短編小説集

水晶

水晶のフレンズの話

「ここは…?」


 目を開いてあたりを見渡す。まだぼやける視界から察するにここはおそらく洞窟の中だ。


 周りには透き通った結晶がいくつか見える。


「すい…しょう…?」


 いたるところから飛び出ているその結晶が何かだけははっきりと分かった。どうしてだろう。


 壁に手を当てて立ち上がり、慣れない体を動かす。どこかに自分の姿を見るものが無いか歩き回る。


 視界もはっきりしてきたころ、水たまりを見つけた。のどが渇いた、水が飲みたい。


 しかしそこは壁から離れないと届かない場所にあった。壁伝いに歩くのがやっとだった私があんなところまで歩けるのか。


「行かなきゃ。」


 そう思って壁から手を放し、一思いに歩みを進める。


 ふらつく足でなんとか水たまりに辿り着く。地面に膝をつき、手で軽く水をすくって飲む。そして水たまりの水面を覗き込む。


 そこには水面に映った自分がいた。


 灰色がかった髪に青い瞳、頭についているふたつの水晶。いったいどうなっているの。


「私はいったい…。」


 そのとき背後で何かが動く気配を感じた。


 そちらに目を向けるがそこには何もいない。長居してはいけないような気がする。


「出口を探さなきゃ。」


 立ち上がり、もう一度あたりを見渡す。かすかに光を感じる道があった。


 その道に向かって歩き出そうとした時、背後から何かに押されて転んでしまった。

体をひっくり返して背後を確認する。


 そこには一つだけ目が付いた丸い物体が浮かんでいた。


「なにこいつ…。」


 その奇妙な物体は自立して動き、その目で私を凝視していた。


 そしてさっきと同じように体当たりしてきた。横に転がってそれを避ける。


 すぐさま立ち上がってその物体を見る。


 すでにこちらに攻撃する態勢に見えた。案の定体当たりしてきた。


 まだ立って動くのは慣れないけどやるしかない。どうにかして退けないと多分私はここで力尽きる。


 でもどうやって倒せばいいの?


「念じなさい。」


 脳内に響き渡る声。周りにはこいつ以外何もない。いったい誰が私に話しかけているの?


「あなたは誰?」

「私のことは構いません。今はそいつを倒すことに集中するのです。」


 そんなこと言われたって避けるので精いっぱいなんですけど。そもそも念じるって何を?


「鋭く尖った結晶を想像するのです。」


 鋭く尖った?うまくイメージは湧かないがやらないとどうにもならない。


 言われた通りにイメージしてみた。すると私の手に想像したとおりの先端がとがった細長い結晶が生成された。


 どうして?


 その油断の隙に攻撃をくらってしまう。後ろに飛ばされてしりもちをつく。


「痛っ」


 この結晶でいったいどうしろって言うの?


