第319話 職人探し

「ところでさぁ、レオ兄ちゃん。ツィちゃんからもらった枝で何作る?」

「んーーー、そうだなぁ……普通に考えたら魔法使い用の杖が一番しっくりとは来るんだが……」

「レオ兄ちゃんの場合、魔法使えても杖は使わないもんねぇ。ぼくだってまだ杖を持てるようなジョブも持ってないし」

「そうなんだよなぁ。得物はこの大剣ひとつありゃ十分だし、ライトに魔法使い用の杖はまだ早過ぎるし……」


 ユグドラツィから枝を分けてもらったはいいが、さてそれを何に加工すべきか。神樹のもとから帰宅する道すがら、のんびりと歩きつつライトとレオニスは大いに悩んでいた。


「とりあえず、ぼくでも使える小さめのワンドを一本作ってもらおっかなー」

「そうだな、ライトもかなり魔力高い方だしな。将来魔職系のジョブもたくさん出てくるかもしれんから、今のうちに一本作っておいてもいいかもしれんな」


 ワンドとは魔法使い用の杖であるが、ここではガッツリ大きい杖ではなく指揮棒程度のシンプルな短い棒状の杖を指す。

 30cm程度の棒状ならば、子供のライトでも手に持てるし持ち運びも便利だ。それに、ライトが大きくなってからも予備装備として長く使えそうでもある。


「レオ兄ちゃんはどうする?」

「んー、武器として持つならメリケンサック、かなぁ。でもなー、ツィちゃんの分体で魔物を直にボコるってのもなぁ」

「うん、それはちょっとどうかと思うよ……」

「だよなー」


 完全脳筋腕力第一主義のレオニスならば、拳に嵌めて打撃力を増幅させるメリケンサックやナックル系の武器は確かに最適だろう。

 だが、それにユグドラツィの分体を宿すとなると話は別だ。もし万が一、分体で魔物の体躯をボコボコにする衝撃や感触が本体の方に伝わったりしたら。それではあまりにもユグドラツィが可哀想過ぎる。


「やっぱり指輪とかペンダントモチーフが一番無難じゃないかなぁ。それかリング状のビーズにしてチョーカー風にでもするとか」

「そこら辺が妥当か。こうして改めて考えてみると、木製の装備品ってなかなか難しいもんだな」

「だねぇ。ラウルやマキシ君とかなら木刀でもいいと思うけど」


 木刀。それはRPGゲームや冒険ファンタジー世界などでは一番最初にお世話になる『こん棒』に毛が生えた程度の初級武器だ。

 だがそれを神樹の枝で作るなど、贅沢にも程がある。


「あー、そしたら俺用に一本、ラウルの護身用に一本、計二本木刀作るか」

「マキシ君には木製ペーパーナイフなんかがいいかもね」

「そうだな、そうするか。つか、ラウルなら『包丁の柄を全部交換したい!』とか言い出しそうだな」

「あーそれラウルなら絶対に言いそうwww」

「だろだろ?あいつなら絶対そう言うよな!」


 料理に欠かせない包丁、その柄は木製で作られているものも多い。普段ラウルがどの包丁を愛用しているか分からないが、包丁だけでも三桁は所持している!とラウルは豪語している。

 その中には木製の柄の包丁もかなりの割合であるだろうし、もし将来オリハルコン製の包丁をオーダーメイドするなら、柄は絶対にユグドラツィの枝で作るに違いない。


「じゃ、とりあえずアクセの方はまたカイ姉達に相談してみるか。どの道来週またアイギス行く予定あるし」

「ワンドや木刀の方はどうする?レオ兄ちゃんは良い杖職人さんとか知ってる?」

「いや、俺はもう武器防具を新調しなくなって久しいからなぁ……そこら辺よく分からないんだよな」

「木刀くらいなら自作でもいいけど、ワンドはさすがにちゃんとした職人さんに作ってもらいたいなぁ」

「だな。杖の性能強化のために、宝石もいくつか装飾に入れた方が絶対にいいし」


 ライトの質問に、レオニスが残念そうに分からないと答える。

 今のレオニスは、手持ちの装備品の手入れは全てアイギスに任せているので、他の職人のことはあまりよく分からないらしい。


「そしたら、同じ職人のカイさんやペレ鍛冶屋さんに聞いてみるのもいいかもね。あるいは冒険者仲間さんに評判の良いお店を紹介してもらうとか」

「それが一番良さそうだ」

「じゃあレオ兄ちゃんはまず冒険者仲間さん達に評判聞いてから、アイギス行った時にカイさんにも聞いてみてね。ペレ鍛冶屋さんの方は明日ぼくが聞いてくるから」

「おう、頼んだぞ」


 まずは情報収集に努めることから始めることに決めた、ライトとレオニス。

 そこでライトがふと思い出したようにレオニスに言う。


「あっ、レオ兄ちゃん!枝の加工はもう少し先になると思うけど。使わずに捨てられそうな小さな枝や葉っぱは、加工に出す前に全部先に切り落としてぼくにちょうだいね!」

「ん?そりゃもちろん構わんが……小枝や葉っぱなんて何に使うんだ?」

「そりゃもちろん何かに使うよ!だって神樹のツィちゃんの枝だもの、葉っぱ一枚だって貴重でしょ?」

「んーーー、そう言われりゃ確かにそうだが……」

「そんな貴重なものを捨てるなんてもったいない!ぼくが活用するから、絶対にとっといてね!」

「お、おう……」


 目をキラッキラに輝かせながら、鼻息荒くフンスフンスと意気込みレオニスに迫るライト。

 ライトのその勢いに、レオニスはタジタジとするばかりだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日の朝。

