36.武運を祈っている
フェルネラント帝国の北方国境を越えて、ロセリア帝国艦隊が南下した。
無数の
フェルネラント帝国国境警備隊は、すでに後退している。
全軍の武装解除命令は
この状態の兵士にできることは、せめて逃げる民間人の
数日前まで日常生活を
上陸したロセリア帝国軍の陸上戦力は、じっくりと余裕を持って、
歩兵三個大隊に砲兵隊と工兵隊を加えた約四〇〇〇名、戦車八十
背中に身の丈を超える一振りの大剣を装備し、右肩の両腕は幅広の剣を一振りずつ、左肩の両腕は長大な一本の
頭部を
厚い雲に朝日が
パルサヴァールの足元で、長く波打つ金髪を乱されるままにしながら、イザック=ロマノヴィチ=バララエフ中尉が濃い茶色の将校服の肩をすくめた。
「なんだよ、あんまり本国と変わらないなあ。冬には流氷がくるんじゃないか? これで女まで同じくらい
30代やや手前、
だが、それもすぐに
バララエフの隣に、将校服に指揮官の
「
「わかっておりますよ、ドミトリー=ネストロヴィチ=カザロフスキー大佐殿」
バララエフの軽薄な敬礼に、カザロフスキーが
「貴官の性格が良しとする作戦でもないだろうに。
「そう言う大佐殿は、根っからの軍人根性ですなあ。前代未聞の四階級特進で総指揮官に
「くだらん」
カザロフスキーが軍帽を手に取り、短い金髪を風に乱す。
「地位も欲望も、くだらん……そう思うようになった。おまえ達のせいだ」
バララエフが、驚いたような目になった。
「どんな民族、どんな人間にも、生きる理由と願いがあるのだな……知ってはいたが、理解してはいなかった。おまえ達などに関わってしまったのが、私の運の尽きだったよ」
「なら、どうして命令を拒否しなかった? 軍を追われたって、地の果てまでだって、一人で逃げれば良かっただろう」
「過去に犯した罪は、罪。今さら、戦後に生きようとは思わんよ」
カザロフスキーが沖に浮かぶ、
「この作戦は、誰かがやらされる。そして、成功しようが失敗しようが、国際社会の非難を
降伏を宣言し、軍の武装解除に応じたとしても、講和条約が
横から新たに宣戦布告、参戦することも、国際法の
だが、そんな前例が認められてしまえば、敗戦国側に降伏を選択する意味がなくなり、無用な戦争継続と被害の拡大を招くことになる。
捕虜の
バララエフの目が、カザロフスキーを
「約束はどうする気だ? 悪党」
「
カザロフスキーが笑った。
バララエフも苦笑した。
手に取っていた軍帽をかぶり直して、カザロフスキーが背中を向けた。
「私は戦艦で指揮をとる。さらばだ、同志バララエフ。武運を祈っている」
「お互いにな。同志カザロフスキー」
遠ざかる背中に向かって、バララエフが今度は
二人の頭上、風が激しくなってきた
「この天気じゃ、こっちの航空支援は期待できないな。まあ、いいさ。戦争最後の大一番、小細工はなしだ。今から行くよ、ジル」
みゅう、と、バララエフに
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