異世界バレンタイン~旅立ちの勇者と赤毛の少女~

夢春

旅立ちの勇者と赤毛の少女

「さーて、どんな子とペアを組もう」

 はじまりの町を探索する。

 町はバレンタインムードでにぎわっていた。

 今日は、バレンタイン限定クエストが開催される。

 男女ペアが参加の条件だ。

 クエスト内容は、町に入り込んだスライムの討伐。

「せっかくだから、可愛い子と組みたいよな」

 辺りを見まわすが、レベルの高い子は既にペアを組んでいる。

「くそぉ出遅れたな……おっ!」

 木陰から同じように辺りを見まわしている女の子と、目が合う。

 女の子は、さっと身を隠した。

「よっ」

「ひゃっ!」

 木陰をのぞきこむと、女の子は悲鳴を上げた。

「ひどいなー。そんな驚かなくてもいいだろ」

 髪をふたつ結びにした赤毛の少女だった。

 涙目で見つめてくる。

 か、かわいい。

「ごめん、ごめん。ぼくが悪かった。キミ、ひとりかな?」

 少女は、こくこくと頷く。

「よかったら、ペア組まない?」

「あ、あのぅ、わ、わたし」

 恥ずかしそうに、もじもじしている。

「これっ!」

 少女はチョコを差し出してきた。

「えっ、くれるの?」

「たべてくれる?」

 この世界に来て、女の子から物をもらうのは初めてだった。

「もちろんだよ。うん、おいしい」

 正直不思議な味だったが、大事なのは気持ちだ。

「よかったー」

 少女のスカートの下から、透き通った液体が漏れ出てくる。

「ちょ、ちょっと!」

 突然の出来事に、どうしていいかわからない。

「で、出てる。出ちゃってるよ!」

「ん?」

 少女が自分の下半身を見る。

「あっ!」

 少女の顔が青ざめる。

「うれしくて、つい……デチャッター」

 目、鼻、口、耳。

 少女の穴という穴から、透き通った液体が流れ出した。

「がぁ、あああ、あああああああ」

 そして、ぼくの体からは赤い液体。

 うめきながら地面を転がる。

 熱い、体が熱い。

「これで、おひっこしができる」

 視線の先に、赤毛の少女の皮が落ちていた。

 声は、地面を這う透明な液体から聞こえてくる。

 耳元で声がした。

「おじゃましまーす」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界バレンタイン~旅立ちの勇者と赤毛の少女~ 夢春 @zonbi19

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