34.魔女にございます
ラングハイム公爵家の二階、リーゼロッテの
本棚の中には民話や童話、学問や歴史書、ジゼルも
「昔からこの部屋で、本ばかり読んでいたの。子供の頃に戻ったみたいで、アルトゥールからも、少しあきれられているわ」
リーゼロッテが、
窓の外の
「おじさまとは先生と同じく、
「それは、まあ……あの通りの、女性好きのする美男子でしたから。お
リーゼロッテが、口元に手をあてて、はにかんだ。
「ですが、事情はわからないけれど、半年ほどで婚約を破棄なされて……もう、この時が一世一代の正念場と思い定めて、お
リーゼロッテの瞳に、
ジゼルも笑って、将校服の
「
「最期……?」
「死地に参ります。本来、この
ジゼルの言葉に、リーゼロッテは困ったような顔をした。
「味方も敵も、生きるも死ぬも、戦場のことはすべて武門の
リーゼロッテの目から一筋、涙が流れた。
「あなたのことは、娘と思っています。決して、忘れないで下さいね」
「ありがとうございます……リーゼロッテ様」
ジゼルが立ち上がる。
一礼をしかけて、軽快な足音に、扉の方を向いた。わずかに遅れて、勢いよく少年が扉を開いた。
「アルフレート=クロイツェルの
「アルトゥール、御無礼ですよ」
「母上はお
一丁前の言い分に、ジゼルの目が優しげに細くなる。
「私は構いませんが、決闘とあれば、手加減できませんよ」
「無論だ……! だが、
ジゼルが口を押さえて、吹き出すのをこらえた。
「なるほど。良い
「その時は、あきらめる……だから、約束しろ! 十年後の決闘に私が勝った時は、ジゼリエル=フリード、私と結婚してもらう!」
今度こそ、ジゼルだけでなくリーゼロッテも、
アルトゥールが、
「戦場の
ジゼルへ向けられた少年の目には、悲しみと憎しみ、怒りと、それらを懸命に受け止める理性があった。
父親の誇りと、母親の気持ちを、理解して受け入れる聡明さがあった。
ジゼルは表情を引き締めて、片膝をつき、自分の胸に手を
「こちらこそ御無礼を致しました、アルトゥール=クロイツェル。あなたの決闘のお申し出、ジゼリエル=フリードの名において、
「私はすでに
「あい、じん……?」
「母親の前でする約束ではありませんよ、ジゼル」
リーゼロッテが、しかつめらしく
ジゼルがもう一度、アルトゥールに頭を下げる。そして立ち、背中を向けて、窓際に歩いた。
「未来の約束など、この身には
「もう
夜の霧が、晴れた。
黄金色の月光が、庭園と、
「先生は本来、戦場に
「では、せめて車を……今の帝都は、安全とは言えません」
リーゼロッテの
「ありがとうございます。ですが、お
リントが、にゃあ、と鳴いた。
庭園に、無数の猫の目が、月光を反射して輝いた。一陣の風が吹いて、ジゼルの黒髪を翼のように広げる。
「私はもう、人ではありません。魔女にございます」
黒髪の翼ではばたくように、猫の目の星空に
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