」



 こんなことなら、お掃除風景もキチンと見とけばよかった。そうしたら、多少の参考にはなったのに。特にお洗濯物が最近、気になって仕方がない。

流石にね、下着をラースに洗わせてるのはどうかと思い始めた今日この頃。なんで今まで気にも留めてなかったんだろうって、とっても不思議。

二人しか居ないんだもの。私が洗っていない以上、ラースがソレをやってくれてるのは考えなくても分かるはずなのに……夜中に部屋に入られるのを気にするより先に、ソッチを気にするべきだったと、ただ今猛反省中。

謝ろうにも、どう話せばいいものか考えつけずに謝れていない。そして、どういう訳かラースってば、お洗濯に関してはあんまり教えたくなさそうなんだよね。


 そういえば……やたらとラースが”浄化”魔法を推してくるようになったのは、なんでだろう?

使える魔法の種類を増やすことに抵抗があるわけじゃないけど、二重展開よりも難度が高い。二重展開は意外と楽に行使できるようになったものの、まだまだ安定して使えるわけでもないし――また、違う方向性で難しい魔法だ。

まずは手洗いのやり方を教わってからにしたいところです。






「洗濯……洗濯はなぁ――」



 改めてご教授をお願いしてみると、ラースは口をとがらせて俯き頭をガリガリやりはじめた。



「……そんなに難しい?」


「難しくはないけど、洗濯の時に使うシャボンの実で、すっごい手が荒れるからあんまりやらせたくない」


「手荒れ……?」


「冬場なんかは特に、アカギレになって痛いし――メルが、アカギレにふーふーしながら痛いの我慢してるの想像するだけで、なんか、駄目。耐えらんない」



 言いながら想像したのか、顔を覆うラースの姿を見ながら、私は口をパッカン開いて目を瞬く。



「え? ちょっと、過保護すぎない??」


「過保護でもなんでも、俺がヤダ」


「そして、なんだかメチャクチャ私情に流されてる!?」



 その後も頑なに教えたがらないラースから、お洗濯の仕方を教われるようになるまでに、更に一ヶ月の時間がかかった。

決定打は「下着を異性に洗ってもらうのはいたたまれない」と言うセリフで、もっと早くに口に出しときゃ良かったなと思ったり――ちなみに、お掃除をなかなか教えてくれなかったのも、雑巾がけで手が荒れるっていうが理由だったらしい。



「料理については、メチャクチャ幅広く教えてくれるっていうのが、ホントに謎」


「――だって、メルが作った食事は食べたいし」



 お料理だって、火や刃物を使うから決して怪我をしないもんでもないのにと思ってたけど、実際にやり始めてみたら、思った以上に手が荒れた。

でも、アカギレって痛いもんだと身を以て経験しても、やっぱり思うのです。


――そんなに大事に囲い込みたいなら、いっそラースがお嫁にもらってくれたら良いのでは?


 って――”呪い”のせいでこの森から出られない彼と、2~3年もしたら森から弾き出されるらしい私がそう言う関係になるのは無理なんだろうけど。



「なにはともあれ、”浄化”よりも簡単にお洗濯をする方法を考えようと思います!」


「例えば、どんな?」


「”水牢”にシャボンの実と洗濯物を入れた状態で、グルグルしたら、汚れ落ちたりしないかなぁ?」


「――まあ、やってみよっか」



 更に一ヶ月、あーでもないこーでもないとやってるうちに、”お洗濯”魔法ができちゃいました☆彡

お水の中に刃を作らず、右に左にグルングルン。洗い終わったものから、シャボンの実の成分を取り出すのが少し難しかったけど、水分と一緒に抽出する分にはソレホを難しくなかった。洗い物を乾かすのと、同時に出来るのが素晴らしいところだね。



「コレってアレだね」


「うん?」


「必要は、発明の母ってやつ!」



 ”お洗濯”魔法は、シャボンの実を入れなければ、お野菜を洗うのにも使えて結構便利。食器を洗うのには、あんまり向いてないので要改善……かな?

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