第3話 ちょっとどころではなかった長いプロローグ3

 だが、ここからが思いのほか難航した。


 念願の生涯後見制度第二種資格を取得し、実務経験期間が22ヵ月を過ぎて後見人となる資格の、いわば“仮免”を手に入れてから、依里子は、厳冬の雪の中も暑い夏の盛りも、仕事の合間に寸暇を惜しんで後見人マッチングセンター、通称『後見マッチ』に通い詰めた。

 生涯後見人は、“職業”ではない。他人の人生に生涯に渡り深く関わる立場になる者であり、そのためには契約の締結が不可欠となる。かくも重要な契約を結ぶのであるから、ただの職業探しのようにウェブで簡単に申請など以ての外、専用の窓口で然るべき手続きを取るべきだ―。

 もっともらしい某政治家の主張により作られた窓口は、地域差があっては不公平ということで発足当初からいきなり全国100ヵ所以上設置された。当然、そこに勤める職員もかなりの人数になり、

『どう考えても、利権が絡んでいるよね』

 と、揶揄されることが度々であった。


 まあ、そのことは、依里子にとっては知ったことではない。とはいえ、このような決まりがあるがためにせっせと窓口通いを続けなければならないことには、些か思うところがある。


 とにかく、いつ“優良物件”が出るがわからないし、出たら出たで、窓口で対象者の代理人との面接のための登録手続きをしなければならないのが厄介だ。この手続きができるのは、1案件につき10名まで。つまり、早い者勝ちだ。良い物件があった! と思ったらすでにその10人の枠が埋まっていて、あのときもう少し早く訪れていたら、と、後々まで悶々としたことも一度や二度ではない。一度などは、窓口の職員が登録手続きに時間を食ってチャンスを逃したりした。散々ああでもないこうでもないと書類作りに手間取り、ようやく端末に情報を入力した揚句、

「あ。たった今、10人目の登録があったようです。残念ですが…」

 と、さしてすまなそうでない顔で言われ、あのときはさすがに一気に血圧が上がるのを感じた。あれは悔しかった―。そんなわけで、チャンスを逃さないよう、できる限り、ひたすら窓口に通い詰めることにした。


 そんな生活が、もう1年以上続いている。とはいえ、待てば海路の日和あり―。

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