男装令嬢の魔法の練習

 お昼ごはんを食べ終わり、食後のお茶を飲みながらのんびりと魔法についてお話を聞く。元々はあまり興味のない分野だったけれど、食事を作るのにも使えるのなら話は別だよね。これからは自分で作らなくちゃいけなくなるのだから、省ける手間は省くべき……って。そういえば、お皿やお鍋も魔法で洗えば良かったのでは?

いやいや、もっと熟練してからでないと、洗うつもりで壊しちゃうかもしれない。魔法って、結構加減が難しいんだよね。



「ちなみに、俺がひき肉を作るのに使った魔法は”風魔法”2種類のコンボね」


「”風刃ふうじん”はわかったけど――」



 ”風刃”は、見えない風の刃で目標物を切り裂く魔法で、割とポピュラーなもの。

”風魔法”の適正に左右される刃のサイズと、それほど良くない切れ味の関係上あまり人気がある魔法ではない。



「メルは、習ってきた感じで使いやすい属性って分かってきてる?」


「私の場合、”水魔法”が使いやすいかな」


「なら、”風魔法”の適正はあまり高くない可能性が高いけど――”風刃”はどの程度の大きさのまで出せる?」


「一番大きくて、人差し指の長さくらいです」



 そこまで大きくするために、”水魔法”の10倍は魔力を使う。

基本属性魔法は得手不得手があるものの、習得して使うことは出来る。ただし、平均レベルの効果を得るために、魔力を余分に消耗するのが難点です。



「”火魔法”以外なら、同様のことは出来る。魔力の消費効率を考えたら、俺と同じ方法は避けたほうがいいな」



 ラースは”風牢ふうろう”にモノを閉じ込め、”風渦ふうか”で刻んでいる。それと似たようなことを”水魔法”でもやれると言って、彼はニコリとした。



「ウッカリたくさん獲物を狩っちゃったから、それを使って保存食を作ったりするお手伝いを頼みたいんだけど、いいかな?」



 と言うことで、午後から早速、魔法調理の実践練習が始まるみたい。楽しい思い出のない魔法の練習も、食べ物が絡むとやる気が出ちゃう私って、もしかしなくても、食いしん坊が過ぎるよね……っ!




「そんなこんなで、実践・”水魔法”のお時間がまいりました」


「そんなこんなって?」


「色々とこう……そんなかんじ?」


「ゴメン、全然分かんない」



 クックと笑いながら、ラースは首を横に振り「まあ、いいや」と肩を竦める。

最初におまかせされるのは、”水魔法”を使用して内臓のお掃除をすること。用意された内臓は2種類あって、片方は半分に、もう片方はそのまま丸ごとっぽい。



「”水流操作”は初級のはずだけど、大丈夫?」


「得意です」


「じゃあ、それを使って水に色がつかなくなるまで洗っておいて」



 半分に切られたものは、内側にヒダヒダがついていて、その奥の方に血が固まっている事が多いから綺麗に洗い出さなきゃ駄目。丸ごとの方は、細い血管の中で固まった血も溶かして欲しいと頼まれる。



「半分の方はとにかく、コッチの方は繊細な操作が必要だね」


「多少ならいいけれど、たくさん残っていると料理にした時に臭くて食べれたもんじゃなくなっちゃうから、頑張って」


「頑張りますっ」



 そこでふと、その作業の後に作るものが料理が気になった。



「ところでそうまでして綺麗にした後、何を作るの?」


「コッチは心臓なんだけど、夜に香草と油で炒める予定。歯ごたえが独特で、結構美味しい」



 心臓って、思ってたの違う形でしょんぼりです。ハートマークは、一体どうして心臓的なイメージになってたんだろう?

でもまあ、コッチはお夕飯用。ラースが美味しいっていうんだから、きっと美味しいんだろう。どんな歯ごたえなのかが、ちょっぴり楽しみです。



「もう片方がレバー。こっちは保存食代わりにレバーペーストを作る予定」


「レバーって、こんな形をしてるんだ……」



 内臓の種類によって色合いが違うだなんて、初めて知りました。



「初めて見ると、ビックリするよな」


「ほんとにびっくりです」



 何がびっくりって、食べ方を聞いただけなのに、見た目が気持ち悪いと思って居たのがすっ飛んで『どんな味がするんだろう』と楽しみになる自分の食い意地が一番びっくり。そしてこれ、バレたらまた爆笑される案件だよね。

黙っていよう。



「それじゃ、俺は外で腸の処理をしてくるから」



 そう言って出ていくラースを見送り、早速作業に取り掛かる。

気合を入れて、がんばりますよ?






 心臓のヒダヒダや筒状の部分から血の塊を取り出すのは、意外と簡単。あっという間にできてしまって、拍子抜けしたくらいなんだけど――レバーの方は、結構厳しい。太いのから細いのまで血管が大量にある。細い血管の中で固まってしまった血液は、なかなか溶かせない。



「――メルは、真面目なんだなぁ……」


「~っ!?」



 水を操るのに集中しているところで、急に声を掛けられビクッとした。



「あー、ごめん。急に声かけられたらビックリするな」



 集中が切れたことにより血液混じりの水が飛び散って、私も周りもビショビショという、なかなか悲惨なことになっている。



「……ナマグサイ」



 私、とっても涙目です。

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