「投げるのです。」

「投げるってこの物体に?」


 私に体当たりしたときの反作用で今は距離がある。それにまだこの体に慣れてないのに投げられる気がしない。


「早くしないとまた攻撃されてしまいますよ。」


 かなり体が鈍ってきている。次に攻撃をくらったら私はもう動けなくなる。やるしかない。


「もうどうにでもなって!」


 結晶の先端をその物体にめがけて投げる。その結晶は思っていたよりもまっすぐ、そして素早く飛び、その物体の中心を貫通して壁に突き刺さった。


 そしてその物体は浮遊力を保てなくなったのか地面にゆっくり落ちていき、地面と触れた数秒後にはじけ飛んだ。


「倒したの…?」

「おめでとう。」


 疲労がどっと来る。生きているだけ良かったとは思うがしばらく動けそうにない。

その間に話しかけてきた何かの詳細を探ることにしよう。


「ありがとう。あなたはいったい誰なの?」

「それはまたあったときに教えてあげましょう。とりあえず君は今すぐここから脱出したほうがいい。」


 まだ動けないというのにそんな無茶言われたってできないよ…。


「早くしないと他のセルリアンが来てしまう。外に出れば安全ですから。」


 さっきの物体はセルリアンと言うのか。それがまた来る?そんなの耐えられない。


 しょうがない、無理やりにでも出口に向かうしかない。


 立ち上がって光が感じられる道に歩みを進める。さっきの戦闘のおかげで体が痛むけどがんばって歩かなくてはならない。


 壁伝いに歩みを進めていくとその道は予想通り外につながっていた。でももう力尽きる寸前だった。


 死力を尽くしてなんとか外に出る。


「良かった…これで安…心…。」


 限界が来たのだろう。視界が闇に覆われそのまま意識を失う。


_____


「洞窟の前に倒れているフレンズがいた?」


 そんな報告が私の耳に入ってくる。


「あそこの洞窟は危険な場所だからフレンズは間違えて入らないように立ち入り禁止の看板を立てていたはず。」

「それが見たことないフレンズで…」


 新しく生まれたフレンズ?それなら無理もない、字もわからないだろうから。


「分かったわ、ありがとう。」


 報告に来たパークスタッフが部屋から出るのを確認してミライに連絡を取る。


「はい、ミライです。どうかなさいました?」

「例の洞窟の前でフレンズが倒れているっていう報告があったの。行ける?」


 ミライは少し間を空けて答えた。


「分かりました。でもいったいなんでそんなところに近づいたのでしょうか。」


 当然の疑問、それもそうだ。あの洞窟はセルリアンがたくさん出るから近づかないようラッキーを通してみんなに伝えてある。


「新しいフレンズらしわ。だから知らずに中に入って逃げてきたのかも。」

「新しいフレンズさんですか!?いったいどんな子でしょうか、早速行ってきますね!」

「あ、ちょっと。まったくもう、気を付けてねくらい言わせなさいよ。」


 ミライは新しいフレンズのこととなるといつもこうだからしょうがないのだけれども。


 危なっかしいところがあるから注意してほしいのだけれど。無事を祈るしかないか…。


_____


 フレンズさんが倒れているとは聞きましたがこの子はいったい何のフレンズさんなんでしょうか…。


 フレンズさんに必ずある特徴が見当たらない。しいて言えば頭に水晶がついていることくらいでしょうか。


 それなら水晶のフレンズさんということでいいのでしょうか。でも無機物がフレンズ化する現象は前例がありませんし…。


 考えてもだめです!とりあえず保護しないと。


 助っ人としてライオンさんも呼んできましたしね。


「ライオンさん、お願いできますか?」

「まかせて~。」


 ライオンさんが水晶のフレンズさんを持ち上げてスタッフカーに運んでくれた。


「ありがとうございます。」

「いいよいいよこれくらい、また何かあったら教えてね~。」


 そう言ってライオンさんは歩き去っていく。それを見届けてスタッフカーにエンジンをかけ、治療施設のあるセントラルに向かう。


_____


 目が覚めるとそこは病室のようなところだった。


「目が覚めましたか?」


 緑髪でポニテの方にそう聞かれる。


「ここは…?私は洞窟を出たところで気を失ったはず…」

「助けたんですよ。私はミライです、よろしくお願いしますね。」


 笑顔で自己紹介をされた。


「助けてくれてありがとうございます。私は…私はなんでしょうか。」


 答えは分からない。あの洞窟で話しかけてきた何かはそれを知っていそうな口ぶりだった。


「分からないならそれでいいんですよ。我々も今調べているところです。」


 招待も知らないまま洞窟から脱出したんだ。この体になれたらお礼と一緒に名前くらい聞いておきたい。


「あの、ここはどこなんですか。」

「ここはフレンズの皆さん用の病院ですよ。」


 違う、聞きたかったのはそういうことじゃなくて…。どう説明したらいいんだろう。


 考えあぐねているとミライさんはそれを察したのか答えてくれた。


「あぁ、ジャパリパークです。動物がヒトの姿となって仲良く暮らしている場所です。」


 ジャパリパーク…か。


「私もみんなと仲良くなれるのかな。」

「なれますよ、きっと。」


 一番初めに仲良くなるのは洞窟で話しかけてきた何かがいいな。


 体を起こそうとして痛みが走る。


「まだ動いちゃだめです。もうしばらくはここで休んでいてください。」


 そういうことならしばらく厄介にことにしよう。


 これからの日々が楽しみだ。

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短編小説集 水晶 @suisho221

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