ピラミッドの立てこもり犯に告ぐ!

ちびまるフォイ

ピラミッドの最強要塞

「そのピラミッドは完全に包囲されている! おとなしく出てきなさい!」


「うるせぇ! 少しでもピラミッドの中に入ってみろ!

 このファラオのミイラがどうなってもいいのか!!」


ピラミッドを囲む警察と立てこもり犯の押し問答が続いてからもう何時間も過ぎている。

隣に立つ考古学者はみるみる顔色が悪くなっていく。


「ああ、どうしよう。あのピラミッドには歴史的に非常に価値にあるものばかりなんです。犯人が血迷って壊さなければいいんですが」


「安心してください。すぐに引きずり出してやりますよ」


「なにか策があるんですか?」


「さきほど、大きな鉄球のついたクレーン車を手配しました。

 あれで壁をぶち抜いて、丸出しになった立てこもり犯を射殺するんです」


「話聞いてましたか!? このピラミッドは重要文化財なんですよ!! 壊すなんてとんでもない!」


「じゃあどうすればいいんですか! このままじゃ立てこもり犯が何をするかわからない!

 多少ピラミッドを壊してでも安全を確保するべきです!」


懸命な説得を続けていた警察もすでに限界だった。

必死の交渉も犯人の耳には届かない。


凄腕のスナイパーを雇ったもののピラミッドに入られては外から撃ち抜けない。

まさに要塞となっていた。


「いったいどうすればいいんだ……」


警察が頭を抱えたとき、考古学者は意を決した。



「ピラミッドの呪いを発動させましょう」


警察たちはぎょっとした。


「の、呪いですって?」


「ピラミッドにはいくつか盗掘目的の侵入者を排除するシステムがあります。

 それをこちら側で作動させるんです。そうすれば犯人は死んでしまうか外に出てくるでしょう」


「そんなことできるんですか」


「私は考古学者です。ピラミッドの構造も熟知しています。

 だからどうすれば呪いが発動するかもわかっています」


「なるほど……! それじゃ、お願いできますか」


ピラミッドを囲んでいた警察たちは呪われまいとすぐにパトカーへと引き返した。

考古学者はピラミッドの外にあるスイッチを押して、内部の呪いを発動させた。


「何も起きてないように 見えますけど、呪いは発動したんですか」


「ええ、間違いありません。あのピラミッドの中にいる犯人は呪われたでしょう」


警察はふたたびピラミッドの内部へと呼びかけをはじめる。


「おおい! まだ生きているか! 生きているなら返事をしろ!

 ピラミッドの前には故郷のおふくろさんも来ているぞ!!」


ピラミッドからは何の声も聞こえない。


「聞こえないのか! お前の要求していた逃走用の車も用意したぞ!」


ピラミッドからはやはり何も聞こえない。

しかし、呪いやオカルトを信じない警察はやや疑っていた。


「先生、本当に呪いは発動したんでしょうか」


「間違いありません。確実にあの中にいる犯人は呪われています。返事がないのもそのためでしょう」


「しかし、死んだふりをしている可能性もありますよ」


「そんなことをしてなんの意味が?」


「死んだと思わせて我々がピラミッドから離れたタイミングで逃げようという算段かもしれません」


「だったらずっと見張っていればいいでしょう」


「こんな砂漠でずっと見張れるわけないでしょう。こちらにも体力の限界があります。

 それに呪いもかなり古いものでしょう? 動作不良という線も……」


「どうしてもピラミッドの呪いを信じられないんですか!?」


「犯人が呪いを逆に利用している場合もあるという話をしてるんです!」


ピラミッドの外から中の様子をうかがうことはできない。

今、犯人がどういう状態もわからない。


「わかりました。ではこうしましょう」


「先生、なにを!?」


考古学者は自分の腰に縄を巻き付けて、縄のはしっこを警察の手に渡した。


「これから私はピラミッドへと向かいます。

 もし犯人が生きていてたら、縄を1回引きます。

 犯人が死んでいたら、縄を2回引きます。それでいいでしょう」


「もし呪いが不発してて、犯人が生きていたら……。

 先生、あなたまで人質にされる危険もありますよ!?」


「そのときは私はこの銃で犯人を殺しますとも」


「先生、ひとつだけ約束してください」


「なんですか?」


「先生ではなく、我々が縄を1度でも引いたらなにかしら反応してくださいね」


「……わかりました」


考古学者は犯人のいるピラミッドへと足を踏み入れた。

警察はその様子をかたずを飲んで見守っている。


手に持っている縄はするすると先へと引っ張られていく。


ある程度、進んだところで警察は縄を引いた。



しかし、縄の先から反応はない。

返事をするように引かれることもない。



もう一度、警察は縄を引いた。

やっぱり反応はない。



縄を持っていた新米警察は青ざめた。


「先輩、どうしましょう! 縄の先から反応がありません!

 縄を引く前に立てこもり犯に捕まったのかもしれません! 早く助けにいきましょう!」


「ちょっとそれ貸せ!」


先輩警察は縄を奪って、何度も引いた。

何の反応も帰ってこなかった。


先輩警察の顔はみるみる嬉しそうにほころんだ。



「よかった、ピラミッドの呪いはちゃんと発動していた!」

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