29.快い感覚です
肉体の感覚を忘れていたのだ。自分の手足と、リベルギントを交互に見る。
「だいぶ、一心同体に近づいてきましたね。
意識も感情も、個別でありながら、つながりが切れていない。会話の必要もないだろう。
「いけませんね。めし、ふろ、ねる、だけでは愛情を
「文脈が理解できないが、努力しよう」
リントがジゼルの足元で、不思議そうな顔をする。こちらからの同調に、ジゼルが
「なるほど。リントは私を、このように理解しているのですね。多少、心外なところもありますが、まあ良いでしょう」
少し離れた場所で、マリリとメルル、バララエフが、こちらを
「お疲れさまです、マリリ。そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。
マリリが駆け寄って、ジゼルにしがみついた。
緑の目がゆがんでいる。ジゼルの手が、マリリの
「
バララエフから言葉がもれる。ジゼルが、小首を
「
「もともと、同志クロイツェルが持ち込んできた技術さ。情報が完全じゃないとは思っていたが……こんな仕掛けまであったとは、ね」
返答に、ジゼルが苦笑する。
「それは、まあ……納得できましたが、おじさまにも困ったものですね。なんだか
「同感だ。死んでまで、油断ならないおっさんだよ、まったく」
バララエフが、大きなため息を
なにを
熱帯平野に、大陸を植民地として支配していた国の、軍隊の、
この戦闘は終了した。はっきりしているのは、それだけだった。
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トゥベトゥルに
至るところに東フラガナ人民共和国の国旗がはためき、
シュトレムキントで迎えたユッティも、ヤハクィーネも、ジゼルの状態になにも言わなかった。
わかっていたことが、実際に
ジゼルはいつものように、いそいそと
人民委員会本会議場の応接広間に、ジゼル、ユッティ、マリリ、クジロイ、ニジュカ、バララエフ、カザロフスキー、ティシャ、ゴードウィン、ワンディルが集まった。
正式な組織ではないが、人民委員会からは建国の首脳陣として、十人委員会と称されていた。
リントとメルル、ウルリッヒは数に入っていないが、まあ、不満をもらすでもなく寝転んでいた。
一通りの報告を交換して、
大きな
ジゼルとマリリも、一口だけ含んだ。
直後、バララエフが手を
「ええと、少し照れるな。俺達はほとんど、行きがかり上みたいなもんだったけど、建国なんて大仕事に
陽気な声に、多分、本心からの
「資金と物資の調達は、後任が引き継ぐ。俺達には帰国命令が降りた。今夜、
「なに……っ?」
誰よりも先に、カザロフスキーが驚いた。
それが歓喜ではなく
「どういうことだ? なぜ、急に……?」
「良かったじゃないの、悪党」
ティシャが笑って、静かに立った。
「返事がなかったから、勝手に、約束ってことにしたわ。忘れないでね……私も、できるだけ生きて見せるから」
そう言うと、応接広間を出て行った。
沈黙に、カザロフスキーの舌打ちが、力なく響いた。
「……追いかけろ。今しかないだろう?」
今度は、マリリが立ち上がった。固い声は、半分以上、自分に向けているようだった。
「よりにもよっておまえが、なんのつもりだ……? 俺が誰だか、忘れているのか?」
「そんなことは今、どうでも良い」
「俺は
カザロフスキーが、
「俺は……赤の他人だ。後悔の肩代わりをさせられるのは、迷惑だ!」
「そんなことも、なにもかも、どうでも良い! 行くんだ!」
マリリが、カザロフスキーをまっすぐに見た。強く、
「私はおまえを許さない。だがそれは、私の決意だ。
メルルが、にゃ、と鳴いた。
扉にはカザロフスキーごと体当たりしていたが、まあ、
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ティシャは、中庭にいた。
黒い肌が、なぜだか、
ウルリッヒが一声鳴いて、カザロフスキーを放り出す。気絶寸前の
ティシャが、失笑した。
「最後まで、格好悪いわね」
「おまえ達のせいだ! どいつもこいつも、わけのわからない奴ばっかりだ!」
あたり散らして、カザロフスキーが立ち上がる。
どちらともなく、苦笑し直した。
カザロフスキーが、胸元を探る。
「……驚いたわ。くれるの? なにかしら、これ」
「
「大切なものじゃないの」
「大切なら、おまえなんかにやるか」
せいぜい憎たらしく、カザロフスキーが、
「俺は絶対に死なん。だから、こんなものは必要ない。
「……名前、読めないわ。教えてよ」
「ドミトリー=ネストロヴィチ=カザロフスキーだ」
「ティーシャガファッソー=タートよ。外国人には難しいでしょうけど、ちゃんと覚えて。ティシャじゃ駄目よ」
カザロフスキーが
ほんの少し目をゆらめかせて、ティシャが満面の笑顔を見せた。
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