第320話 セラフィックエーテルのレシピ作成

 レオニスが冒険者ギルド総本部で、冒険者仲間達相手に杖職人の情報収集をしていた頃。

 ライトはカタポレンの家で、セラフィックエーテルのレシピ作成に勤しんでいた。

 ライトの立てた本日の予定は、午前中にレシピ作成、昼になったらラグナロッツァのラウル達と昼食を食べて、午後からペレ鍛冶屋に出向く、というコースである。


「明後日からラグーン学園の三月期が始まるから、今のうちにできることはしとかないとなー」

「つーか、今日明日でもう冬休み終了とか早くね?何で長期休暇ってあっという間に終わっちゃうんだろう……」

「もう少しっつーか、もっとゴロ寝の寝正月したかったー!」


 このサイサクス世界で初めての冬休みを振り返りながら、ほとんどゴロ寝できなかったことにキーキーと悔しがるライト。

 確かにこの年末年始は、とんでもなく大忙しの日々だった。冬休み突入初日からマキシの里帰りのために八咫烏の里に泊まりがけの同行をしたり、プロステス領主邸にアップルパイを届けに行ったり。

 大晦日には、前世今世ともに人生初めての『餅拾い』なる面白珍妙な体験もした。


 そして、年が明けたら明けたで関係各所に新年の挨拶回りをしたり、セラフィックエーテルの作成のために素材採取に出かけたり。どれもこれも楽しい思い出ではあるが、壮絶に忙しい過密スケジュールな日々を送っていたライト。

 ラグーン学園に通い始めてから初めての長期休暇、ライトの冬休みは今日を含めてあと二日で終わろうとしていた。


「……ふぅ。ここでグダグダ愚痴っててもしゃあない。クエストイベント進めるために、セラフィックエーテルのレシピ作成しますか」


 いつものように、マイページ内のレシピコレクションからセラフィックエーテルの項目を開く。

 セラフィックエーテルを作るのに必要な素材は、全部で五種類。

 螢光花の花弁五枚、アークエーテル三個、エネルギードリンク二滴、聖魔の泉の湧水二個、暗黒茸の柄三個、である。


「花弁はむしり取るだけだからいいとして。暗黒茸の柄はさすがに下処理要るかなー」

「ラウルだって『料理の基本は下準備。下拵えを完璧にしてこそ、極上の味を引き出せるんだ!』って力説してたもんね!」


 ライトはそう言いながら、倉庫裏の解体作業場に向かう。

 ここは主にレオニスが森で大物を仕留めた際に、素材や肉などを分けるための作業を行うエリアだ。最近はあまり使っていないが、かつて銀碧狼のアルを一ヶ月ほどこの家で預っていた際にはレオニスが頻繁に使用していた。


 解体作業場には作業のための巨大なテーブルがあり、備え付けの道具入れには大中小様々なサイズの鉈やノコギリなどが収納されている。

 ライトは使いたい道具をいくつか選び出し、作業を開始する前にマスクをする。これは暗黒茸の胞子の吸い込み防止対策である。


 準備を整えたライトは、早速作業テーブルの上にアイテムリュックから暗黒茸を三つ取り出した。

 その大きさはライトと同じくらいの身の丈で、柄の部分もライトが両腕を回してやっと手の先が届くくらいの極太だ。

 だが、嵩張る見た目に反して重量はそこまで重くはない。これも茸という特質のせいなのか。


 作業テーブルに乗せた暗黒茸を、まずは鉈を用いて茸の笠と柄を切り分ける。笠は今回は使わないので、胞子が溢れないようにヒダ側を上に向けながらすぐにアイテムリュックに収納する。

 切り分け作業中にテーブルに溢れた若干の胞子は、小さな箒とちりとりで掻き集めて広口の瓶に収納してから、これまたアイテムリュックに仕舞い込む。ライトの記憶では、この胞子類も前世のゲームBCOにて交換所での交換素材に使われていた覚えがあるからだ。

 どのアイテムの交換で必要だったかまでは覚えていないが、魔物素材は有用なものが多いのでなるべくとっておくに越したことはないのだ。


 ちなみに前世の世界、地球では茸の胞子とは人間の肉眼ではっきりと捉えられる大きさではない。だがこのサイサクス世界の茸、特に魔物系の茸は特大どころの話ではない。超ビッグな巨大サイズなので、その分胞子も大きいのだ。

