32.なんとかして下さいね
ラングハイム公爵家は、フェルネラント帝国でも一、二を争う大貴族の本家で、ユッティからは母方一族の
自動車ごと雨風が
モニカとジゼルが
玄関扉が開いて、モニカと同年輩ほどの、穏やかな雰囲気の女性が現れた。
「リーゼロッテ様……」
ジゼルと、リーゼロッテと呼ばれた女性の様子に、ユッティが首を
「リーゼロッテ=クロイツェルと申します。ユーディット様のことは、夫はあまり話しておりませんでしたが、お
話がつながって、ユッティが、さすがにばつの悪い表情をする。
リーゼロッテの夫、アルフレート=クロイツェルは、ユッティの十五年前の恋人であり、カラヴィナ方面統合軍における上官であり、ジゼルが殺した敵だった。
「リーゼロッテ様がこちらにおいでとは、モニカ様に助けられました。ちょうど、クロイツェル家をお
ジゼルの敬礼に、リーゼロッテが口元に手をあてて、恥じ入るように笑った。
ジゼルの仕草にも、少し似ていた。
「
「確か、十歳になられますね。
「あなたが、あまり正直に手紙に書くものだから、
ジゼルとリーゼロッテが、なごやかに話しながら屋敷に入る。リントは、ふらりと庭の方へ消えて行った。
それでも動こうとしないユッティに、モニカが
「ユーディット様も、中にどうぞ。お
「嫌よ! あんなのまでいて、なおさら合わせる顔なんてないじゃないの! 説教の心当たりが多すぎて、
ユッティの情けない悲鳴に、騒々しい
正門からの、慌てた制止の声も振り切って、ユッティとモニカの間に、自動二輪車が飛び込んできた。
またがっていたのは、黒革の狩猟用の上下に白い肌を包んだ女性だ。
「やっほー、ユーちゃん。今日くらいに帰ってくるって聞いてたから、そんなわがまま言ってるんじゃないかと思って、きちゃったー」
「イ、イルメラ? あんたにしちゃ上出来よ! 今日ばっかりは感謝するわ!」
ユッティが、身も世もなく、自動二輪車の後部座席に飛び乗った。
「ごめんねー、モニカさん。政務府に行くから、先輩には私から話しておくよー」
「イルメラ……いえ、イステルシュタイン伯爵! 困ります!」
うろたえるモニカを尻目に、自動二輪車の発動機が、ここぞとばかりに
先ほどまでの自動車を上回る銃弾じみた速度で、二人を乗せた自動二輪車が
ユッティの、今度こそ本気のかすれた悲鳴が、長く尾を引いて風に散っていった。
********************
フェルネラント帝国の帝都中央政務府は、カラヴィナ総督府と同じ鉄骨と
敷地も広く、多くの関連施設や
「あんた、さっき、モニカさんがイステルシュタイン伯爵って……結婚もしないで、自分で爵位を
「こういう時に便利なのよー」
イルメラが指輪の家紋を見せると、どこの警備員も敬礼して、通過を許可した。自動二輪車の後部座席で、へたばるようにイルメラの腰にしがみつきながら、ユッティが苦笑する。
「そりゃ、まあ、ジゼルもフリード侯爵を
「その時は、ユーちゃんがお嫁にきてよー」
イルメラ=イステルシュタイン伯爵が、間のびした口調で笑った。
爵位持ちの貴族に娘しかいない場合、
爵位は基本的に長子相続なので、貴族家の次男や三男にとっては、数少ない返り咲きの機会だ。
娘が爵位を
「私は学生の頃から、ユーちゃん一筋だよー。ユーちゃん、おっぱい大きくなったでしょ? 自動二輪車の運転、がんばって練習した
「おかしな調子は、相変わらずね……いやもう、モニカさんの運転もあんたの運転も、こりごりだわ。
イルメラが、悪びれもせずに腕をからませる。二人が本庁舎に入ると、玄関広間で、同じく二人の男に
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