第108話 アイギス三姉妹勢揃い
八咫烏マキシへの対処は、まず魔力吸収用の足輪を用意することが必要となり、その日はひとまず話を終えた。
ベッドに再び結界を張り、四隅に魔石を置いて魔力を充満させる。
ラウルがそれらの支度を整えながら、ベッドの上で眠り続けるマキシに語りかける。
「マキシ……もう少し待っててくれな」
「お前がどんなに辛くても、俺がいるから」
「起きたくない、目を覚ましたくない、なんて悲しいこと、思わないでくれ……」
マキシの頬をそっと撫でながら、独り言のように呟くラウル。
そんなラウルの反対側の手を、ライトは無言で引き寄せる。
ラウルは名残惜しそうにベッドの方を時折振り向きつつ、四人は部屋を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、早速レオニスは足輪の注文をしにアイギスに向かった。
この日は土曜日だったので、ライトもレオニスとともにアイギスの門を潜る。
アイギスには店番のメイがいて、ライトとレオニスを出迎えてくれた。
「いらっしゃいませー。……って、なーんだ、レオじゃない」
「なーんだとは何だ、メイ」
「メイさん、こんにちは!」
「あらー、ライト君!よく来てくれたわね!いらっしゃい!」
「メイ、お前……俺への態度と違いすぎやしないか?」
「んなもん気のせいよ、気のせい。ささ、ライト君、こっちにいらっしゃい。今日は是非とも姉さん達に会っていって!」
レオニスの文句などどこ吹く風のメイ、一瞬にして上機嫌になりライトの背に手をやりながら奥の作業場に連れて行く。
ライトはメイに導かれるまま、店の奥に移動していく。
「カイ姉さん、セイ姉さん!ライト君が来たわよ!」
メイが嬉しそうに、二人の姉に声をかける。
作業場で仕事をしていた二人の女性が、メイの声を受けて振り向いた。
「まぁ、貴方がメイの話していた、ライト君?」
「グラン君とレミちゃんの子の、ライト君?」
二人の女性は作業していた手を止め、ライト達のいる方に揃って近づいてきた。
「ああ、本当にグラン君とレミちゃんの面影があるわぁ……」
「私はカイ。このお店を経営している三姉妹の長女、一番上のお姉さんなの。ライト君、よろしくね」
ライトの頭を優しく撫でながら、挨拶をするカイ。
服こそ動きやすさを優先した、素っ気ない生成りの無地の上下にエプロン着用の姿だが、メイと同じ淡い紫色の髪を後ろでひとつに結わえており濃い紫の瞳が印象的な女性だ。
人の中で一番背丈が低く、顔立ちも二人より少しだけふっくらしている。一番年上なのに一番若く見える、いわゆる童顔である。
カイの横に立っていたもう一人の女性が、待ちきれんとばかりにライトに声をかける。
「カイ姉さん、次は私よ!」
「ライト君、私はセイ。アイギス三姉妹の真ん中の次女よ、よろしくね!」
「ああ、でも本当に……髪と目元はレミちゃん似で、鼻と口元がグラン君ね!」
ニコニコとした笑顔で、ハキハキとした喋り方のセイ。
服装はカイと同じだが、すらりとした身体つきで三姉妹の中で一番背が高いようだ。
淡い紫色の髪はメイとは反対側の右サイドテールで、瞳は三人とも同じ濃い紫色。顔も小顔でスッキリしていて、目元が若干つり目だ。先程のハキハキした喋り方と相まって、一番快活な印象を受ける。
カイとセイ、二人からの自己紹介を受けて、ライトも改めて挨拶をする。
「初めまして、こんにちは。ぼくはライトと言います。先程仰っていた通り、グランとレミの息子です」
「その縁で、今はレオ兄ちゃんといっしょにカタポレンの森で暮らしています」
「先日は、こちらのお店でラグーン学園の制服を購入させてもらいました。あっ、お金を出して買ってくれたのはレオ兄ちゃんですが……」
「今日もこちらで作っていただきたいものがあって、レオ兄ちゃんといっしょに来ました」
「またいろいろとお手数をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
ライトが二人に向かって、ペコリと頭を下げる。その下げた頭を上げると、カイとセイの二人は感心したようにライトを見つめていた。
「はぁぁぁぁ、メイから聞いていたけど、ライト君て本当に賢くて礼儀正しい子ねぇ」
「そうね、さすがグラン君とレミちゃんの子ねぇ。ライト君は、あの二人のいいところをたくさんもらったのね」
セイは感心しきったように、カイは嬉しそうににこやかに、それぞれがライトという個人への感想を漏らす。
カイに『さすがグランとレミの子』と言われたライトは、自分を通して両親が褒められたことに、誇らしさと喜びを感じていた。
「ライト君、私達に作ってもらいたいものって、何かしら?」
ライトの言葉に、カイが優しい口調で問うた。
ライトの後ろに控えていたレオニスが、その質問に答える。
「それなんだがな、カイ姉。今ここに、ヒヒイロカネの在庫はあるか?」
「ヒヒイロカネ?どうだったかしら……セイ、ちょっと見てきてくれる?」
「了解ー」
カイに頼まれたセイが、作業場のさらに奥の部屋に向かっていった。
しばらく待っていると、セイが手に何かを持って帰ってきた。