 レオニスは早速ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部に向かい、顔馴染みの冒険者仲間達に声をかけた。


「よう、久しぶり」

「お、レオニスの旦那じゃねぇか。新年早々もう仕事始めんのか?」

「いや、ちぃとお前らに聞きたいことがあってな」

「レオニスが俺達に聞きたいことがあるだと?こりゃまた珍しいこともあるもんだ」


 何やら珍しげな話題に、レオニスの周囲にどんどん人集りができていく。


「女の紹介か?あいにく俺達ゃそんな良い女の伝手はねぇぞ?」

「うるせー。女に不自由なんざしてねぇよ」

「くーッ!俺もそんな台詞言ってみてぇー!」

「おう、いくらでも言ってくれ。言うだきゃタダだ」

「お前なぁ!有名な諺知らんのか!?タダほど高いものはないんだぞ!」

「それとこれは意味違くね?」


 今日もレオニスは冒険者仲間に大人気のモテモテである。

 唯一惜しむらくは、レオニスを囲む冒険者仲間全員がむさ苦しい男達ばかりなことか。


「そんなことよりだな。お前らのオススメの杖職人っているか?材料持ち込みでワンド作りたいんだ」

「杖だと?レオニスが杖を欲しがるなんて、さらに珍しいこともあるもんだな」

「明日は雨だな?杖の雨が降るんだな!?」

「んな訳あるか」


 このサイサクス世界は、以前からいろんな雨が降る予想をされていたが。ドラゴンの卵、槍に続き明日は杖の雨が降るらしい。

 だが、これらを馬鹿げた話と一蹴してはいけない。何しろ大晦日に聖なる餅が降る世界なのだ、それら異物の雨も案外本当に降るかもしれない。一応レオニスは速攻で否定してはいるが。


「俺のじゃなくて、ライト用な。良い素材が手に入ったから、子供でも扱えるワンドをひとつ作ってやりたくてな」

「ああ、そういうことか。なら納得だ」

「そしたらやっぱファングのユリウスがいいんじゃね?」

「だな。特に魔法使い達はこぞってファングのユリウスの杖を欲しがるもんな」

「ファング、か……」


 冒険者仲間達が絶賛するのは、ファング村のユリウスという杖職人。確かにファング村は『職人の街』として世界に名を馳せる街だ。剣はもちろん様々な武器や各種防具の超一流職人がおり、武具に関することならば他の追随を許さない街である。

 そしてそれは、奇しくもラグナ教で魔の者がいた支部のある村だった。


「俺もファングの職人が作った剣が欲しいなー」

「それには相当稼がにゃならんなぁ、レオニスの旦那ほど稼ぎがありゃ楽勝だろうが」

「違ぇねぇ、俺らも頑張らなくちゃな」


 レオニスを羨むことはあっても、決して妬んだり憎悪の目を向けることのない冒険者仲間達。そんな気の良い彼らだからこそ、レオニスも長く付き合ってこれたのだ。


「お前ら、教えてくれてありがとうな。今夜はこれで酒でも飲んでくれ」

「おっ、レオニスの旦那太っ腹だなぁ。ありがたく頂戴するぜ!」

「よーし、今夜はレオニスの奢りで宴会だ!夜九時に隣の酒場集合な!一秒でも遅れて乾杯に参加しなかった奴は不参加として奢りから外すからな!」

「「「おーーーッ!!」」」


 その場にいた数十人の冒険者達が、拳を高々と挙げて歓喜に沸く。

 レオニスが冒険者仲間に渡したのは1万Gの金貨一枚。日本円にして10万円相当である。

 情報とてタダではない。知りたい情報こそむむしろ金を払って得るものだ。

 なのに特に見返りを求めるでもなく、快くレオニスの知りたいことを教えてくれた冒険者仲間達。その感謝の意も込めた情報料として、レオニスは渡したのだ。


「おいおい、今渡した金を超えた分は割り勘でやってくれよ?間違っても俺の名前でツケにすんなよ?」

「おおッ、その手があったか!!」

「おいコラ、その手もどの手もあるか。何ならお前の溜まっているツケ、氷蟹フルコース30人前分を今すぐ奢らせるぞ?」

「待て待て待て待て、また人数増えてんじゃねぇか!つか、俺は氷蟹フルコースを奢る約束をした覚えはねぇ!俺は明日別の街に移住するぞ!」

「明日か?今すぐじゃねぇのか?」

「今日の奢りの宴会で飲み食いしてからだ!」

「ふざけた野郎だwww」

「「「ワーッハッハッハッハ!!」」」


 冒険者ギルド総本部の大広間中に、レオニスと冒険者仲間達の陽気な笑い声が響き渡る。

 気の置けない仲間達との楽しくも心地良い会話に、レオニスもまた心の底から笑っていた。





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 神樹の枝をゲットした後は、その使い道や加工品を決めねばなりませんが。文中でも言及した通り、木製で身に着けられるものって案外ないんですよねぇ。

 やはり木というものは家屋や家具といった、衣食住の『住』の部分が大半を占めるような気がします。というか、神樹の枝を一番活用できて、最も喜びそうなのは間違いなくラウルですな。


 とはいえ、ツィちゃんをいろんなところに連れてってやる!と約束したので、何が何でも冒険者向けの持ち運びしやすいアイテムにせねば!

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