35.私達の流儀です
リーゼロッテの言葉通り、夜の帝都には、不穏な影が多かった。
直接の戦争被害がなくとも、
基盤の弱い地方では子供の身売りや餓死者も発生し、都市部に流入した難民同然の
そして彼らの不安、不満を体制への敵意に巧妙に誘導、
ジゼルは、視覚同調した猫達の
戦場で死ぬことも戦争なら、国家の正義に押し
自分が戦ったことの意味、守ったもの、犠牲にしたもの、結果の理不尽、帝都の夜の
リントが
ジゼルは笑っていた。
人ではない魔女は、人の世のありのままを見て、
ゆっくりと時間をかけ、散策を楽しむようにして、シュトレムキントの停泊している港に戻る。夕刻、モニカが自動車で散々に
「よお、大将。せっかくの故郷だってのに、ずいぶん早かったな」
「民間人の皆さまには、丁重にお引き取りいただきました。死傷者は出しておりません!」
同じ黒髪に
「イスハバート王国陸軍総司令、ラスマリリ=カラハルです」
「同じくイスハバート王国陸軍特務部隊、隊長クジロイ以下、チルキス猟兵隊二〇〇名だ」
肩で切りそろえた黒髪の
後ろに並んだチルキス族の男達が、山岳野戦服の肩に鉄弓を
その左側、向かい合うジゼルからは右手側に並んだ水兵達の後方、偽装貨物船シュトレムキントの隣には堂々とした巡洋艦が、兵員輸送艦を引き連れて停泊していた。
「マリネシア皇国海軍総司令、ナドルシャーンだ。
「同じくマリネシア皇国海軍監察官、ルシェルティです! お任せあれ、ですわ!」
二人とも長い黒髪に浅黒い肌を、
小さく
「同じく海軍将軍、ヨアヒム=ヒューゲルデン以下、
「同じく海軍参謀、チェスター=キャリントンです。なんで、こうなっちゃってるんでしょうね、本当」
白い水兵服に将校服の上着をひっかけた白髪のヒューゲルデンが、老人ながら横幅の広くたくましい
肩書きの割に水兵服だけの赤毛の
不真面目な二人を尻目に、居並ぶ水兵達が、それなりにきっちりと敬礼した。
さらに左側、砂色の野戦服に最新式の小銃を
「ペルジャハル帝国陸軍総司令、ラークジャート=パルシーだ。他にも国家元首が多くて助かった、セラフィアナに言い訳ができる」
「同じくペルジャハル帝国陸軍お目付け役、ハシュトル以下、銃兵隊および砲兵隊の計四〇〇名!
褐色の肌に赤みの強い黒髪の、
やはり褐色肌に黒髪の、弟のように見えるハシュトルの方が、むしろ堂々としていた。
部隊の後ろの方には、火砲の測量道具を持った兵士もいる。
そして並んだ左の
「東フラガナ人民共和国主宰、ワンディル=タートだ! 聞いちゃいたが、すげえ寒いな、ここ!」
「同じく東フラガナ人民共和国陸軍首席、ニジュカ=シンガ以下、銃兵隊二〇〇名! 難しい話は言いっこなしだ、最後までつき合うぜ!」
ワンディルが短い黒髪をふるわせて、厚い唇と大きな目を丸くする。
茶褐色の髪をたてがみのようになびかせたニジュカは、気にする風でもなく、たくましい腕をまくっていた。
二人を含めて部隊全員が、黄色と緑の二色に染めわけた布を、右腕に巻いている。
シュトレムキントの甲板上では、白衣のような
隣で、黒髪を三つ編みに束ねた水兵服のシュシュも、
最後にマリリの足元で、
陣容を見渡して、ジゼルとリントが、同じような表情をする。
「困った
「そんな道理は、
マリリが左腰に
「私達の流儀です」
ジゼルを見つめる緑の目に、強い光が宿っていた。
かつてジゼル自身が評した、相手の心に届く意志だ。心を燃やす火は、もう皆が共有している。
これ以上の言葉は、必要なかった。
ジゼルが左腰に
「では、共に参りましょう」
ジゼルの
そして高らかに、夜を圧する
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