第467話 冒険者御用達の店
昼食を食べた後の午後は、ライトとレオニスそれぞれ別行動で分かれて出かける。
ライトは早速自分用の寝袋他の野営用品の調達、レオニスはディーノ村のクレアのところに行く用事があるのだ。
「レオ兄ちゃん、いってらっしゃーい。クレアさんにもよろしくねー」
「おう、ライトも買い出しに行くならラウルについてってもらえよ。お前一人で買い物してて舐められたり絡まれたりしてもいけないし、あいつも冒険者になったんだから冒険者用の道具を見て勉強するのもいいだろ」
「うん、分かったー」
レオニスを見送った後、ライトも昼食の後片付けをしてからラグナロッツァの屋敷に移動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ラウル、いるー?」
ラグナロッツァの屋敷に移動したライトは、空に向かってラウルの名を呼びかける。
ラウルは最近午後になると冒険者ギルドに出向くことが増えているらしいので、今屋敷内にいるかどうか分からない。とりあえずその名を呼んでみたライト。
程なくして、ライトの前にラウルが音もなく現れた。ああ、ラウルいてくれて良かったぁ、とライトは内心で胸を撫で下ろす。
「小さなご主人様、お呼びか?」
「あっ、ラウル!いてくれて良かった!今からいっしょに買い物行かない?」
「ン? 買い物? 何を買いに行くんだ?」
「えーとねぇ、実は……」
ライトはラウルに
「ほーん、エリトナ山ってのがどこにあるかはよく知らんが、ご主人様と二人で泊まりがけで行くってことはかなり遠い場所にあるんだな」
「そうなんだ。エリトナ山って、シュマルリ山脈の南東にあるんだって。山に囲まれた山だから、普通の人なら片道三日はかかるらしいんだよね」
「往復で一週間近くかかるってことか?」
ライトの話にラウルがびっくりしながら聞き返した。
「ぼく達なら片道一日半くらいで着くだろうって、レオ兄ちゃんは言ってたけど。それでも一日じゃ辿り着けないから、野営用に使う道具を買いに行きたいんだ」
「そういうことか。そしたら俺も、将来泊まりがけで出かける時用に道具を買っておくかな」
「うん、ラウルも冒険者になったもんね!」
「よし、俺もいつか遠征して幻の食材とかの大物を狩る時のために備えるとしよう」
レオニスの思惑通り、これを機にラウルも遠征用の道具を買い揃えることにしたようだ。
というか、遠征の目的が『幻の食材を狩るため』というのが如何にもラウルらしい。
だがここで、ふとライトが心配そうにラウルに尋ねた。
「あー、でもラウル、これから家庭菜園用の温室の資金も貯めなくちゃならないでしょ? 他のことにお金使って大丈夫なの?」
「ああ、金のことなら心配すんな。ポイズンスライム変異体の討伐報奨金も出たし。それに、こないだのネツァクでの砂漠蟹殻処理依頼な。あれでまた24000G稼いだからな」
「えッ、そんなに!?」
「冒険者として稼いだ金だ、将来の投資として遠征用の道具を買っても罰は当たらんだろう」
ラウルの目下の目標である、家庭菜園用の温室購入。まずはこのために貯金しなきゃならないんじゃないのか?とライトが危惧したのは当然のことだ。
だが、前日の砂漠蟹殻処理依頼でしっかりと稼いでいたラウルには無用の心配だったようだ。
ライトの方も、ラウルがそんなに稼いでいたとは露知らず、話を聞いてびっくりしている。
ちなみに24000Gの内訳は、砂漠蟹の殻一匹分につき800G、これを30匹分である。
これに加えて、ポイズンスライム変異体の討伐報奨金十万Gが冒険者ギルドから支給され、ラウルの口座に振り込まれている。
ラウルの温室購入計画は、思いの外早期に実現しそうだ。
「そっかぁ……冒険者になったばかりでそんなに稼いでるなんて、やっぱりラウルはすごいね!冒険者になって良かったね!」
「ああ。これも大きなご主人様と小さなご主人様のおかげだ」
ラウルがネツァクの砂漠蟹殻処理依頼で稼げるのは、レオニスに教えてもらった空間魔法陣という破格の収納力のおかげ。
そして、あの日『ラウルも冒険者になればいいのにー』というアドバイスをくれたライトのおかげ。先日のポイズンスライム変異体との戦いで運良く生き残れたのも、ツィちゃんという神樹の友との縁を繋げてくれたライトがいたからこそ。
レオニスやライトの助言のおかげで、今の自分がある。そのことをラウルは十分理解していた。
「そしたら今日は、将来ラウルもぼく達といっしょに遠征に出かけられるように、野営用の道具を揃えようか!」
「おう、いつでも使えるように今から準備しとかないとな」
ライトとラウルは意気揚々と買い物に出かけていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヨンマルシェ市場に来たライトとラウル。
ライトが買い物のためにこのヨンマルシェ市場に訪れたのは、実に久しぶりのことだ。
ちなみにラウルはヨンマルシェ市場にはよく買い物しに来るのだが、普段行くのは食品の店やペレ鍛冶屋くらいで他の店にはほとんど行ったことがない。
買い物に出かける前に、まずはレオニスとクレナにどの店に買いに行けばいいのかを聞いたライト。すると、二人とも『ジョージ商会』の名を挙げた。
二人が口を揃えて『冒険者御用達の店』とイチ押しするくらいだ、そこに行けば間違いないだろう。
「えーと……皆がオススメのジョージ商会ってのは、ここかな?」
「かなりでかい店だな」
