21.死なないように注意して下さい
ワンディルの家は、旧ネメリク王国の
古びた
ワンディルが、入口から中を、恐る恐るのぞく。
ちょうど出てきた、
「い……今、戻ったよ。姉ちゃん……」
女が、無言で
「な、なんだよ!
仲間の男達の
「私にお
ジゼルの言葉に、
集団の
マリリの隣で、クジロイが肩をすくめている。そう言えばマリリの母親を、一番上の姉、と表現していた。どうやらいろいろと、
ユッティと整備兵達は、リベルギントとメルデキントを
チルキス族の男達は、周辺の森に
ジゼルよりは年上、成人して間もない程度だ。
しなやかに引き締まった身体を、色彩豊かな一枚布から
「フェルネラント帝国陸軍、ジゼリエル=フリードです。ジゼルと呼んで下さい。お名前をうかがってよろしいでしょうか」
「……ティーシャガファッソー=タート、ティシャです。弟達が御迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
「それほどのことではございません。むしろ、これからこちらが御協力を頂く立場でして、こうして
「協力……ですか? こんな
「ワンディルに、新しい国の王様になって欲しいのです」
ジゼルの笑顔に、一呼吸置いて、ティシャが鼻にしわを寄せた。
「この大陸から白色人種を追い出し、黒色人種の
「あの……おっしゃる意味が、わかりません」
「
「やるぜっ!」
全速力で走ってきたのか、ワンディルが水を満たした
「難しい話は全然わからねえが、白人どもを追い出すってんなら、望むところだ! なあ、みんな!」
似たり寄ったりと仮定したが、どうやら仲間連中は、ワンディルより少しは知能が高いらしい。判断を
「
「任せてくれよ! それで、とりあえず、なにをすれば良いんだ? 仲間をもっと集めるのか?」
「今夜、私達について来て下さい。当事者がいるのと、いないのとでは、やはり
「アルメキアの残存軍を
ティシャと仲間連中の表情に、ワンディルがようやく追いついた。
無理が、道理を軽やかに飛び越えている。マリリとクジロイは、もう慣れたものだった。
リントが、にゃあ、とジゼルの肩で、メルルが、にゃ、とマリリの肩で鳴いた。
少し早いが、先に食事を済ませられれば、充分な働きをして見せよう、と、
********************
港を離れる前に
どこの国、地域であっても、同族達は人類に次ぐ支配者の地位を確立しているようだ。
アルメキア共和国フラガナ駐屯軍は、単純に、旧王宮を本営に接収していた。
ワンディル達のような武装組織の抵抗が他にもあるのか、兵力の
それでも、突然の侵攻を受けて
正体も規模もわからない、来るかどうかもわからない相手を、とにかく警戒しろ、戦うか降伏するかも後で考える、では、兵士達はまともに機能できない。
王宮の敷地に
ジゼル以下、マリリ、クジロイ、チルキス
戦場で罪を
リントとメルルの先導で、王宮内に突入する。ジゼルが
マリリが地を
何匹かの協力的な同族が
要所は
ワンディル達は、まあ、なんとか遅れずについて来た。
それだけでも立派なものだ。歯の根も合わず声もない、という
憎い白色人種と言っても、これだけ大量に目の前で殺されていけば、どんな正義もゆらぐだろう。
エトヴァルトの定義なら、それこそが正義の状態であるらしい。新しい国王としては、正義の状態が望ましいはずだ。
だが、さすがに
「私としたことが、
「問題ない。間に合った」
振り返ったジゼルの目線の先で、飛び込んだ通路から、ワンディルが腰を抜かしたように
小銃を持ったアルメキア兵士の、首のもげかけた死体が、その足元に倒れ込む。踏み越えて、一匹の獣が現れた。
「大きな猫ですね……毛並みも立派です」
「あれは、たてがみと言う。
リントが、にゃあ、と、メルルも、にゃ、と声をかける。
おとなしくジゼルに従う
「あ、あんた達……本物の、魔女なのか……?」
「ええ。
ふと、返り血の赤い
「安心して下さい。契約相手をとり殺したりは、しませんよ」
マリリとクジロイを含めて、相変わらず、冗談を言った本人以外、誰一人として笑わなかった。
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