28.そんな殊勝な心がけするか
ティシャとウルリッヒ、カザロフスキーの活動は、思いもかけない
植民地支配の圧政と略奪を、現に経験していた者達だ。恐怖と怒りが、あきらめと
黒色人種同士で争っていては、無意味に死んでいくだけだ。その共通認識が、調停の追い風となった。
ワンディルは
そうすれば、実際に争いを治めるための提案や主張は、各民族の代表者達から自然と上がり、すり合わせが始まった。
東フラガナ人民共和国軍に志願する男達も、さらに増えた。
とうの昔に滅びた旧ネメリク王国の政務首都トゥべトゥル、小さな港街ランベラから広がった新しい秩序を求める熱は、フラガナ大陸にゆっくりと、だが確実に浸透して行った。
それを空の彼方に見るように、ティシャが、丘の上の風に吹かれていた。
東海岸は見えない。熱帯平野と森、黄色と緑の大地だ。隣で、ウルリッヒが
「くそっ! いいかげん、
カザロフスキーが、
「そんな
「悪党が、そんな
ティシャが、納得したように笑う。カザロフスキーはウルリッヒから距離を取って、座り込んだ。
「気の長い話だな。こんなことを、大陸中でやるつもりか? 戦争の足の方が、ずっと早いぞ」
「そうね……確かに、なにやったって無駄でしょうね。死ぬ時は、どうしようもなく死ぬわ。父さんも母さんもそうだったし、私とワンディルも、きっとそう」
「なら、なぜこんなことをする? その時がくるまで、せいぜい好きなことをして、楽しんでいれば良いだろう」
「多分、後悔してるのよ」
ティシャが、髪を
「勝てるわけないのに戦って……母さんまで巻き込んで死んだ父さんを、馬鹿としか思えなかった。私は
ワンディル達に言い
恐らく、どちらも本当の心の表裏なのだろう。カザロフスキーを横目で見て、ティシャが
「あんたは生き残ってよ、悪党。どんな悪いことをしても、
カザロフスキーが、
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ここのエスペランダ
他の国の
先生の分析とシュシュの集積情報を、ヤハクィーネ様から伝達してもらう。ほとんど、頭の中に直接入り込んでくる感覚だ。
光学情報に補正情報を
戦車も、それなりに集中運用されていて、弾幕を張られるとこちらも難しい。バララエフ中尉のパルサヴァールが、地響きを上げて最前衛に突撃した。
巨大な
右側の両腕は天を
もう騎士物語ですらない。どこまで時代をさかのぼるのか、
「もっとじゃんじゃん任せてくれよ! 俺とジルが一緒なら、
「それを言うなら天下無敵だろ、
男性陣が出撃前に、そんな会話を交わしていた。
戦場を、情報で
展開する
チルキス
さて、私達も参りましょう。
進撃速度をパルサヴァールに合わせるため、リベルギントも
敵の最前衛に開いた穴を、
メルデキントは両腰に同じ長距離砲を
戦場は、すでに支配した。
それでも、敵も総力戦だ。砲弾が、炎が、銃声と断末魔が、血と生命が、等しく無数に散っていく。リベルギントの
ふと、同化した意識が、違和感を告げてくる。
戦場の動きは、常に論理的な意志を
中間距離から戦車が二
前方の一
『マリリ、座標を指示します。前方車両の足を止めなさい』
思わず、声が出た。
リベルギントとマリリは音声同調している。指向性の直接送信になる。
「はっ? はいっ!」
マリリの返事は、メルデキントから私への音声同調で受信する。少し
長距離砲の砲撃が、前方車両の正面装甲を叩き、直進をはばむ。後方車両が
『バララエフ中尉、回避を』
圧縮した電位信号波の、264回目の試行で、パルサヴァールが横に
真正面、右脚を大きく踏み出し右の
一呼吸、轟音と爆炎が
すんでのところで
砲弾の代わりに爆薬を
こちらの
『マリリ。
「は、はい……あの、ジゼル様……ですよね?」
『ええ。まだ少し、私も残っているようですよ』
大槍を
『バララエフ中尉。縦列編成の二
「あ、ああ……了解した」
パルサヴァールが、
敵もさる者、こちらへの対処戦術を、さすがに考え始めているようだ。兵力も半数を減らして、退却する気配がない。
『良いでしょう。それでこそ、ようやくこちらと、同じ戦場というものです』
頭部装甲の、牙を持つ
後はただ、生きるか死ぬかだ。
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