クレナにジョージ商会の位置を地図に書いて教えてもらい、二人して歩いて行った先には四階建ての大きくて立派な建物があった。
入口も広く、冒険者と思しき人の出入りがかなり見受けられる。それだけでなく、普通の人々もお店に入っていく。
冒険者だけでなく、一般人でも使える日常品なども手広く扱っているようだ。
早速建物の中に入っていくライトとラウル。
店の中には、結構たくさんの人が買い物をしている。
クレナから聞いた話によると、一階は一般人でも使える生活雑貨、二階は衣類全般、三階と四階で冒険者達が使う道具を売っているらしい。三階は冒険者向けの雑貨、四階は武器防具類が幅広く取り揃えてあるのだとか。
現代日本で言うところの、デパートや大型ショッピングモールといったところか。
ライト達は階段を探し、三階に上がっていった。
三階の『冒険者用品売場』に辿り着くと、そこには一階よりもたくさんの人々がそれぞれ品物を眺めたり探したりしている。
彼ら彼女らの格好からして冒険者然としていて、ここが間違いなく冒険者向けのエリアであることが伺える。
「おおお……ぼく、こういうお店には初めて入るから、何か緊張するー!」
「俺もこの先何か使えるもんがあるかもしれんから、よく見て勉強しよう」
二人して、所狭しと並べられた様々な品々を見ていく。
干し肉や乾物などの日持ちする食品、洞窟内などで灯りを灯すためのランタン、虫除けの香り玉、包帯や絆創膏などの救急用品等々、いろんなアイテムがある。
中には『当店限定&イチ押し!美味しい回復剤シリーズ』なる物まである。そこには『美味しいエクスポーションと美味しいアークエーテルを売っているのは、当店だけ!』という、何とも魅力的な売り文句が書かれていて、非常に気になるところだ。
しかも『フルーツ味』『珈琲味』『ココア味』等々多数のフレーバーがあり、ラインナップもかなり豊富ときた。
通常のエクスポーションやアークエーテルが『普通に不味い青汁』なら、美味しい回復剤シリーズは『美味しい青汁』といったところだろうか。
もっともそれらが本当に美味しいかどうかは、実際に買って飲んでみないことには分からないが。
ちなみにその価格は各1200G。通常のものが800Gなので1.5倍という結構いいお値段である。
だが棚にはたくさんの種類と数が並べられていて、それを買っていく人も結構いるようだ。『当店イチ押し!』という売り文句は伊達ではないらしい。
そうしていろんな品を見ていると、テントや寝袋が置いてある宿泊用品エリアを見つけたライト達。
早速並べられている寝袋を見ていく。
「んー……何か大きいのばっかだなぁ」
「そりゃあな、基本大人用のが品数多いだろうな」
「女性向けのを買った方が早いかも」
冒険者向けの製品だけあって、やはり大の大人が使うことを前提とした商品展開が多い。子供向けのものはほとんどなく、女性向けと兼用扱いのようだ。
仕方なくライトは女性向けの寝袋を見ていく。
ピンク色や花柄等々、可愛らしい柄物が並ぶ。その中で最も無難な水色の無地のものを手に取るライト。
「身長150cmまでかぁ。これに毛布やタオルを詰めて使えばいいかな」
「そうだな、それが一番良いだろうな」
「ラウルも自分用に何か選んだの?」
「俺はこれでいいかな」
ラウルが選んだのは迷彩柄の寝袋。身長200cmまで対応の、大きなサイズの寝袋だ。
深く考えた様子もなく、値段とサイズだけ見て適当に選んだっぽいのに格好いい迷彩柄をチョイスするラウルに、ライトが微妙に悔しがる。
「いいなぁ、ラウルは格好いい柄を選び放題でさ……ぼくも早く大きくなって、格好いい柄の寝袋選びたい!」
「ン? 寝袋なんてどれも大差なくないか?」
「そんなことない!ぼくも迷彩柄とか黒とか格好いいの選びたい!」
「んー……まぁな、そしたらたくさん食べてたくさん寝て早く大きくなることだ」
ぷくー、と頬を膨らませて抗議するライトに、ラウルは小さく笑いながらライトを宥める。
「ところで小さなご主人様よ、寝袋の他にも何か要るものはあるのか?」
「テントとかシートとかランタンとか、基本的な野営用品はレオ兄ちゃんが全部持ってるから、とりあえずはぼくが使う寝袋だけ買えばいいって話だったよ」
「じゃあぼちぼち会計に行くか」
「はーい」
ライトとラウルはそれぞれに買う品を手に持ち、会計に向かっていった。
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久しぶりのヨンマルシェ市場の登場です。
冒険者御用達の店『ジョージ商会』で売っている各種道具。寝袋に関しては子供サイズのものは一切ありません。
サイサクス世界での冒険者登録は十歳から可能ということになってはいますが、成人前の低年齢層が泊まりがけの野営を行うという前提がないせいです。
遠征はもっと大きくなって、体格も良くなり体力がしっかりついてから行うもの、という不文律的なものが冒険者達の意識の中にあるのです。
というか、書いてる作者自身が気になってしょうがないことが一つ。『美味しいエクスポーション』とか『美味しいアークエーテル』って、本当に美味しいんですかね?( ̄ω ̄)
この手の『本来は不味いけど、美味しい味に仕上げました!』って商品って、どうもイマイチ信用できない気がする…( ̄ω ̄)…
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