 その証拠に、作業テーブルの上に溢れ落ちた胞子は砂糖か塩の粒くらいの大きさだ。おかげでミニ箒やちりとりで掻き集めるのも楽ちん楽勝である。


 他の余分なものは全部仕舞い、作業テーブルの上には暗黒茸の柄三個だけが残された。

 この柄、ライトの胴体より一回りどころか二回り以上の太さがある。これを細かく切るのは一見大変そうに見えるが、そこは茸の柄だけあってそこまで硬くはない。

 手触り的には椎茸の柄くらいの柔らかさなので、非力な子供のライトでも簡単に鉈で切り分けることができた。

 もっとも、ライトの方も地虫の骨に相当する顎をペキパキと細かく割り砕く程度には力が強くなっているのだが。


 鼻歌交じりで暗黒茸の柄を鉈でザクザクと切り分けていくライト。切り終えた茸の柄は、全部大きな籠にいれていく。

 三個分の柄を全て切り分けたライトは、使った道具類を元の場所に仕舞ってから暗黒茸の柄入りの籠とともに家の中に入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「材料の下拵えは済んだから。次は【遠心分離】をかける作業だ」

「最近【遠心分離】の器も大きくなってきたし、スキルレベルがマックスになればビッグワームの大顎や暗黒茸の柄も下処理不要で投入できるようになるかも!」

「よし、頑張って早くレベルマックス目指そう!」


 外の解体作業場から自室に直行したライトは、張り切りながらも次の段階【遠心分離】作業に取り掛かる。

 螢光花からむしり取った花弁五枚、アークエーテル三本、魔法のスポイトで採取したエネルギードリンク、ポーション瓶に移した聖魔の泉の湧水二本、大きな籠に入った暗黒茸の柄三本分の細切れ。

 セラフィックエーテルを作成するのに必要な材料を、全て取り揃えたライト。満を持して【遠心分離】スキルを発動させた。


 ライトの目の前に、遠心分離用の大きな器が音もなく現れる。その大きさは、ライトが両腕を左右に広げたよりも少し小さいくらいか。

 それでも、一番最初に遠心分離を発動させた時にはバスケットボール大程度の大きさだった。それを考えると、二段階くらいは大きさが増しているようだ。


 この遠心分離の器の大きさは、ライトが呟いていた通りスキルレベルによって変化する。ちなみに今のライトの【遠心分離】のスキルレベルは3だ。

 スキルレベルが上がれば、器の大きさもそれに比例して大きくなるのは当然のことである。だが、レベルアップの恩恵は器の大きさだけに留まらない。遠心分離にかかる処理速度も短縮されるのだ。

 実際に最初は10秒ほどかかっていた超高速回転処理が、最近では8秒ほどに縮まっている。このままいけば、超高速回転処理も最終的には2秒とか3秒で終了してしまうようになるかもしれない。


 ちなみにどうやってそこまでスキルレベルを上げてきたかと言うと。暇を見てはエクスポーションやアークエーテルの濃縮をガンガン作っていたためだ。

 ようやくレシピで作れるようになったイノセントポーションはまだまだ量産はできないが、エクスポーションやアークエーテルまでなら倉庫にいくらでもあるのだ。これを活用しない手はない!という訳である。


 遠心分離の器に、セラフィックエーテルの材料をどんどん投入していくライト。

 全部入れ終えた後は、イノセントポーションのレシピ作成の時と同様に【遠心分離】スキルを一回かける。超高速回転する器を8秒見守れば、有効成分として取り出されたセラフィックエーテルとその他の水分に完全に分けられて完了だ。


 キラキラと光る淡い瑠璃色のセラフィックエーテルを小瓶に収納し、その他の水分も洗浄水として空の小瓶に吸い込ませていく。

 全ての作業を一通り終えたライトは、両手を上に上げながら歓喜の声を発した。


「よーし!これでセラフィックエーテルの完成でーーーッす!」

「この勢いでセラフィックエーテル五個作って、濃縮セラフィックエーテルも作っちゃおーっと!」


 小躍りしそうな勢いのスキップをしながら、再び解体作業場に向かうライトであった。





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 本日の更新は若干文字数少なめです。とはいえ、3400字弱はありますけども。

 最近は区切りの良いところが見つけにくいせいか、4000文字超えがデフォになりつつ拙作。初期の各話は3000字前後だったのですが……

 そのため、4000字を下回ると『あら、今日はちと少なめ?とか思われちゃうかも?』とかビクビクしてる作者であります><


 ていうか、某なろう様の方での話で申し訳ありません、最近気づいたんですが。

 各話の一番下にある、注意事項のさらに一番下の一文。

『小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。』

ってあるんですよねぇ…( ̄ω ̄)…

 え、そしたらナニ?4000字だと読了までに8分、5000字だと10分もかかっちゃうの!?Σ( ゜д゜)ウソーン!


 まぁ、本当にそこまで時間がかかるとしたら『一字一句ゆっくりと、じっくり丁寧に読み進めていった場合』だろうし、大抵の読者様はそこまで時間を費やしておられないだろうとは思いますが……1分1000字のスピードで読んでも、4分5分はかかる計算ですよねぇ。

 それだけ時間をかけて読んでくださる読者の皆様方に、改めて感謝です(_ _)

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