27.覚悟を決めた女は強い
ゴードウィンが
「現在の植民地の境界線は、
対して、
「この情報も古い。植民地支配の分断を経て、今も紛争と
「あの……ちょっと良いか? 俺は馬鹿だから、まと
ワンディルが、少しためらいながら手を上げた。
「国境なんて、本当に必要なのか? 国が分かれているから、戦争が起きるんだろう? フラガナ全部で一つの国じゃ、
「……ワンディル。おまえは、
「そんなことはわかってるよ!」
「誤解するな。おまえは、真実の一面をとらえている。その上で、論理的に思考している。知恵があり、頭が良い」
「え……?」
「その知恵を生かすための技術が、学問だ。道具が、知識だ。技術と道具を身につけた人間の、他の面をとらえた意見に、耳を
ゴードウィンが、
「国がただ一つなら、政治手段としての戦争が行われることはない。それは正しいが、一つの国、一つの政体が、地平の果てまで目を
ゴードウィンの脳裏には、恐らく、エトヴァルトの存在が浮かんでいるのだろう。
「人も組織も、無限に手がとどくわけではない。力が及ばない先は、他者を信頼して、任せろ。それが国境だ」
ワンディルはゴードウィンの言葉を、素直に聞いていた。
ゴードウィンが
「ロセリア帝国からの調達物資は、新型の
二人が、無言で
内陸部には鉱山も、植民地経営がもたらした大規模農場もある。密林に
フラガナ大陸の北海岸は
全ての利害を調停し、黒色人種主体の統治を根づかせるには、ゴードウィンが言ったように、世代を超えた長い時間が必要になるかも知れない。
東フラガナ人民共和国の
「ちょっと待って。その仕事に、私もついて行かせて欲しいの」
応接広間の扉を開けて、ティシャが現れた。
色彩豊かな民族衣装ではなく、地味な男物の衣装に、からんで束になった長い黒髪も、一まとめに
ワンディルが、驚いた目を向ける。
「戦争を手伝う気はないわ。あんたが戦いたいのなら、勝手にすれば良い。私も私で、勝手にさせてもらうわ」
「勝手に、って……話を聞いてたんだろ? 危ねえよ。白人の軍隊だって残ってるし、黒人同士も、あちこちでけんかしてんだぜ?」
「だからこそよ。いつ、どこであんた達が死んで、ここが戦争になるかもわからないんでしょう? 黙って殺されるだけなんて、確かにもう、うんざりだもの」
ティシャが、ワンディルをにらみ
「大陸中の
あっけに取られる全員を
「あんたも来るのよ、悪党。みんなの前で、私に言ったように毒づきなさい。せいぜい憎たらしく、危機感をあおってちょうだいね」
「な……っ!」
「どうせ逃げる時は、まっ先に逃げるんでしょ? あちこち見て回って、指導して。あんた自身のためにもなるでしょう」
「ふ、ふざけるな! なんで俺が、おまえらみたいな連中に……」
「ウルリッヒ」
ティシャの静かな声に、
「この子にもついてきてもらうわ。おかしな
冷厳に言い放つ
急に動いたウルリッヒに振り払われたリントとメルルが、小さく不満の鳴き声をもらした。
「出発する時は、声をかけてちょうだい。いつでも出られるようにしておくわ」
ウルリッヒのたてがみを一なでして、ティシャが応接広間を出て行った。
忠実な従者のように見送ったウルリッヒが、ようやくカザロフスキーを解放する。気絶していた。
のんびりと、もといた場所に寝転ぶウルリッヒを見て、なぜだかジゼルとユッティが肩を落とした。
「なんでしょう、この敗北感……」
「言わないで。名前が名前だけに、泣きそうになるわ……」
クジロイとニジュカ、バララエフも、目を見合わせて
ワンディルに至っては、混乱に目を回していた。
「ど、どうなってんだ……? 姉ちゃんまで、魔女になっちまったのか……?」
「覚悟を決めた女は強い。それを魔女と、言わば言え」
マリリが胸を張って、気絶しているカザロフスキーを、
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