森の主の拾いモノ

 名目上は不可侵ってことになってる、呪いの森が今の俺の領有する場所。

大陸のど真ん中に位置する、凶暴な魔物が住まう土地だけど、『森の呪い』を受けたヤツだけが自由にできる。まあ、ソレを知ってるのは『呪い』を受けることになった人間と、最初にこの呪いまじないを施した術者だけ。

一般的には、単純に『魔物の領域』って認識されてる。そんな場所。

この森深くに足を踏み入れると呪われるっていう迷信がどっからきたのかは知らないけど、きっと何代か前の馬鹿な男が流した噂だろう。


 『呪いの森』の別名は『流刑の地』。

文字通り、罪人を死なせる場所かと思いきや、実はそうじゃない。貴重な労働力になるモノを、ただ死なせるためにこんなとこには送り込むなんて無駄の極みだ。罪人を使い潰す方法はいくらでもあるから、ソッチで使う。

 そんな訳で『呪いの森』は、本来の『呪い』を受けた男を閉じ込めるための檻という用途の他に、『下げ渡したくない女』を捨てる時に各国の上層部が使ってる。

たまに食い詰めた家族者なんかが、死に場所を求めてやってくることもあるけど、そう言うヤツらは景気のいい国の方に誘導したり、そのまま元の場所に戻したりとその時時の気分次第。

 一人で生き残るすべを持たされずに捨てられてく方は――基本的には、キャッチ・アンド・リリース。生きる術を教えてやってから、生国から遠い国に送ってやってる。いつか、呪いを解ける子がくるといいなーと思っちゃいるけど、ソレに関してはずっと空振りだ。


――それにしても……世の中から、クズ男ってのは居なくならないもんだ。


 そろそろ飯時って頃合いに現れた侵入者に、ため息を吐きつつその場に向かう。

そこに強姦されかけてる女がいるのは、もうお約束ってくらいによく見る光景だ。

『下げ渡したくない女』が、ブスだった試しがないから仕方ないのかも知れないけど、理性ってもんはないのかね?



「ヒトんチの軒下で、何してくれちゃってんの?」



 悲鳴を上げる女を叩いて黙らせた男の頭を蹴り飛ばすと、体を残して飛んでった。


――ヤベ。


 飛び散る血しぶきがのしかかられてた女に直撃したけど……うん。

既に意識が飛んでたから、セーフだ。セーフ!

でなきゃ、トラウマ案件だった。

かいてもいない額の汗を拭いつつ、意識のない女の上から男の残骸を押しのけて、浄化の術を掛けて血まみれ状態をキレイにしてやりお顔を拝見。

容赦なくぶっ叩かれてたから、見事に腫れ上がってる。

顔が気に入ってコトに及ぼうとしたくせに、ソレを台無しにしてどうすんだってのはツッコむだけ無駄だな。ケダモノの考えることは、理解できない。


 ゴミクズの思考回路なんかよりも、早く治してやらないと。

叩かれて腫れ上がった頬が痛々しくて可哀想だ。

治療したあと現れたのは、柔らかな月の光と同じ髪色の美少女だった。しばらく断食でもさせられたのかヤツレているけど、将来有望。(まだまだ子供)


 意識のない体を抱えあげようとして、着けられた邪魔くさい枷を破砕する。改めて彼女を持ち上げ、馬車に繋がれてた馬を放してやった。


――さてさて、今回はどんな子だろうな。


 怖いような、楽しみなような複雑な気持ち。

この子は、呪いを解いてくれるかな……?

前の子が独り立ちして、すでに12年。

久しぶりの同居人に、ドギマギしながらベッドに運んだ。

俺のじゃないよ。

ちゃんと、同居人用のやつだ。

服は少し悩んでから、肌触りが良くて、頭から被れば着られるワンピースをベッドの脇に移動した椅子に掛けておく。流石に、ここまで破れた服は繕えない。






 昼飯を作るのと一緒に、夕飯用の煮込みを作る。

今は寝てるあの子も、きっと夜までには起きてくるだろう。

久しぶりに、話し相手ができそうなのが楽しみで仕方がない。



「あ、でも。しばらくモノを食ってなさそうなんだっけ……」



 あんまりコッテリしたやつだと、胃がビックリするな。

ヤワヤワに煮込んだ野菜スープとか、お粥も用意しよう。


ぐうぅううううううぅううううう


 そう思ったところに、でっかい腹の虫が鳴く音がした。音源に視線を向けると、台所の入り口にすがるようにして、お腹を抱えてしゃがみ込む月色の頭。

まさか、もう起きてくるなんて思わなかった。



「……お昼、もうすぐ出来るからちょっとまっててな」



 無言で上下する頭と、止まらない腹の虫の音に、吹き出すのを我慢するのが大変だ。今日は、昼飯も一緒に食べる相手がいる。

メチャクチャいい日じゃない?

んでもって、きっと――

この子の性格、素直で可愛い系。

小さな声で、どこで待ってればいいかを訊ねる真っ赤な顔に、目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る