「ヒヒイロカネ、ほとんど在庫なかったわ。今あるのはこれだけ」
セイがレオニスに向けて、手のひらを差し出して見せた。
手のひらの上にほんの数粒、小指の爪の先よりも小さい極小の金属の塊が乗せられている。
その金属は、小粒ながらも赤く美しい光沢を湛え、表面が蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめいて見える。
あまりにも神々しい神秘的な輝きに、ライトは思わず息を呑む。
だが、ライトはこのヒヒイロカネという鉱物に見覚えがあった。
「合金で良ければもう少し量は増えるけど、どうする?」
「いや、フェネセンから『出来れば純度高めで』と言われててな」
「まぁ、フェネセン閣下からの注文なの?」
「ああ、今ちょっと訳ありでな。魔力吸収に用いる、俺の親指くらいの大きさの輪状の魔導具が10個必要でな」
「うーん、10個ねぇ……それじゃ全然足りないわねぇ」
事情を聞いたカイが、困ったような顔をして考え込む。
「そしたら俺が、どこかの鍛冶屋か武器屋あたりでヒヒイロカネを買い付けてくるか?」
「そうねぇ……でも、ヒヒイロカネ自体がものすごく稀少性高いから……製品として出回ってるものは、ほとんどないんじゃないかしら?あっても多分家宝扱いされて、結果さらに市場には出てこない代物だから」
「はぁー、やっぱりそうなるか……」
眉を顰めながら下を向き、右手で頭をガリガリと掻くレオニス。
「ごめんなさいねぇ、レオちゃんの力になれなくて」
「いや、カイ姉のせいじゃないから気にしないでくれ。……ていうか、カイ姉、その、何だ、えーと……」
「ん?レオちゃん、どうしたの?」
急に口ごもるレオニスに、カイが不思議そうな顔をしながらレオニスに聞き返す。
レオニスは、少しだけ困ったような、恥ずかしそうな顔をして切り出す。
「その、レオちゃんての、何とかならんかな……俺ももういい歳こいた大人だし……」
カイはしばらくきょとんとしていたが、ようやくレオニスの言いたいことが理解できたのか、ハッ!とした顔をする。
「レオちゃん……とうとう反抗期が来たの?」
「ぃゃ、反抗期って歳は俺もうとっくに過ぎて……」
「そっかぁ、もうレオちゃんて呼ばれるのは恥ずかしいかぁ……寂しいけど、仕方ないよねぇ……私にとっては、いつまで経っても可愛いレオちゃんなんだけど……そっかぁ……ごめんねぇ」
「あ、いや、あの、カイ姉?えっと、その……」
しょんぼりとして一気に落ち込むカイに、レオニスは慌ててフォローしようとする。
だが、そんなレオニスを強烈な視線でギロリンチョ、と睨みつける人がここに二人。
「……レオ。あんた、うちのカイ姉さんに何要らんこと吐かして泣かそうとしてやがんの?」
「あんまふざけたことばかりしてっと、出禁にするよ?」
セイとメイ、二人がレオニスを睨みつけながら、ドスの効いた声で詰め寄る。
この二人、どうやらレオニスのグランに対するブラコン同様、カイへの敬愛という名のシスコン度数が壮絶に高いようだ。
「いや、その、すまん、悪かった」
「謝るべきは私達ではない」
「!!カイ姉、さっきはごめん!すまなかった!俺のことは、これからも好きなように呼んでくれていいから!」
腕組みして仁王立ちするセイとメイ。今にも
レオニスは慌ててカイの方に向き、頭を深く下げて謝った。
「セイ、メイ、そんなに怒らないで?姉さん、大丈夫だから」
「レオちゃんも、ごめんなさいね。セイとカイを許してやって?」
「貴方の呼び方も、これからちゃんとしたものに変えるから……って、何て呼べばいいのかしら……レオ、君?」
カイはおろおろとしつつも、妹二人を窘めレオニスにも謝る。
「カイ姉さん、そんなやつに気ぃ遣わなくていいのよ!」
「そうよ!レオなんてね、レオ
怒り心頭の妹達を宥めようとするカイと、未だ怒りの冷めやらぬ様子のセイとメイ。
三人の様子を見ていたライトとレオニスは、半ば呆然としつつその光景を見ていた。
「レオニンジン……レオッペケペー……そっちのが
「レオ兄ちゃん……カイさんからの呼び方の件は、もう諦めた方がいいと思うよ……」
「うん……俺もう一生、カイ姉からの呼び名は『レオちゃん』でいいや……カイ姉以外許さんけど」
遠い目をしながら、もはや諦めの境地に至るレオニス。
レオ兄、やっぱりアイギス三姉妹にはどう逆立ちしても勝てないんだな……
全く勝てない現場を目の当たりにしたライトは、心の中でレオニスに合掌するのであった。
====================
名前だけ先に出ていた、アイギス三姉妹の長女カイと次女セイの初登場回です。
綺麗なお姉さんキャラが増えて嬉しいー♪
でも、カイ姉さん以外の二人はとても気が強そうだ……
そしてこの世界は、ブラコンやシスコンと言う名の家族愛がとても強い世界のようです。仲良きことは美しき哉。
つか、よくよく考えてみると今のところハーレムどころか恋愛要素など全く皆無にして微塵もないので、家族愛や友情を描くより他ないという……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます